2020年、“小型EVは儲からない”の定説が欧州でくつがえされるか シトロエンAmiとフォルクスワーゲンID.1 | EnergyShift

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2020年、“小型EVは儲からない”の定説が欧州でくつがえされるか シトロエンAmiとフォルクスワーゲンID.1

2020年、“小型EVは儲からない”の定説が欧州でくつがえされるか シトロエンAmiとフォルクスワーゲンID.1

2020/04/27

電気自動車(EV)といえば、まだまだ値段が高いというイメージだが、同時に市場化されているのは高級EV車ばかりではないか、ということも指摘されよう。近所に出かけるために乗ることが多いドライバーにとって、もっと手軽なEVのニーズがあってしかるべきではないだろうか。欧州における小型EVの新たな動きについて、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が解説する。

欧州ではEVやPHEVが新車販売台数の1割に近づくも、高級車が主体

「EV化の時代」と耳にするようになって数年が経ち、電動車は着実に普及が進んでいる。

たとえば欧州最大の自動車市場であるドイツでは、2020年3月における外部電源からの充電が可能なプラグイン車(電気自動車=EV+プラグイン・ハイブリッド車=PHEV)の比率が過去最高の9.2%を記録した*1。これに加えて、PHEVの比率が初めて(外部からの充電ができない)ハイブリッド車(HV)を抜いた。

ベルギーでも同月にはプラグイン車の比率は過去最高の8.6%(前年比91%)となった*2ほか、英国でも同月における新車販売台数のうち電気自動車が4.6%、プラグイン・ハイブリッド車が2.7%と、合計で7.3%を占めるようになった*3

ただし、それらの国で売れているプラグイン車を見ると、米テスラ・モデル3や独BMW X5eドライブ、BMW330e、あるいはスウェーデン・ボルボXC40 T8などの高価格帯モデルが多くを占めているのが現状である。

というのも、EVの主要部品である車載電池だけで低価格モデルの新車が買えてしまうほど高価であるうえ、その車載電池は量産効果が大きくないため、値段を下げにくい。 さらに、ガソリン車との価格競争ではなく、“高性能だから高価格で当たり前”を前面に打ち出した初期のテスラが高価格EVの市場を切り開いたことで、先述のような車種が販売台数の上位を占めるようになった。

このため、価格競争の激しい小型車分野では、EVは当面エンジン車に勝てないとされている。今のところ、EVは誰もが気軽に買えるクルマとは言えないのが現状だと言えよう。

フォルクスワーゲンは「EV版のビートル」として「ID.1」を2023年に発売

トヨタと並ぶ世界最大の自動車メーカー独フォルクスワーゲン(VW)は2019年9月、同国で開催されるフランクフルトモーターショー(IAA)において小型電気自動車「ID.3」を発表した

同社が先に発売したe-Golfと同じセグメントのクルマだが、充電1回あたりの航続距離が230kmから電池容量(45kWh・58kWh・77kWh)によって330~550kmへと大きく伸び、加えて高速充電によって30分間の充電で260kmが追加で走行できるという。価格帯も45kWhモデルだと30,000ユーロ(約363万円)より安く抑える模様である。

このID.3の大きなセールスポイントの一つは“フルコネクテッド機能”によって常に最新にアップデートされた各種サービスを提供できることであったが、3月にはその中核となるソフトウエアに欠陥が見つかり、数千台の完成車が駐車場に留まっていることが報道された。このため、従来は2020年春とされていた販売開始時期が、同年の夏へと延期されて目下はプログラミングの修正中だという。

Volkswagen ID.3 ©Volkswagen AG

一方、VWは2011年に発表したコンパクトカー「up!」の電動バージョンとして2013年に「e-up!」を発表していた。その後継車種として、さらに2,100万台を生産しギネス記録にもなっているドイツの国民車「ビートル」の後継車としても、「ID.1」の投入を計画していることが2020年3月に報道された。

車載電池は24kWhおよび36kWh、価格は20,000ユーロ(約234万円)以下と見られており、2023年の発売が予定されている。

e-up!とID.1の最大の違いは、e-up!がもともとエンジンが積まれていたup!の車体をベースにEVを作ったのに対し、ID.1は電動車向けに開発したモジュラープラットフォーム「MEB」の上に構築しており、飛躍的なコストダウンを図ることができるということ。

VWは7種のEVを計画しており、このID.1はそのうち最小のモデルになる。なお同社は以前、資本提携先のスズキと10,000ユーロ(約117万円)級の廉価EVの共同開発を目指していたが、提携解消によりEVも独自開発に移って今のラインアップに行きついたという。

ID.3のモジュラープラットフォーム「MEB」とバッテリー

仏シトロエンは激安の小型EVを発売

仏シトロエンは2020年2月27日、超小型電動車「Ami」を発表した。これは蓄電容量5.5kWhのリチウムイオン電池を積んだ二人乗りのシンプルなEVであり、充電1回あたりの走行距離は平均的な通学や通勤には十分な70kmが確保されている。家庭用の220Vソケットで充電でき、およそ3時間で完了する。最高速度は45km/h。

シトロエンAmi

目を引くのがその価格設定であり、一般的な購入のほか、リースそしてカーシェアリングという3種類が用意されている。購入だと6,000ユーロ(約70万円)。リースは初期費用2,644ユーロ(約31万円)に月額19.99ユーロ(約2,300円)。カーシェアリングであればサブスクリプション料金として月額9.9ユーロ(約1,160円)を支払った上で1分あたり0.26ユーロ(約30円)で借り出すことも可能だ。さらに驚かされるのは、暖房も使え、スマホをダッシュボードに装着することで電池の状況など車両の状態をモニタリングできるほか音楽もかけられるなど通常はオプションとして追加費用がかかる装備が最初からついている。

ただし懸念となるのが利用に関する制限だ。対象年齢は「フランスなら14歳以上/他の欧州諸国なら概ね16歳以上」と非常に若い。免許さえ必要なく、1987年以降に生まれた人に義務付けられている交通安全証明書(road safety certificate)の取得が条件となっている。というのも、欧州にはクワドリシクル(Quadricycle)という四輪バイクのような乗り物が気軽に使える移動手段として普及しているが、その安全性は一般車両より大幅に低いとされており、欧州で新車の安全性を評価するユーロNCAPも本格的な検査を実施している。

Quadricycleの一例
Quadricycleの安全性能テスト

シトロエンAmiは既に3月30日から受注が開始されており、6月には納車されはじめるという。しかし、たとえ最高時速が45km/hだったとしても、少なくとも日本においては、人身事故の9割が40km/h以下で起こっており、1,160円という安値で借りられる車両の安全性が気になるところである。

これらのように今後、欧州では小さくて安いEVが発売されてゆく。 日本は新車の4割が軽自動車という市場であり、国内メーカーには是非とも廉価版EVの開発をお願いしたい。

参照
大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。