「農地」「ソーラーシェアリング」の再エネ規制緩和 第2回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」 | EnergyShift

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「農地」「ソーラーシェアリング」の再エネ規制緩和 第2回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」

「農地」「ソーラーシェアリング」の再エネ規制緩和 第2回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」

2021年03月08日

河野太郎行政改革担当大臣の下に設置された「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、今後の再生可能エネルギー普及拡大に向けた政策立案という面で注目されている。2020年12月25日には、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)をテーマとした議論が行われた。

審議会ウィークリートピック

再エネ導入に向けた農地の有効活用

2020年12月25日に開催された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」第2回会合のターゲットは農林水産省である。

農山漁村にはバイオマス、水、風、土地等の資源が豊富に存在しており、これらの資源を有効活用した再エネの導入を促進し、地域の所得向上等につなげることが重要であることは、すでに農水省自身が表明している。

本来、農山漁村における再エネ導入促進のためには多様な施策を組み合わせる必要があると考えられるが、今回のTFでは構成員4名から「再エネ導入に向けた農地の有効活用について」という意見書(太字・下線は筆者による)が提出され、規制緩和の論点を農地に絞った議論がおこなわれた。

農地については「荒廃農地」等、農水省が定義する内容と一般市民が受ける語感にズレが存在するものが多いため、まずは農地における再エネ推進策の現状について報告したい。

農地利用の現状

農水省によれば、国内の農地は約468万ha存在するが、このうち「耕地」は439.7万ha(94.0%:農地全面積に占める比率。以下同様)、「荒廃農地」は28.3万ha(6.0%)を占めている。

荒廃農地はさらに「再生利用が可能なもの:A分類」、「再生利用が困難と見込まれるもの:B分類」の2つに分類される。これらは表1のように定義され、市町村や農業委員会調査による毎年の現地調査によって客観的に判断されている。

表1 荒廃農地の分類

近年の荒廃農地の面積の推移を示したものが図1である。2019年度の荒廃農地A分類は9.1万ha(1.9%)、B分類は19.2万ha(4.1%)となっており、ここ10年程度はA・B分類合計の荒廃農地総面積は横這いとなっていることが分かる。

荒廃農地B分類について、すでに農水省は「原則として調査を行った年内に、『農地』に該当しない旨判断を行う」ことを通知しており、近年では毎年1.0~1.4万ha程度が非農地と判断されている。

図1.荒廃農地・耕作放棄地面積の推移

出所:農水省資料を基に筆者作成

これとは別に「耕作放棄地」というものがある。耕作放棄地とは「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいい、農家等の自己申告による主観的な数字」と定義されている。

最新2015年の耕作放棄地面積は42.3万ha(9.0%)であり、5年ごとの調査結果を単純延長した数値を灰色線として図1に描いているが、近年の増加傾向が読み取れる。耕作放棄地と荒廃農地はほとんどが重複していると考えられる。

さらにこれとは別の定義として、農振法(農業振興地域の整備に関する法律)による「農用地区域」は400.2万ha(85.5%)存在する。

なお国土交通省「国土の長期展望」によれば、耕地面積は現状の439.7万haから2050年には366万haへと大幅に減少することが想定されている。

農地での太陽光発電想定容量

カーボンニュートラルの実現に向けて、農地のうち、どの程度の面積を再エネ・太陽光発電に充てることが求められるのであろうか?

一例として自然エネルギー財団は、耕作放棄地のうち15%(6.3万ha)を利用可能と想定し、太陽光設備容量52.9万GW(5,290万kW)、さらに「追加転用+追加荒廃農地」を12.0万haと仮定し、このうち10%(1.2万ha)を利用可能と想定し太陽光設備容量10.0万GWとすることを提案している(2030年時点)。

また電力中央研究所は2050年シナリオ分析の中で、

  • すべての農業経営体(約20万)が全耕地366万haの上で、100kWの営農型PVを設置(20GW)
  • すべての荒廃農地A分類33.4万haの上で営農型PVを導入(22.4GW)
  • 現在のすべての荒廃農地B分類18.8万haと、追加で生じるすべての荒廃農地B分類49.5万haの半分に地上設置型PVを導入(46GW)

と推計している。

このような大規模導入を描いた将来像に対して現時点、農地・元農地ではどの程度の太陽光発電が実施されているのだろうか。

2013年から営農型太陽光発電(「営農を継続しながら発電する方式」、いわゆるソーラーシェアリング)の制度的特例が開始されたが、これ以外に、営農を廃止したうえで農地全体を転用することで、元農地に太陽光パネルを設置する方法がある。

農地に太陽光パネルを設置するための農地転用許可実績を、面積ベースで示したものが図2である。営農型については、PVパネル下部全体の農地の面積である。

図2.農地に太陽光パネルを設置するための農地転用許可実績(累計)

出所:農水省資料を基に筆者作成

営農廃止型は2011年以降の累計で57,210件・9,964ha、営農型は累計で1,992件・560haであり、農地転用のうち95%が営農廃止型となっている。荒廃農地ストックのうち、平均的に毎年0.6%程度が営農廃止・転用されていることが分かる。

なお、2019年6月時点のFIT太陽光(10kW以上)導入件数は587,686件であるので、農地・元農地における太陽光59,202件は、全体の10.1%を占めている。

営農型太陽光発電設備の設置者は、主として発電事業を営んでいる発電事業者が設置したものが58%(1,101件)、農業者が設置したものが42%(810件)と報告されている。

図3.営農型太陽光発電設備の設置者

出所:農林水産省

2014年に農山漁村再生可能エネルギー法が施行された。農林漁業者・地域住民・発電事業者等が協議会を組成し、市町村が主体となり基本計画を作成する。

農山漁村再エネ法では、農地法の特例として転用許可のワンストップ化や第1種農地でも転用可能とすることが措置されているが、現在、基本計画を作成済み市町村は68件、作成中が16件という状態である。

図4.農山漁村再エネ法のイメージ

出所:農林水産省

以下では、TF構成員4名による「意見書」の抜粋と、農水省の回答概要を報告したい。

荒廃農地等の利用拡大

意見書では、農業委員会における非農地判断が迅速になされているとは言い難い点を指摘したうえで、荒廃農地B分類は、自動的に直ちに「非農地」とする仕組みを設けることを要望している。

この要望には、フローとストックの2つが混在していると考えられる。新規の荒廃農地B分類判断を迅速化するフローと、非農地判断された土地が農地のまま残っているストックの問題である。

ストックに関しては、非農地判断された土地は原則その後、所有者自身による地目変更登記が必要となる。農水省からは、鳥取県等が法務局と協議したうえで、市町村長が職権で一括して地目変更できる取り組みをおこなっていることを紹介し、これを全国展開することを表明した。

先述のとおり、非農地判断には農業委員会等による現地調査が不可欠であること(フロー)を踏まえれば、農水省が回答した範囲の「自動的地目変更」であっても、事業者の負担を軽減することに役立つと考えられる。

ただし本件に限らず、単純に公務員に作業を転嫁(税金で負担)させるだけでなく、社会全体としての効率的プロセスが実現することを期待する。

地目が農地から雑種地等に変わると所有者の税負担も変わると想定されるため、「一方的な」地目変更が実施されるとは考えにくく、制度変更詳細の説明を待ちたい。

荒廃農地B分類は、森林の様相を呈しており簡単な抜根や整地等では復元が困難な状態であることから、太陽光発電をおこなうにしても初期費用が多大となることが予想される。

農山漁村再エネ法の運用本格化

意見書では、農山漁村再エネ法の現在の目標(2023年度に経済的規模600億円)が小規模であること、基本計画作成済みの市町村が少数であることを指摘したうえで、目標の抜本的な見直しを要望している。

農水省は、全国の市町村による計画設定を目標としたうえで、金額ベースではなく発電量等を基準とした新たな目標値を掲げることを回答した。

営農型再エネ設備の転用許可不要化など

意見書では、営農型太陽光発電について温室などの農業用施設と同様に、そもそも転用許可不要とすることや、現行の単収要件(地域の平均的な単収と比較し8割以上)、一時転用期間(10年)などの要件を撤廃することを要望している。

農水省は、太陽光パネル等は農業用施設には該当しないため転用許可は引き続き必要である(転用できないのではなく、知事等の許可を得る)ことを回答した。農業の世界では3割減収は、農業共済金支払い対象ともなる「災害」に該当するレベルであり、単収要件はむしろ緩やかな基準として設けられたことも回答した。

ただし、荒廃農地の単収要件については年度内に見直しをおこない、必要な措置を講じることを回答した。

農地転用手続の透明化・短縮化

農地法では、申請から処理まで40日以内との処理期間が定められている。意見書では、実際には農振除外(農用地区域からの除外)も含めていわゆる事前協議が求められるため、長期間を要していることを指摘したうえで、事前協議についても処理期間の目途を定めるなどプロセスの透明性を高めることを要望している。

農水省は、事前協議はそもそも法的手続きではないため期限を定めることはできないことを回答したうえで、転用許可と農用地区域除外手続きを同時並行で処理することで、トータルの期間を短縮化することを回答した。

農林水産業従事者の経営安定、農山漁村活性化のため、今回TFのように農地に限定することなく、幅広い観点から再エネ導入促進策の検討が進められることを期待する。

参照
第2回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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