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電力小売事業は儲からない? 経産省で議論が進む、新電力のあり方

需要家保護における海外動向

2022年2月25日の電力・ガス基本政策小委員会では、4つの論点のうち、主に2つ目の「需要家保護のあり方」を中心に議論された。

この日、参考として、旧一般電気事業者の第3四半期決算と業績見通しが紹介されたが、第3四半期では4社、業績見通しでは6社が純損失となっている。燃料価格の上昇が大きな要因だが、さらに卸電力取引市場への依存度が大きい新電力はさらに経営状態が厳しくなっていると見られる。

こうした状況から、経済産業省では小売電気事業者を対象に、3月11日までの間、実態調査をする。

また、海外動向についても、英国、ドイツ、フランス、スペインについて紹介された。

英国では、2021年12月の小売電気・ガス料金は前年同月比で23~43%上昇。さらに2022年4月から規制料金(上限)がさらに54%引き上がる予定。というのも、上限のために、多くの小売電気事業者が赤字で電気を販売することになったからだ。そのため、2021年には29社の小売事業者が市場から撤退するか特別管理下に置かれており、約340万件の顧客に影響している。

また、電気・ガス料金の引き上げにあたって、困窮世帯の支援のために5億ポンドを用いるという。具体的には、冬期の電気代から140ポンドを割り引くことや、暖房費に対して100~300ポンドを支援することなどだ。

破綻した小売事業者の顧客については、規制を所管するOfgemが新たに供給する事業者を指定している。

さらに既存の事業者のリスクマネジメントを強化するため、モニタリングの強化やストレステストを実施し、今後もマネジメント・コントロール・フレームワークの導入や、顧客が一定件数に達した場合に新規獲得を一時停止してアセスメントを実施するマイルストンアセスメントを導入するという。

ドイツについては、ロイターの報道を引用、それによると、2021年と比較し、2022年には電気料金が平均63.7%、ガス料金が平均62.3%上昇するという。また、売上金額が日本円換算で数千万円から数億円規模の事業者が倒産しているということだ。

こうした状況を受け、いわゆる再エネ賦課金を6.5ユーロセント/kWhから3.72ユーロセント/kWhに減額し、低所得世帯には補助金を支給しているという。

フランスでは、対消費者の電気料金が税別で44.5%も引き上げられると予測されたため、消費税を95%減額し、税込みで35.4%の引き上げに抑制するという。また、他国と同様に低所得者対策も行われている。

スペインでは、2021年冬期の小売電気料金は2019年比で48%~113%増加したという報告があるという。こうした状況を受けて、発電事業者に課される7%の発電税の一時停止や、電力特別税の税率を5.11%から0.5%に引き下げ、付加価値税(消費税)についても契約電力10kW以下の需要家については21%から10%に減税した。

再エネや原子力など、過剰に市場高騰の恩恵を受ける電源については、市場収入を一時的に減額する措置も取られた。

日本においても、燃料価格の高騰を受けて、電気・ガス料金はさらに値上がりすることが予測される。旧一般電気事業者の数社は、燃料費調整制度による値上げの上限に達しており、さらなる値上げの申請が必要となる可能性もある。

とはいえ、LNGなどの調達は現状では長期契約が中心で、欧州ほどスポット価格の高騰の影響は受けていない。それでも、長期的にはスポット契約の割合が増えていくため、燃料価格の高止まりの影響は今後大きくなっていくだろう。

ターニングポイントを迎える小売電気事業

2月25日の審議では、この他にカーボンニュートラル社会に向けた小売の役割についても議論された。

1月25日の審議では、委員から「競争を通じてカーボンニュートラルを実現できるというのが理想的だとは思うが、なかなかそこまでうまく制度を設計するのは、正直言って難しいと思う」という指摘があった。

カーボンニュートラルを実現するためには、再エネの拡大だけではなく、これを支える送配電網や需要のマネジメント、省エネ・電化の促進なども必要となる。さらに、消費者との共通認識を深めていくことも必要だ。

審議会では今後、他の論点についても議論が進められると同時に、前述の実態調査や海外動向の報告もなされることだろう。

こうした議論を通じてあらためてわかるのは、小売電気事業がターニングポイントを迎えているということだ。

電気という財は需要と供給を一致させる必要があるため、日時によって市場価格が異なるという性質がある。再エネの拡大は、市場のボラティリティをさらに拡大させていくことになる。このことと、カーボンニュートラルの推進とは大きな関係がある。供給側と需要側の単純な構造だったものが、DRや蓄電設備なども大きく関係する構造へと変化していく。

こうしたことに加えて、燃料価格の高止まりが予測されるのであれば、小売電気事業者はよほどの付加価値を与える事業として考え直していく必要があるだろう。

700社の小売電気事業者はおそらく淘汰されるだろうし、そうでなくとも価格競争力を失っていくことはまちがいない。そうした中にあって、デジタル化やグリーン化、あるいは多様なサービスの提供を通じて価値を高めることができない事業者は、撤退することにもなるだろう。政府の審議を待つことなく、自ら検討することも必要ではないだろうか。

結局のところ、必要なのは「顧客が安心して電気を使えるようにする」ことだ。

 

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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