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脱炭素に向けた企業間連携は独禁法違反か? グリーンと競争法をめぐる新たな指針づくり、日本でも検討はじまる

脱炭素に向けた企業間連携は独禁法違反か? グリーンと競争法をめぐる新たな指針づくり、日本でも検討はじまる

2022年04月06日

脱炭素の実現には、水素・アンモニア、あるいはCO2の回収、利用、貯留に向けた大規模供給網の構築といった、異業種に及ぶ企業間連携が欠かせない。しかし、ときとして企業統合などの取り組みは、独占禁止法などの競争法の規制対象になりうる。脱炭素時代における競争法とはどうあるべきか。欧州で進む競争政策の見直しに関して、日本でも本格的な議論がはじまった。

なぜ、独禁法を見直さなければならないのか

脱炭素化は社会全体で追求すべき公益目標だ

実際に企業は、非財務情報の開示といった観点からスコープを1、2、3に分け、サプライチェーン全体におけるCO2排出量をどう減らすかに取り組んでいる。スコープ1は自社から排出されるCO2をいかに減らすかだ。削減に向けては、競合他社と提携して設備集約や生産統合を図る。あるいは多額の研究費用がかかる技術開発に関して、共同研究によってイノベーションを加速させるといった動きが想定されている。

スコープ2は他者から供給される電気や熱の使用による排出であり、スコープ3はスコープ1、2以外のサプライチェーンの中で発生する排出となる。スコープ2や3にまで広がると、広範な企業活動となり、たとえば契約ひとつとっても、脱炭素への取り組みが緩い調達先との取引を停止する、あるいは契約条件を変更する。または共同購入や共同配送などの業務提携も進むだろう。

さらに脱炭素にかかる巨額の費用をサプライチェーン全体でどのように負担していくのか、といった議論も今後必ず起こりうる。

サプライチェーン排出量におけるScope1、Scope2及びScope3のイメージ

サプライチェーン排出量におけるScope1、Scope2及びScope3のイメージ
出典:経済産業省の資料をもとに編集部再編集

だが、寡占化が進む市場においては、いくら脱炭素化につながる取り組みであっても、競合同士の事業統合などは独禁法に抵触したり、カルテルとみなされる恐れがある。とりわけ、脱炭素は電気代や原材料コストの増大を招き、製品価格の上昇につながる可能性が極めて高い。グリーンという公益を盾に、優越的地位を有する企業が下請け、あるいは消費者に不当な値上げを要求すれば、独禁法に抵触するだろう。

その一方で、ハード・トゥ・アベイト(Hard to Abate)と呼ばれる産業でどう脱炭素化を図るかが、世界的な議論になりつつある。日本においては、鉄鋼や化学、セメント、紙・パルプなど、製造過程で化石燃料を使用し、電化が難しく、既存技術や既存原料だけではCO2ゼロの達成が難しい産業が該当する。

こうしたハード・トゥ・アベイト部門にとって脱炭素化は、製造プロセスを根本からつくり変えるといった、大きなインパクトを及ぼす。たとえば、燃やしてもCO2を排出しない水素サプライチェーンの構築だけでも、ENEOSは2030年までに1〜1.5兆円(年間50万トン)、2040年までに数十兆円(年間500〜700万トン)かかると試算する。とても1社ではまかなえない投資金額だ。

脱炭素に向けては、かつて競合とみなさなかった企業やスタートアップ、業界団体、学術機関などとの異業種間連携、さらには非財務情報などのデータ共有などが欠かせない。つまり、独禁法などの競争法に企業が萎縮することなく取り組める新たなアプローチがなければ、脱炭素のような究極目標の達成は難しいということだ。

脱炭素時代における競争政策はどうあるべきか。経済産業省では3月25日、グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会を立ち上げ、独禁法などの競争法を見直すべきか、本格的な議論をスタートさせた。

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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