現在の送配電網に、追加で発電設備を系統接続していくにあたって、コネクト&マネージという方法の検討・導入が進められている。今回と次回は、コネクト&マネージの方法のひとつであるN-1電制について取り上げ、現在、どのような議論が行われているのかも含めて紹介する。
広域機関の審議会(委員会・研究会)とはどのようなものか?
第47回広域系統整備委員会において、議題のひとつとなったのが、コネクト&マネージのN-1電制の本格適用に向けた検討だ。このテーマについて、前編・後編の2回に分けてご報告させていただきたい。
まず、本題のN-1電制の報告に入る前に、やや長めのイントロダクションを設けることをご容赦願いたい。
審議会といえば、資源エネルギー庁や環境省など、国の省庁における審議会を思い浮かべる読者の方々も多いことだろう。しかし、電力分野に関しては「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」(以下、広域機関と呼ぶ)においても、数多くの委員会・研究会が開催されている。
この「審議会ウィークリートピック」では、広域機関の委員会等も審議会のひとつと捉え、今後も定期的に報告して参りたい。
今回取り上げる広域系統整備委員会は、資源エネルギー庁ではなく、広域機関の委員会である。そこで、ややまどろっこしいかもしれないが、この委員会を例に、広域機関の審議会がどのような姿であるのかをまずは簡単に振り返っておこう。
広域系統整備委員会は2015年4月にその第1回が開催され、今年5月には既に第47回委員会が開催済みである。この委員会の設立経緯は以下のようなものである。
2015年4月開催の資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力需給検証小委員会は、FC(東西周波数変換設備)増強の必要性を取りまとめたうえで、その技術的検証を行うことを広域機関に要請した。この要請を受けた広域機関は、その定款に基づき「広域系統長期方針に係る検討」や「広域系統整備計画」を諮問するため、本委員会を設置した。
出典:経済産業省 第8回 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力システム改革小委員会 制度設計ワーキンググループ 資料5−5より本委員会の委員は中立者委員(学識者等)、事業者委員(小売事業者・発電事業者・送配電事業者)から構成されている。
本委員会の守備範囲は時代とともに徐々に拡大されている。その結果、今では「コネクト&マネージ」も主要検討課題の一つとなっているということだ。
広域機関の他の委員会等もおおむねこのような成り立ちであり、国(エネ庁)から、主に電力技術的観点から高度に専門性が求められる課題について、広域機関に「タスクアウト」されるかたちとなっている。
よって、エネ庁審議会における議論が起点となり、広域機関の委員会等で詳細が検討され、その結果が再びエネ庁審議会に戻り報告される、という流れとなっている。
広域機関の委員会等をウォッチしていれば、「先取り」というほどではないが、国の審議会で報告される内容を事前に把握することが可能である。また、国のエネ庁審議会で報告されるのは、広域機関委員会の「結論」だけであることが多いため、その詳細資料やなぜそのような結論となったのかという理由・経緯等は、広域機関委員会をウォッチすることによって初めて理解できることが多い。
ちなみに、広域系統整備委員会は開始当初は非公開開催であったが、第23回以降は公開開催に変更された。筆者はおそらく公開後のほぼ全回を傍聴したと思うが、広域機関の他の委員会も徐々に公開に変更されたことや、委員会等の数自体が増えたことにより、広域機関を訪問する回数も増加した。
さて本題に戻りたい。
第47回広域系統整備委員会 N-1電制本格適用に関する具体的議題
本稿では、コネクト&マネージの一つであるN-1電制の本格適用に向けて、今どのような課題が検討されているのか、あるいは決定されているのか、その概要を報告することを目的としている。しかしながら、直近の「第47回」で検討されたことだけを断片的に取り上げても、その全体像を掴むことは困難であろう。
本来、コネクト&マネージとは何か、というところから丁寧に説明すべきであるが、スペースの都合上、一旦直近に開催された委員会(第46回・第47回)の議題のうち、N-1電制に関する部分だけを先行して報告させて頂きたい。技術用語面での予備的な説明が不十分となること、極めて単純化した説明となることをあらかじめご容赦願いたい。
出典:電力広域的運営推進機関 第47回広域系統整備委員会 資料よりN-1電制とは何か
では、N-1電制とは何か。 送電線は2回線を1組として設置されている。このうち1回線は緊急時用として、空けてある。この2回線のうち1回線が故障することを、N-1故障という。
N-1故障の発生時に、瞬時に発電を制限することを前提に、空けてある1回線を運用することで、平時の送電運用容量を拡大する仕組みのことを、N-1電制という。
2回線とも送電している状態でN-1故障が起こると、運用容量を超える電力が送電設備に流れ続ける(過負荷が継続する)ことになる。その結果、その送電設備は故障してしまい、場合によっては大停電を招いてしまう。
単純な対策としては、1回線設備容量をその送電系統の運用容量とすれば、N-1故障時にも問題は生じない。しかしながら、これでは万一に備えて常に半分を空けて(遊ばせて)おくことになるので、運用効率は悪くなる。送電線は空いているのに再エネ電力を流せないのはおかしい、などの批判を浴びることとなる。
これに対して、万一のN-1故障時に発電を制限するという保険があれば、平時には2回線分を運用容量とする(2倍の電力を流す)ことが可能となる(もちろん、これは極端に単純化した話であることに留意)。
既存の送電設備を最大限有効利用することによる合理的な設備形成を目指す、日本版コネクト&マネージの一つとして、N-1電制の活用が期待される理由がここにある。
N-1電制の対象と費用負担
では、どの発電機がN-1電制の対象となるのか(N-1電制対象電源)。
発電事業者であれば誰でも、少しでも多く発電したいと考えている。送電都合で突然に発電を制限されてはたまったものではない。
このあたりからN-1電制適用に向けての課題が見え始めてくる。例えば、発電自体が制限されたとしても、その事業者の利益が補填されるならば、事業者の不満は大いに軽減されるだろう。
N-1電制の本格適用に向けた課題は、以下の3つに大別される。
- 課題Ⅰ:納得性のある費用精算の仕組み
- 課題Ⅱ:精算に必要なシステム仕様等の決定
- 課題Ⅲ:約款等ルールの改正への対応
これらをもう少し細分化すると、以下のような論点となる。
議論を先取りすると、この表の「費用」には、機会損失費用(発電停止により生じた逸失利益)が含まれる。
実は、先述したN-1電制対象電源の選び方はすでに決まっている。送電線事故という緊急事態であることから、一般送配電事業者が発電機の出力変化速度、調整容量等を考慮して、電力系統の復旧に最も適切と考えられる発電機を事前に選定することとなっている(電制装置等を事前に設置する必要があるため)。
よって次なる問題は、費用負担の在り方ということになる。
発電事業者としては、もし自社が発電制限(電制)される立場ならば、最大限費用補填してほしいと考える一方、他社の電制に対して補填する立場であれば、十分に納得感のある費用でなければ支払いたくない、と考えるであろう。
本稿で、わざわざN-1電制「本格適用」としているのには理由がある。
まず現行の約款では、送配電事業者からの「給電指令」方式の電制により生じた費用は、原則、抑制された電源自身が負担することとなっている。瞬時に電制するN-1電制とは異なり、給電指令では時間を掛けて発電出力を低下させていく。
それでも発電事業者にとってはたまったものではない。これが「新しいルール」が求められる理由の1つである。
もうひとつ、N-1電制の「先行適用」というものがある。まさに今、「本格適用」のために制度詳細を議論しているところであるが、このルール等の完成には一定の時間を要する。
これでは再エネ大量導入のブレーキとなりかねないことから、「先行適用」として、N-1電制の仕組みを早期導入することとした。
しかし、「新しいルール」が未完成の今、暫定的に導入する制度であることから、電制対象は当該新規接続電源であること、電制に伴う費用負担は現行の約款に基づき、電制された電源が負担することと整理されている。
もしN-1電制「先行適用」が無ければ、この新規電源は発電を開始することすら出来ないことから、万一の際に電制されることを比較衡量し、これを承諾したうえで、新規参入することが想定されている。
これに対して、N-1電制「本格適用」では、「電制電源の選定・オペレーション」自体と、電制により生じた「費用負担」を切り分けて考える、と整理されたことに、従来の「給電指令」方式や「先行適用」からの大きな飛躍がある。
「後編」では、N-1電制本格適用に向けた課題整理の現状を報告することとしたい。
(Text:梅田あおば)