脱炭素競争、負ければ日本から鉄鋼業界が消える?! 世界一の復権目指す鉄鋼メーカーの取り組みとは | EnergyShift

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脱炭素競争、負ければ日本から鉄鋼業界が消える?! 世界一の復権目指す鉄鋼メーカーの取り組みとは

脱炭素競争、負ければ日本から鉄鋼業界が消える?! 世界一の復権目指す鉄鋼メーカーの取り組みとは

2022年03月14日

たったひとつの素材が欠けただけでも製品は完成しない。その代表例が鉄だ。世界中が脱炭素の実現を競い合う中、世界に先駆けてCO2排出ゼロの鉄を製造できれば、日本の鉄鋼業は再び世界一に復権できるという。実際、北欧でCO2実質ゼロの特殊鋼の出荷を本格化させた日本製鉄グループの山陽特殊製鋼の株価はこの1年半で倍増した。逆に、脱炭素競争に敗れれば日本から鉄鋼業が消えるおそれもある。自動車や家電、建設などあらゆる分野で使われる鉄がなくなれば、日本のものづくりの根底を大きく揺るがす。脱炭素に挑む鉄鋼業界の現状を追った。

生き残りをかけた鉄鋼業界の挑戦とは

鉄鋼の国内需要は1990年の94百万トンをピークに今では3分の2以下まで減少している。内需が減る中、自動車産業向けを中心に直接輸出を35百万トンまで倍増させることで、日本の高炉メーカーである日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の3社は日本における粗鋼生産量75百万トンをなんとか維持してきた。日本製鉄の輸出比率は45%と、世界全体の平均が1割弱である中、世界最大の単独輸出メーカーとしての地位を築いている。

日本の鋼材向け先


出典:経済産業省の資料をもとに編集部再編集

その一方で、中国の粗鋼生産量は10億トンを超え、世界最大の鉄鋼生産国となった。規模ではもう敵わない。今後は工業化、都市化が進むインドが大きく成長する見通しだ。

中国、インド、日本の粗鋼生産推移


出典:経済産業省の資料をもとに編集部再編集

日本の鉄鋼業の経常利益は2006年の1.9兆円をピークに2020年には10分の1まで低下するなど苦しい時代が続く。しかし、国内への設備投資はむしろ増やす傾向にある。日本製鉄は2012年以降、約6兆円を国内製鉄所の老朽更新や戦略商品に投じてきた。なぜか?

鉄鋼業の経常利益・設備投資推移


出典:経済産業省の資料をもとに編集部再編集

鉄鋼業の競争力の源泉は上工程から一貫してつくり込む、一貫製造体制に技術力のコアがある。たとえば自動車メーカーなどは車種や製品ごとにラインや工場があり、海外にも日本と同じような生産・販売体系を築くことで海外生産比率を約7割まで増やしてきた。しかし、高炉の場合、鉄鉱石から鉄をつくり上げる上工程から、ユーザーごとに要求されるさまざまな鋼材につくり込む下工程に至るまで、どうしても一貫生産体制が必要になる。製品別に工場をつくることができず、その一貫製造こそが競争力の源泉そのものになっているのだ。

しかも、自動車などと違って鉄は海外で新たな製鉄所を建設することができない。

鉄は産業の基礎だ。どの国も国産化が基本政策であり、海外メーカーには建設許可が下りない。海外における一貫製鉄所の建設は事実上不可能であり、海外展開をするにはM&Aしかない。日本製鉄は2019年末、インドの旧エッサール・スチールを買収したが、そもそも新興国はこれまで鉄をあまりつくってきておらず、M&Aの対象案件がほとんどないという事情もある。

そうすると何としてでも日本国内で一貫生産体制を維持していく必要があり、それが国内高炉メーカーの基本戦略となっている。だが、問題は上工程から排出される大量のCO2にある。脱炭素化が図れなければ、日本に一貫生産体制が残せない。つまり、日本から鉄鋼業が消えることを意味する。

もっとも優れた製造法である高炉、唯一の弱点がCO2排出

鉄は鉄鉱石に多く含まれるが、酸素とくっついた状態でしか存在していない。そのため、鉄をつくるにはまず酸素を還元(分離)しなければならない。これが絶対的な条件のひとつだ。もうひとつの条件が、1,500℃以上の高温でなければ鉄は溶けて出てこないという制約である。

酸素を分離し、さらに発熱反応によって1,500℃以上の高温にできる、この2つの条件を同時に満たすのが炭素(C)であった。ただし、問題は1トンの鉄をつくるのに2トンのCO2が発生してしまう点にある。日本は鉄鉱石も原料炭もない中、この高炉法と呼ばれる製法の技術を極めることで、鉄鋼大国にまでのぼり詰めた。だが、高炉からのCO2排出を削減できなければ、近い将来、製鉄所が沈没する危機に直面している。

日本の鉄鋼業界が生き残る為の3つの技術革新と3つの外部条件・・・次ページ

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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