ドイツ・エネルギーシフトの柱、風力発電の危機とは | EnergyShift編集部

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 ドイツ・エネルギーシフトの柱、風力発電の危機とは

ドイツ・エネルギーシフトの柱、風力発電の危機とは

EnergyShift編集部
2020/04/10
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激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第19回

2030年までに再生可能エネルギーが消費電力に占める比率を約65%に高めることをめざすドイツ。その柱は、陸上風力発電だ。しかし今この国の風力発電業界は、未曽有の危機に瀕しており、「このままでは再生可能エネルギー拡大の目標を達成できない恐れがある」という声すら出ている。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏がドイツ風力発電の最前線をレポートする。

2019年の新規設置台数・新規設備容量が、半減。

連載第12回で、ドイツの陸上風力発電が危機に瀕していることを紹介した。その後、風力業界の危機は深刻さを増している。

今年(2020年)1月28日にドイツ風力エネルギー連邦連合会(BWE)のヘルマン・アルバース会長が記者会見で発表した内容は、衝撃的だった。2019年にドイツで新しく設置された風力発電装置の数は、わずか325基。これは2018年(743基)の半分以下だ。設置台数が最も多かった2002年(2,328基)に比べると、86%の減少である。2017年(1,792基)と比較すると、いかに急激に落ち込んできたかがわかる。

また2019年に新設された陸上風力発電装置の容量、つまり新規設備容量は1,078MWで、前年(2,402MW)の半分以下となった。新規設置台数、新規設備容量とも、2000年にドイツ政府が再生可能エネルギー促進法によってエコ電力の拡大政策を取り始めてから、最も低い数字に落ち込んだことになる。

https://www.wind-energie.de/presse/pressemitteilungen/detail/windenergie-an-land-historischen-tiefstand-durch-mehr-genehmigungen-und-flaechen-schnellstmoeglich-ue/

資料=BWE https://www.wind-energie.de/themen/zahlen-und-fakten/deutschland/

資料=BWE https://www.wind-energie.de/themen/zahlen-und-fakten/deutschland/

2019年秋の時点でBWEは、2019年の新規設備容量が1,500MWになると予想していたが、実際の新規設備容量は、1,078MWと予想よりも低くなってしまった。またBWEは、「ドイツが2030年までに電力消費量の65%を再生可能エネルギーでまかなうという国家目標を達成するには、2019年には陸上風力発電装置の設備容量を5,000MW増やす必要がある」と主張していた。つまり2019年の新規設備容量の実績は、目標よりも78%低かったことになる。

最低1kmの距離規定に風力発電業界は猛反対

陸上風力発電装置の新規設置台数が減っている最大の理由は、北部を中心に陸上風力発電装置の建設に対する住民の反対運動が強まっていることだ。ローターの回転音が気になる、プロペラがさえぎる太陽光がストロボのようだ、といった苦情が住民から出ている。

さらに訴訟も相次いでおり、2019年の第2四半期の時点で325基の風力発電が対象になっている。
こうしたことから、メルケル政権が2019年9月に発表した「2030年気候保護プログラム」では、風力発電と住宅地との間に最低1kmとらなくてはいけない、という内容が含まれている。また、それより以前となる2014年から、バイエルン州では民家との間で風力発電のプロペラの高さの10倍の距離をとらなくてはいけない、という「10H規定」があった。

訴訟には、風力発電に野鳥が衝突して死ぬことを防ぐための、自然保護団体からの訴訟もふくまれている。自然保護団体は政府の再生可能エネルギー拡大政策、CO2削減路線には原則として賛成しているが、野鳥の生息圏が風力プロペラの建設によって脅かされることについては、断固反対している。

陸上風力発電装置の建設に必要な地方自治体の認可プロセスにも、以前よりも長い時間がかかるようになった。住民の訴訟が多発しているため、地方自治体の担当者も許可申請の審査を以前よりも慎重に行うようになっているからだ。地方自治体が早急に建設を許可した場合、後になって住民や自然保護団体から「きちんと審査を行わずに、風力発電プロペラの建設を認可した」として行政訴訟を起こされる危険があるからだ。

BWEのアルバース会長は、最低1kmという規定について「この規定が全国一律に導入された場合、陸上風力発電装置を建設できる用地の面積は、現在に比べて40%減るだろう」として、距離規定の撤回を政府に求めている。つまり風力発電業界は、「政府が住民の理解を得るために導入する新規則は、風力発電拡大にとってブレーキになる」と主張しているのだ。

風力発電業界、政府に緊急措置を要望

さらにアルバース会長は、「連邦政府と州政府は、今年中に緊急対策を実施することによって建設許可を加速し、この窮状を打開するべきだ。ドイツがCO2削減目標を達成するためには、発電装置建設を妨げている要因を早急に取り除かなくてはならない」と述べ、風力業界が直面している難局を打開できるように、手を差し伸べてほしいと訴えている*1

BWEは、具体的には連邦経済エネルギー省が2019年9月に発表した、「陸上風力発電拡大のための課題リスト」*2に掲げた18項目の措置を早急に実施するように求めている。

連邦経済エネルギー省はこの文書の中で、陸上風力発電装置の許認可プロセスの短縮と簡素化、鳥獣保護規則に関する例外規定の導入、訴訟が風力発電装置の許認可プロセスに与える影響を制限すること、住民を風力発電装置の運営に参加させることなどを提案していた。しかし経済エネルギー省の中ではこれらの提案について協議が行われている段階であり、政令などとして具体化されていない。

*1 BWEプレスリリース 「Windenergie an Land – Historischen Tiefstand durch mehr Genehmigungen und Flächen schnellstmöglich überwinden」 2020年1月28日

*2 Stärkung des Ausbaus der Windenergie an Land 2019年10月7日

風力発電業界の雇用にも悪影響が及ぶ

風力発電業界では、風力発電装置の新設数の激減が雇用に与える影響について、懸念が強まっている。アルバース会長は「新規設備容量の激減が、雇用と生産に与える影響を最小限にしなくてはならない。現在の状況が続いた場合、国内の風力発電装置に対する需要減によって、国内の従業員数を25%減らす必要が生じるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。

今後ドイツでの売上高と収益が減った場合、風力発電プロペラのメーカーの間では、国内生産の比率を減らして、外国での生産比率を増やす動きが強まるかもしれない。だがBWEは、「ドイツは国内の陸上風力発電市場なしには、このテクノロジーに関する世界のリーダー国としての地位を守ることはできない」と訴えている。

ドイツの風力発電関連業界では、すでに就業者数の減少が始まっている。BWEとスタティスタ社の統計によると、2016年には13万3,000人が陸上風力発電関連業界で働いていたが、2017年にはその人数は15.7%減って11万2,100人になっている*3

*3 BWE資料 風力業界の採用者数 2017年まで

大手メーカーも苦戦

この傾向は今後加速される可能性がある。第12回で、エネルコンが、従業員数をドイツを中心に約3,000人減らすことを発表したことを紹介した。同社のハンス・ディーター・ケットヴィヒ社長は「エネルギー転換の危機は、我が社にもやって来た」とコメントしている。

1984年に創設されたエネルコンは、世界22ヶ国に約1万3,000人の社員を抱える風力発電関連業界の重鎮である。2017年の売上高は56億ユーロ(6,720億円)に達していた。だが同社は、発電プロペラの受注額の減少によって、2018年に創業以来、初めて赤字を計上した。今後はドイツでの生産を減らしてインドなど外国でのポートフォリオを拡大する方針だ。

またドイツにも生産拠点を持つ、ルクセンブルクの風力発電装置のメーカー、センヴィオンは2019年4月に受注減などのために倒産。同年10月にジーメンス・ガメサ社が2億ユーロを投じて、センヴィオンのサービス部門や知的財産権など、一部の部門を買収した。

センヴィオン

エネルギー転換の柱、風力発電を救えるか?

ドイツ連邦エネルギー水道事業連合会(BDEW)の統計を見てもわかるように、陸上風力は毎月のドイツの再エネ発電量の30~60%を生み出す、最も重要な自然エネルギーである。

ドイツ政府は洋上風力の拡大を目指しているが、その発電量は陸上風力に比べるとはるかに少ない。したがって陸上風力の新規設備容量の大幅な落ち込みは、エネルギー転換全体を脅かしかねないリスクをはらんでいる。

筆者の目から見ると、政府の対策は遅れているように見える。BWEが発表するコメントには、時折メルケル政権の対策が遅々として進まないことについての、苛立ちすら感じられる。

連邦政府、州政府と電力業界は、陸上風力部門を救うための打開策を見出すことができるだろうか。

資料=ドイツ連邦エネルギー水道事業連合会(BDEW)

この記事の著者

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。
ホームページ: http: //www.tkumagai.de
メールアドレス:Box _ 2@tkumagai.deTwitter:@ToruKumagai

Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/
ミクシーでも実名で記事を公開中。


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