トップクラスの自動運転技術 テスラのバージョンアップやいかに | EnergyShift

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トップクラスの自動運転技術 テスラのバージョンアップやいかに

トップクラスの自動運転技術 テスラのバージョンアップやいかに

2021年10月21日

2021年10月11日、テスラは自動運転の試験版をバージョンアップした。自動車の自動運転技術は着実に進歩しているものの、どのレベルに達しているのかは、なかなか伝わりにくいのではないだろうか。そうした中にあって、テスラの自動運転技術は自動車会社の中でもトップクラスだろう。日本サスティナブル・エナジー代表取締役の大野嘉久氏が、今回公開された、テスラの自動運転の新バージョンを通いて、進化と課題を解説する。

FSDベータの利用者数拡大は自動運転が次のステージへと上がったことを示す

かつて自動車が初めて売り出されたころ、しばらくは路上で馬と自動車が混在する時代が続いたが、次第に自動車の数が増え、現在では都市部や住宅街で日常的な移動手段として馬を使う人はいなくなった。そしていま米国では“ヒトが運転する車”から“AIが運転する車”という転換が試験的に始まっているが、ついにその第一次拡張期に入った。

というのも当初の予定から二度の延期(10月1日、10月8日)を経て、テスラは2021年10月11日、自動運転の試験版「Full Self Driving(FSD)ベータ」のバージョンを10.1から10.2へと更新するとともに利用者数を初めて拡大させたのである。

テスラはおよそ1年前から社員と一部のオーナー(合計2,000名程度と推測されている)を対象に「Early Access Program(早期アクセスプログラム)」を通じてFSDベータの利用を許可し、データを蓄積して修正を重ねてきた。ただし「自動運転」と言っても部分運転自動化しか許容されない「レベル2」であり、ドライバー(“ベータ・テスター”)はいつでも運転を変われるよう、自分が運転している場合と同じく常にハンドルを握って周囲の状況を把握していなければならない。

他方、バージョンを10.1から10.2へのアップグレードに対する評価はベータ・テスターによって大きく分かれており、「大幅な進歩を遂げた」という評価もあれば「少しだけ良くなったが、あまり変わらない」「まだまだ危険」など、様々な見解が出ている。

【高く評価した例】

AI DRIVR氏「FSD BETA is getting WILD

  • 前の車が路上でUターンを始めた際、過去のバージョンでは待たずに直進を試みたが、10.2は「前の車はUターンしようとしている」ことを正しく理解し、終わるまで待っている。
  • 信号のない交差点における右折や左折は、大幅な改善が見られる。以前は交差する車線において曲がる際、車がほぼなくなるまで待ってから発進していたが、今は人間の運転に近づいている。

【低く評価した例】

Rocco Speranza氏「Tesla FSD Beta 10.2 - Human Pilot Almost Causes An Accident

  • 進路変更に失敗し、ベータ・テスターが介入(Disengagement)。
  • 不審な挙動により後続車からクラクションを鳴らされた。(Road rage incident)。
  • 車列の横を取りすぎる際の車間距離が狭すぎる。
  • スピードを出し過ぎる場面がある。
  • 車線変更ミスが少なくない。

【“大きな変化は見られず”と評価した例】

Kim Paquette氏「FSD Beta 10.2 UNEDITED first drive on test loop

  • 以前は信号のない交差点を曲がる際にかなり長く待たされたが、それが改善され、安全が確保された時点で迅速に走り出すようになった。
  • 動きはかなりスムーズさを増したが、とはいえFSDにはまだまだ不満であり、もっと速く走ってくれないと後続車に迷惑をかける。
  • これまで周辺状況の認識(カメラで得た情報の地図データへの落とし込み)には間違いが多く、それによって不要な車線変更などを行うことがあったが、その点はあまり改善されていない。加えて誤ったウィンカー点灯を行うこともあり、歩行者や他の車に間違った情報を与えてしまう。

このほか多くのベータ・テスターがFSD Ver.10.2の自動運転動画をアップロードしているが、総じて「随所に改善は見られるものの、完全自動運転にはほど遠い」という評価であった。もちろんテスラはこれからさらにプログラムを改善させるが、この「Ver.10.2」の時点で利用者を拡大させている点は、自動運転技術が次の段階へとシフトしたことを示していると言えよう。

テスラはFSDベータ申請者の運転技術を独自に審査し、高得点を取ったドライバーにのみ利用を許可

テスラ車の保有者が新しいベータ・テスターになるためには、まずFSDの利用料金(一括で10,000ドルまたは月額199ドル)を支払ったうえ、さらにテスラによって「安全な運転技術を持っているドライバー」として認めてもらわなければならない。

というのも、前代未聞のことだが、テスラは各ドライバーの運転技術を「前方不注意をFSDから警告された回数」「急ブレーキ」「急ハンドル」「車間距離」「手動運転への切り替えが必要となった回数」などにおいて採点し、それで高得点を得た者からFSDベータの利用枠を拡大している。

では運転しなければペナルティーがつかないかというと、「安全な技術で100マイル以上走行した」ことが求められており、獲得した点数に応じて1,000人規模でFSDベータの利用者が拡大されてゆく仕組みとなっている。

つまりテスラは最も安全な自動運転技術を確立するだけでなく最も安全なドライバーを選ぶ技術も開発し、それによって事故を起こすリスクを最小限に抑えながら利用枠を拡大させている。こうして多くの運転データを本社に蓄積してFSDの安全性を高め、そして最も新しく最も安全なFSDプログラムをテスラ車に送信している。このとおりテスラは従来の自動車メーカーとは全く異なるアプローチで技術の開発と普及を進めており、このさき他社との差は広がるばかりだろう。

自動運転の先に来るのはロボタクシー社会

かつて馬が自動車に代わったように、FSDの安全性が高まるにつれて利用者も次第に増えて道路上には自動運転の車しかいなくなるが、遠くない将来にテスラが実現させる(と発表している)のが「ロボタクシー」である。2019年4月22日の「Autonomy Day」においてイーロン・マスクは「2020年内に100万台のロボタクシーを供給する」と言ったが、残念ながらまだ実現していない。

とはいえ今はまさしくヒトの運転する車が自動運転車に1,000台単位で入れ替わっている時期であり、ロボタクシーの到来も多くの人が予想するより早く実現されるであろう。

識者の中には「ロボタクシーを利用するコストが車を買うコストより安くなった時点を境に、もう人は車を買わなくなる」と予測する人もいるが、その見方は正しくないのではないか。なぜならば市街地ならともかく、人里から離れた会社や施設あるいは家屋などは、十分な台数のロボタクシーが常に利用できる環境にない事も考えられる。

したがって呼び出すのに数十分あるいは数時間もかかるなら、引き続き(自動運転の)自家用車を所有することが考えられるが、一方で多くの需要が見込める地域においては自家用車を買わず必要な時にロボタクシーを使う生活スタイルへと変化する可能性が高い。

ロボタクシー同士が衝突する事故はかなり少ないだろうし、飲酒運転も居眠り運転もペダルの踏み間違いも不注意や疲労によるミスもないから、交通事故は大幅に減少する。またロボタクシーは人件費がかからないだけでなく、テスラが自社の太陽光発電で充電すれば燃料費もかからないため現在のタクシーより格段に料金が下がり、途上国において自動車の移動がより身近なものになる事も考えられる。今回のFSDベータの利用者拡大は、世界がこうしたロボタクシー社会に近づく大きな一歩である。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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