モータージャーナリスト、大田中秀一が、アウディe-tronスポーツバックにややロングに乗ってみた。「ツッコミどころは・・・」 | EnergyShift

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モータージャーナリスト、大田中秀一が、アウディe-tronスポーツバックにややロングに乗ってみた。「ツッコミどころは・・・」

モータージャーナリスト、大田中秀一が、アウディe-tronスポーツバックにややロングに乗ってみた。「ツッコミどころは・・・」

2021/10/02

前回の、テスラ・モデル3の試乗レポートに続き、今回はアウディe-tronの試乗レポートをお届けする。従来の自動車メーカーによるEV(電気自動車)は、テスラ車とは何が違うのだろうか、モータージャーナリストである大田中秀一氏が、あくまで自動車としてのEVにこだわり、そのドライバーにとってのエクスペリエンスという視点で論じる。

シリーズ:EVにややロングに乗ってみた

旧来のクルマ好き、アウディのEVに乗る

クルマ好きの私、不肖オオタナカが予備知識を持たずにEVに乗ったら、クルマとしてどんな印象を持つのか? EVに興味がない身として何を感じたのか?

こんなスタンスでEVに乗ってみた印象を感じたままに綴るシリーズを何台かお届けいたします。

あくまでも“旧来のクルマ好き”という観点を土台にしていることを予めお断りいたします。

2台目はAudi e-tron Sportback 55 quattro 1st edition (バーチャルエクステリアミラー仕様車)という1,346万円のモデルです。正規ディーラーで試乗させてもらいました。

街中→緩いアップダウンとコーナーが続く自動車専用道路→街中を1時間半ほどいろいろ試しながら確かめながら走りました。

まずちゃんとアウディ

乗った瞬間からアウディ。アウディに乗っているという安心感があります。安っぽくないし、運転席の景色や操作系も見慣れたもので従来のアウディオーナーにも違和感がありません。手を伸ばせばそこにあるはずのスイッチがそこにある。これが重要だと思います。

システムオンでエンジン音もしないし振動もないことにもハイブリッド車がこれだけ増えた世の中では普通の感覚です。

バーチャルエクステリアミラー(カメラの映像をモニターに映す方式のミラー)の画面の位置がちょっと……という感じはあるものの、走り出す前に気なったことはそれだけです。

慣れないバーチャルエクステリアミラー

走り出して最初の車線変更で違和感というか、首がなんというかこうちょっとよじれるような感覚を覚えました。その正体はバーチャルエクステリアミラーです。

当然のようにサイドミラーの方を見るのですがそこに見えるのはカメラ。視線を落とすとそこにリアビューが写っているモニターがあります。位置もさることながら角度が問題で、かなり内に向いたミラーに真後ろが映っているという状態がどうしてもしっくりこない。人間工学的見地ではどうなるのかなと思いました。このミラーには最後まで慣れることはありませんでした。

ついカメラを見てしまい視線を落とし、そこに角度が合わないけどちゃんと映っている後方を見て首が……ということの繰り返し。

レクサスESにも設定されているデジタルアウターミラーの方が違和感は小さかった。モニターの取付け高さがミラーの位置にほぼ近いことや長方形なことが効いていると思います。

ただこれ、インテリアデザインを壊すし夜間はデジタルインナーミラーと合わせて3つの発光体が常に目の端に映っているため気が散るし疲れるのです。

e-tronの方はデザインを優先していることは間違いなく、夜間に乗っていないので何とも言えませんがもしかするとレクサスのその部分も気にしてのことかもしれません。

同乗のセールス氏によると、標準の一般的なドアミラーの場合、EVの静かさのため高速では風切り音が気になることのこと。

見え方に違和感があるかないか、夜間にはモニターが発する光が気になるかならないか、それを試乗で確かめてから選んだ方がいいと思います。

とても良いアウディの走り

走りに関しては快適そのもので特にツッコみどころは見当たりません。それどころか街中から高速まで安定したどっしり感のある走りはかなり気に入りました。

これはアウディ最大のSUVであるQ7比+460キロの車重、700キロあるらしいバッテリーが床下且つホイールベースの間にあるゆえだろうと思います。

同乗のセールス氏によると、e-tron専用設計のため最適化したシャシーも効いているとのこと。エンジン車ベースでEV用にモディファイしたシャシーを使っているというベンツEQCと乗り比べてみたくなってきました。

EVとエンジン車とでは重量物の形や搭載位置がかなり異なるので外観に違いがなくてもシャシーはかなり異なります。エンジンをモーター・インバーターに、ガソリンタンクをバッテリーに差し替えればEVになるとイメージしがちですが、実際は簡単ではありません。

アシストも自然

テスラでかなり気になったアシスト系。試したのはアクティブクルーズコントロール(車間距離を一定に保ち、ブレーキ&アクセルを自動でコントロールする)とアクティブレーンアシスト(車線のはみ出しをシステムが監視、フォローし、認識したレーン内の走行をキープする)が統合されたアダプティブクルーズアシストだけですが、違和感なくさりげないのがいい。車両側からの介入頻度も少ないと感じました。

特にレーンアシストは意識していなければ気づかないほど。「あれ、もしかしてアシストされている?」という感じ。テスラと比べてなんと快適なことか。この控え目さがすてきです。

回生ブレーキ系も自然なことと相まって実に快適なドライブでした。

マンション住まいでe-tronが買いたくなったら?

今回の試乗を終えてEVへの興味が急速に盛り上がってきたので費用を確認してみました。

一戸建ての場合なら充電方法は3つあります。

  1. e-tronに標準装備の3kW普通充電ユニットを使う(概算工事費用32万8,000円(税別))
  2. 別売りの8kW普通充電ユニット(充電器24万2,300円・概算工事費用32万8,000円(いずれも税別)
  3. 急速充電器を設置(高電圧工事が必要なこともあり数百万円)

しかし私は集合住宅住まいです。最近の新築物件ではEV用充電器が設置されているケースも増えてきたようですが古い物件にはありません。どうしましょう?

管理会社に訊いてみたところ急速充電器と工事費用でざっと1,000万円はかかるだろうとのことでした。加えてこれは総会決議事項案件なので3分の2以上の賛成が必要な大事業になります。

可能ではあるもののハードルが高すぎてほぼ不可能という感じです。

工事費用に関してはマンションの構造、どの場所に設置するのか、普通にするのか急速にするのかなど環境やスペックによって差が大きいようなので、もし本気で決議を通してでもEV充電器を設置する情熱がある方は調べてみてください。

もはや諦めかけてふと思いました。

次回紹介する、EVにややロングに乗ってみたシリーズ第3回のHonda eで体験して気づいた、街中にある急速充電器を使う方法があるではないか、と。

この場合、e-tron Charging Serviceというアウディ純正サポートサービスが使えます。

月額基本料金5,000円、都度急速充電使用料金15円/分でアウディ販売店はじめ全国21,700基の充電器で充電できるシステムです。

出かければロングなら途中で休憩もしますし、目的地ではしばらく駐車するのですから充電器が設置されている場所ならその間に充電すればいい。

これなら充電器がない集合住宅住まいでもEVが使えるんじゃないかと思いました。

ただ、急速充電を繰り返すことによるバッテリーへの影響は気になりますし、もし政府が言うようなペースでEVやPHEVが増えれば確実に充電器が足りなくなるという状況で、自宅に充電器を持たずにパブリックの充電器を渡り歩くこの方法がそもそも社会的に見てどう評価されるか? という懸念もあります。

今ならまだ大丈夫そうなのでちょっと試してみようかな? とは思いますが。

ヤバいのは実はテスラの方?とも言えないかもしれない

Honda eに乗ったときにも思いましたが、「EVを買う」という気合いで買うのではなく、「気に入ったクルマがたまたまEVだった」というのがEVの理想。CO2だ、サスティナブルだ、と大看板を建て、だからEVなんだということではなく。単純に製品そのものが魅力的ならば消費者はそれを選ぶという当たり前のことも思いました。

だからEVを本当に普及させたければ、自動車メーカーが魅力的なEVをどんどん作ればいい。飽きるほどの能書きや規制では消費者は動かず、掲げた理想通りに普及は進まない。そう思います。

こうなるとテスラの方が心配です。

テスラをはじめとするIT系が今後出すと言われているEVが既存の自動車メーカーを脅かすから安穏としていては将来はないなんて専門家が言っているのをあちこちで耳にしますが、そうでしょうか?

少なくともテスラとe-tronを比べる限り製品としての差は圧倒的だし価格差も小さい。

e-tronは、先ごろ発売されたe-tron 50 quattroの933万円から今回試乗したe-tron Sportback 55 quattro 1st edition (バーチャルエクステリアミラー仕様車)の1,346万円まで。

テスラで最も近いモデルXはロングレンジの1,060万円とパフォーマンスの1,230万円。

価格面でも製品の質の面でも既存の自動車メーカーが本気でEVを作るとこうなるということを見せつけられた気がします。100年の歴史は侮れません。

どちらを買いますか? 自動車として考えた場合答えは明らか。

ポルシェ・タイカンが最も売れているのは意外にも北米で、テスラからの乗り換えがかなり多いそうです。つまりはそういうこと。

テスラのビジネスモデルと利益の源泉を考えればヤバいのはテスラの方だと言えます。

だから“自動車”という既存概念外のIoTデバイス一つとしての乗り物という世界が彼らの生きる道となるでしょう。

テスラの利益の大半がCO2排出権取引から生み出されている現状(編集部注)を思うと、自動車メーカーや各国政府が声高に叫ぶ通りのペースでEV化が進んだ場合、その利益がなくなるからです。

もっとも、イーロン・マスクは自動車側の人間が考えないような壮大なことを考えているということがわかってきていますので、こんなことはどちらでもいいと本人は思っていると思いますが。テスラの先に何を見ているのか? 常人には想像もできないことを考えているように思うので、EVに気を取られすぎると気づいたら別のことが起こっていた、ということにもなりかねないので要注意です。

そんなテスラの刺激を受けて既存の自動車メーカーが進化する。それが今後の楽しみ。テスラとアウディe-tronの試乗を終えての率直な感想です。

注:アダプティブクルーズアシストとは?
高速道路などでの走行時、システムの制御の範囲でドライバーに代わって車間距離を一定に保ち、ブレーキ&アクセルを自動でコントロール。さらに、最高速度を設定すれば、その速度をキープし、設定されたスピードに達するとクルマが緩やかに速度を制御する「アダプティブクルーズコントロール*1」。車線のはみ出しをシステムが監視、フォローし、認識したレーン内の走行をキープする「アクティブレーンアシスト*2」。この2つの機能を統合することで、安全で快適なクルージングを、より高度にフォローする。高速道路などでの渋滞時にも、前方の車両に合わせ加速、減速、ステアリング操作までアシストし、運転のストレスを大幅に軽減します。

*1 Audi e-tron/e-tron Sportback 50 quattro S lineに標準装備。Audi e-tron 50 quattro advancedにアシスタンスパッケージとしてセットオプション。
*2 約0km/h ~ 200km/hでの走行中に限る。

編集部注:テスラは2020年には50万台近く販売し、今年も販売台数を増加させており、売上は排出権からEVそのものにシフトしてきているのが現状であると伝えられている。

(取材・写真・文:大田中秀一)

大田中秀一
大田中秀一

乗りもの、特にクルマ好きで、見ること、乗ること、買うこと、しゃべることすべてが好き。特に運転が好き。ハンドルを見るととにかく運転したくなる。世界各国のディーラーを中心に試乗台数したクルマはのべ1,000台を超える。5年間のレース参戦経験を活かし、レーシングスクールインストラクター(見習い)も時々務める。大型二種免許も所持していて、運転技術や安全運転に関しての研究も行なう。モビリティに関わることすべてを興味のままに取材、自動車専門誌並びにweb、経済ニュースサイトなどに寄稿している。世界のマイナーモーターショーウォッチャー、アセアン・ジャパニーズ・モータージャーナリスト・アソシエーション会長、インドネシアにも拠点がある無意識アセアンウォッチャー。実は電池の世界もちょっとだけ知っている。