再エネ電力をより使いやすくしてほしいという、主にグローバル企業の要請に応える形で、非化石価値取引市場において、小売電気事業者以外の一般企業の参加が可能となった。また、一般企業が参加可能な市場は別途設けられ、11月にも初回オークションが予定されている。しかし、最低価格など詳細設計はまだ進められている段階だ。こうした点について、2021年8月5日、および8月27日にそれぞれ開催された、経済産業省の第55回・第56回「制度検討作業部会」についてお届けする。
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非化石価値取引市場が「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」の2つに分割された。再エネ価値取引市場の初回オークションは11月に予定されており、制度検討作業部会ではその詳細な制度設計について検討が進められている。
その第55回・第56回会合では、新たな再エネ価値取引市場に参加する需要家の要件や、仲介事業者の要件、最低価格等が検討されたので、本稿ではその概要をお届けしたい。
新たな再エネ価値取引市場は、RE100に加盟するグローバル企業等からの要請に応えるかたちで開始されるものである。よってその制度設計をおこなうにあたり、需要家の声を聞くことは有益である。
第55回会合では、今年7月に約2,000社を対象におこなわれたアンケート結果が報告された。回答数は338社であり、その84%が製造業である。また回答事業社全体の購入電力量は1,145億kWhであり、全国販売電力量(2020年度)8,215億kWhの約18%に相当する。
まず、再エネやCO2フリー電力への切り替えに関しては、「既に使っている」が25%(84社)、「関心あり」と回答した事業者は55%(186社)であった。ただし、既に再エネやCO2フリー電力を使用している事業者においても、その使用割合は2割未満にとどまる社が8割となっている。現時点では、全社の電力を再エネ等に切り替えるよりも、一部事業所のみ切り替えるスタイルが主流であることが分かる。
また、「切り替えるならば再エネに限る」と回答した社は28%であったのに対して、「再エネに限らずCO2フリー電力であればよい」と回答した社は72%であった。
図1.再エネやCO2フリー電力に切り替えることへの関心
出所:第55回「制度検討作業部会」
図2.既に再エネ・CO2フリー電力を使用している事業者の使用割合
出所:第55回「制度検討作業部会」
なお、再エネ・CO2フリー電力への「切り替えに関心のある」事業者(186社)における直近での切り替え想定量を合計すると、約163億kWhであった。
「既に使っている」84社の使用量が不明であるが(※1)、これら両者の合計量がアンケートベースでの再エネ・CO2フリー電力の現時点の需要量と想定される。
※1:非常に乱暴に簡易的に試算すると、回答者全体1,145億kWh×25%×10%=29億kWh程度と推計される。
再エネ・CO2フリー電力を「既に使っている」または「関心がある」と回答した事業者において、既存の契約から再エネメニュー(※2)に切り替える場合、kWhあたり幾らまで許容できるか、という質問に対しては、0円(全く許容できない)が36%、0.1円~0.3円が34%であった。
※2:他の設問では再エネとCO2フリー電力を併記しているのに対して、この設問では「再エネ」に限定した質問となっている。
図3.再エネメニューへの切り替えに許容し得る価格
出所:第55回「制度検討作業部会」
制度検討作業部会では、再エネ価値取引市場に参加する需要家の要件は可能な限り間口を広くし、いたずらに厳格なものとしない方向で検討が進められてきた。
このため、非化石証書が取引される日本卸電力取引所(JEPX)の取引資格の取得要件を満たすことが最低限の条件とされた。
現時点JEPXでは、純資産額が1,000万円以上であることや、入会金10万円、信認金(預託金)100万円の預託などを取引資格の取得要件として定めている。ただしJEPXからは、再エネ価値取引市場向けには要件の緩和を検討中であることが表明されている。
他方、JEPXでは個人も取引資格が得られるため、再エネ価値取引市場向けには国内の法人格を有することを追加的な取引参加資格として定める方向である。
まず用語の整理として、一般的に金融や不動産等の他の業界においては、「仲介」とは、売り手と買い手の間に入り契約成立を支援する行為であり、仲介事業者は売買そのものはおこなわない、と考えられる。
ところが再エネ価値取引市場においては、「自ら取引当事者となり、顧客である購入者側からの委託や自らの判断に基づき商品等を購入し、他者に販売する者」としての仲介事業者を想定している。もちろんここでの商品とは非化石証書に限定される。
従来、J-クレジット等の他の環境価値とは異なり、非化石証書はそれ単独で取引されることはなく、あくまで電気と一体的に取引され、転売もできないものと整理されてきた。
そもそも今回の制度変更は、電気の小売契約とは別に、非化石証書を安価に柔軟に調達したいというRE100加盟の需要家等のニーズに応えることを目的としている。
よって、まずは仲介事業者がおこなう取引の範囲を図4のように限定することとした。
図4.仲介事業者が可能とする取引の範囲
出所:第56回「制度検討作業部会」
非化石証書の調達(仕入れ)に関しては、仲介事業者は市場(JEPX)からのみ調達が可能とする。他の仲介事業者等からの転売による調達は出来ない、とされた。
また販売先については、当面は法人に限定することとした。仮に一般個人を対象とした場合は消費者保護の観点から、説明義務を課すなど厳密な規律が求められる。
取引先が法人に限定されるとしても、仲介事業者には一定の事業規律が求められる。しかしながら、仲介事業者は電気事業法に位置付けられる存在ではないため、直接的に電気事業法に基づく指導・勧告等の対象とはならない。
そこで仲介事業者の事業規律は、JEPXの会員規定に基づくものと整理された。仲介事業者がその事業を継続するためには必ずJEPXから非化石証書を購入する必要があるが、JEPXの取引参加資格の取得/喪失に係らしめることにより、規律とするという考えである。
JEPXでは、小売電気事業者のガイドラインやJ-クレジット参加要件等を参考にしたうえで、仲介事業者に求める取引参加要件や欠格事由を定める予定である。
なお仲介事業者に限らないが、再エネ価値の取引においては、ダブルカウントの回避や取引の適切な反映が重要である。
J-クレジット制度や京都クレジットにおいては、利便性の高い登録簿(レジストリー)が整備されており、取引の正確性、確実性を担保している。
仲介事業者がJEPXから購入した数量や日付(つまり一次取引情報)はJEPX側で把握・管理が出来るものの、仲介事業者が需要家に販売した数量等(二次取引情報)はJEPXで把握することが出来なくなってしまう。
このため仲介事業者には、販売した非化石証書の取引日や販売先名称、販売数量、価額等を記録することを義務付けたうえで、販売数量についてはJEPXに定期的に報告することを義務付ける案が示されている。
仮に仲介事業者がこれらの義務を怠った際には、最終的には取引参加資格を喪失させることとする。
このほか仲介事業者に求められる取引規律としては、取引前に需要家に対して、再エネ価値の内容および市場における取引価格の動向を説明することや、取引後に、需要家の求めに応じて、当該需要家が再エネ価値の正当な権利者であることの証明に協力することなどが挙げられている。
新たな制度設計という大きな労苦を伴いながらも、わざわざ再エネ価値取引市場が新設された目的は、需要家による非化石価値へのアクセス向上と証書価格の低減である。このため、FIT証書価格(つまり最低価格)を大幅に引き下げることは規定路線として検討が進められてきた。
非化石証書(FIT証書)に限らず、商品の価格はその価値により需給バランスに基づいて決められるべきものであり、人為的な価格制約はできる限り設けないことが望ましい、と制度検討作業部会でも整理されている。他方、以下のような複数の理由により、FIT証書には一定の最低価格を設けることが検討されてきた。
第一に再エネ価値取引市場開始当初は、供給量が需要を大きく上回る可能性が非常に高く(FIT証書の供給量は年間1,000億kWh程度)、最低価格を設けない場合には、約定価格は著しい低価格となることが予想される。また最低価格を設けた場合であっても、最低価格がそのまま取引価格となることが予想される。
また再エネ価値としての非化石証書が非常に安価である場合、それ以上のコストを掛けて新たに再エネ電源を増やそうというインセンティブを大きく損ねることとなり、再エネ電源への投資を阻害することが懸念されている。これは長期的な視点では再エネ電源の不足により、再エネ価値の価格高騰や調達費用の増大を招くおそれがあり、RE100等の需要家の観点でも得策とは言い難い。
そもそも、あまりに安価な再エネ証書を用いることは、「グリーンウォッシュ」との批判を招くおそれもある(元々、FIT証書には追加性は無いため、尚更である)。
同様の理由で、J-クレジット等の環境価値市場に悪影響を与えることも懸念される(2021年4月の平均落札価格は約1.17円/kWh)。
また従来からFIT証書に最低価格(1.30円/kWh)が設けられてきた理由の1つは、FIT証書の売却収入をFIT再エネ賦課金の抑制に充てるためである。
ただし、2020年度のFIT証書売却収入は約19億円(賦課金総額約2.4兆円の0.08%)にすぎず、その効果は極めて小さいのが実情である。
なお、もう一つの非化石価値取引市場である「高度化法義務達成市場」では、すでに最低価格が0.6円/kWhと定められている。2つの市場の価格差があまりに大きい場合、小売電気事業者による価格転嫁が困難となり、高度化法の義務達成負担が大きくなることが懸念されている。
これらの多くの要素と、冒頭の需要家アンケート結果を踏まえ、事務局ではFIT証書の最低価格を0.3円~0.4円/kWhとすることを提案しており、委員からも概ね賛同が得られている。
次回会合(9月下旬)においてFIT証書最低価格等の残された論点を決定のうえ、10月のパブリックコメントを経て、11月には初回の再エネ価値取引市場オークションが開催される予定である。
今回の制度検討作業部会では、委員から環境価値の訴求の在り方に関する指摘が相次いだ。小売電気事業者のみが非化石証書を扱う現在は、「電力の小売営業に関する指針」により環境価値訴求の規律が働いている。
今後、再エネ価値取引市場では需要家自らが直接(もしくは仲介事業者を経由して)FIT非化石証書を入手できるため、環境価値訴求に関するルールが存在しない状態となる。
小売事業者経由で再エネ電力(非化石価値含む)を購入した場合と、非化石証書を直接購入した場合で、環境価値訴求方法が異なることは避けるべきである。
また非化石証書の有効期限や税務上の取り扱い、売れ残り証書の取り扱いなど、残された論点は決して少なくない。
限られた検討時間の中で、11月の初回オークションが無事開催されることを期待したい。
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