2年連続で冬期の卸電力取引市場のスポット価格が高騰、さらに燃料価格の上昇もあり、旧一般電気事業者も含め、小売電気事業のあり方そのものが問われるようになってきた。700社を超える小売電気事業者は今後、淘汰が進む可能性もある。こうした状況を受け、今年に入り、経産省では今後の小売政策についての議論を開始した。この議論をふまえ、小売電気事業者の将来像はどのようなものになっていくのだろうか。
2022年1月25日、経済産業省の電力・ガス基本政策小委員会において、今後の電力の小売政策が議題として取り上げられた。
背景としては、700社を超える事業者が小売電気事業者に参入し、電力供給の2割を占めるまでに成長する一方、提供すべきサービスや需要家保護、あるいは市場価格高騰への対応などの点で課題が生じているという現状がある。今後も参入する事業者がある一方で、経営状態が悪化している事業者は少なくない。
図1と図2は、2019年度および2020年度の電力事業全体の市場規模を示したものだが、小売部門の規模が小さく、しかも2020年度はさらに縮小し、わずか0.1兆円程度しかないことがわかる。電力産業市場規模から発電部門と送配電部門の規模を差し引くと、わずかにこの程度しか残らないということである。
図1:2020年度の電力事業全体の市場規模
図2:2019年度の電力事業全体の市場規模
出典:第44回電力・ガス基本政策小委員会資料をもとに編集部作成
小売電気事業の利益がいかに薄いかがわかるが、同時に事業として脆弱だともいえる。また、小売電気事業が需要家に十分な価値を提供してこなかったのではないかということも指摘できよう。
経産省は小売政策における、以下の4つの論点を示し、議論を進める方針だ。
【論点1】小売電気産業の更なる発展の方向性
小売部門は図1、2で示したように事業規模が小さい一方で、燃料価格の変動や再エネの増加などによって事業リスクが今後も大きくなっていくと予測される。同時に電気そのものは均一な品質なため、それだけでは事業の差別化ができない。こうした中で、小売電気産業はどのようなサービスを提供し、発展していくためには、どのような方向性を目指せばいいのか。
具体的には、セット販売にとどまらない付加価値、再エネなどに特化した電気の供給などのメニューの開発や、デジタル化などを通じた効率的な電力供給などが考えられる。
【論点2】需要家保護のあり方
小売電気事業の事業リスクが増大することに対し、いかにして需要家保護の観点から整備を見直していくのか。2013年12月の「電力システム改革専門委員会報告書」では「「電力選択」の自由をすべての国民に保証するとともに、小売における競争を通じて電気事業の効率化を図る」ということが、十分になされているのかどうかが問われる。
この点については、海外の小売制度などを調査し、検討を行っていく。
【論点3】電力市場における小売電気事業者の役割等
一般的に市場においては売りと買いのすべての市場参加者が価格形成に貢献し、経済合理的な取引が行われている。これに対し、電力市場ではどうなのか。
例えば、今冬、卸電力取引市場における夜間(22:00―22:30)の買い入札は80円/kWhに貼り付いている(図3)。これはインバランス料金の上限に対応したものだが、こうした入札行動が合理的な取引といえるのかどうか。また、価格が高ければ需要を減らす行動をとるはずだが、そのためにDR(デマンドレスポンス)やネガワット取引などは機能しているのかどうかも問われてくる。
図3:各日の22:00-22:30コマにおける、新電力による買い入札価格水準の推移(2021年10月1日〜2022年2月17日)
出典:第45回電力・ガス基本政策小委員会配布資料
【論点4】燃料等の供給力確保における市場と小売電気事業者のあり方
火力発電の燃料調達には1~2ヶ月のリードタイムが必要だが、一方で小売電気事業者は前日のスポット市場だけではなく、電力先物市場・先渡市場に参加することで、燃料調達にあたっての市場メカニズムを機能させることが可能となる。こうした小売電気事業者の行動が、安定供給にも資すると考えられる。
これらの検討課題の先にある、小売電気事業者の望ましい姿とは、どのようなものなのか。
小売間競争を通じ、①需要家ニーズに基づく様々なメニューが需要家に提供される、②デジタル技術の活用も含め、DR、需給管理、市場取引など、高度なリスク管理により、小売費用が最小化される、③電力だけではなく、電力をベースとした様々なサービスと融合した新たな付加価値が需要家に提供される、というものになる。
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