審議会ウィークリートピック
次世代スマートメーターの仕様にあたっては、さまざまな論点がある。その1つが、ガスメーターや水道メーターとの共同検針だ。これらと電力とをまとめてスマートメーター化していくためには、メーターそのものの電源や通信手段といった課題がある。2020年10月28日に開催された、経済産業省の第2回「スマートメーター仕様検討WG」から、このテーマに関する議論をお届けする。
電力スマートメーターの通信インフラをガス・水道メーターにも活用
前回まで、電力メーターとしての高機能化(高頻度化)等へのニーズやユースケース、技術的課題等を主に取り上げてきたが、今回はスマートメーターのもう一つの特徴的機能である「通信機能」に着目したい。
スマートメーターは、無線マルチホップ方式や1:N無線(携帯電話回線)方式といった遠隔通信により、双方向でデータ送受信が可能な社会的インフラとなっている。
全国津々浦々、すでに6,105万台が設置済み(設置率75.2%)である電力スマートメーターの通信インフラを次世代化する一環として、他の用途・目的にも活用しようという検討が進められている。
第2回「スマートメーター仕様検討ワーキンググループ(WG)」では、複数のガス事業者や水道事業者等から、ガス・水道で必要となる機能・仕様や現状の取り組みが報告された。
電力スマートメーターによるガス・水道共同検針の可能性を探りたい。
ガスの検針に求められること
都市ガス(一般ガス)とLPガスでは事業形態が異なるが、本稿では特筆しない限りは、まとめてガスと呼ぶことをご了承願いたい。日本のガスメーター設置数は、都市ガスで約2,900万台、LPガスで約2,300万台となっている。
まず、ガス業界のスマートメーター化・遠隔通信対応は、決して電力業界と比べて遅れていたわけではなく、独自の進化を遂げてきたと言える。
携帯電話が普及する前から固定電話回線を通じて、LPガス業界では600万世帯以上、都市ガス業界は130万世帯以上で遠隔検針が可能となっている。なお、ガス業界でも電力業界同様の1:N通信方式等による遠隔検針への移行を検討段階であり、ガスメーターの検定満了タイミングを考慮しながら、電力との共同検針・システム共同化等を模索しているところである。
遠隔自動検針による省力化メリットは当然のこととして、ガスでは電力以上に安全性・保安確保が重要な命題となっている。緊急時にはガスメーターが発報する警報を即時に取得することや、遠隔でガスを遮断すること(遠隔開閉栓機能)が求められる。
またガスボンベ(シリンダー)を定期的に配送・交換することが必要なLPガスでは、ガス切れを起こさないために、従来はある程度余裕をもったタイミングで配送せざるを得なかった。今後スマートメーターによりボンベ内の正確なガス残量データを送信することが出来るようになれば、配送回数や人件費の低減、配送車両からのCO2排出量抑制などの効果が期待される。
ガス・水道メーターの通信は省電力で
通常、屋外や地中に設置されるガスメーターや水道メーターは、通信に必要となる「電源」を得ることが出来ない。むしろ電源を得ることが可能な電力メーターのほうがやや特殊な恵まれた状況であると言える。
このため通信ユニットはごく省電力であること、「電池」のみでメーター有効期間の10年間駆動することが求められる。
ガス会社により異なるが、現状は通常時であればガスメーターからの通信頻度・データ量は少なく、ガスメーター指針値を1日1回(粒度・頻度ともに1日)や、1ヶ月1回(粒度・頻度ともに1ヶ月)といった通信をおこなっており、このことで省電力化・コスト抑制を実現している。
電力スマートメーターでは通信部を内蔵(もしくは通信ユニットを一体化)しており、電力スマートメーター本体から広域的な通信ネットワーク(携帯電話通信網など)に接続可能であるが、ガスでは省電力化実現のため、メーター本体に備えた通信ポートから有線接続で「中継器」(NCU:Network Control Unit)に接続し、中継器から広域的な通信ネットワークに接続することを想定している。
図1右側に描かれたLPWAとは、低消費電力・低コストを目的としたIoT向け通信技術である。920MHz帯周波数を用いたWi-SUNやLoRaなど複数の技術規格が存在する。
図1 ガスメーターから中継器を経由した通信イメージ
出所:日本ガス協会資料電力スマートメーターとの連携
ここでようやく電力スマートメーターが登場する。
ガスメーターと有線接続された中継器から、無線で電波を飛ばす相手先が電力スマートメーターという構想である。図2では中継器は「無線端末:SM-NCU」と呼ばれている(SMはスマートメーターの略)。
SM-NCUは電池で駆動しており、電力スマートメーターが「Bルート」で使用している920MHz帯を使用して電力スマートメーターに接続している。その先は通常のスマートメーター同様に、1:N無線等を通じて電力会社のヘッドエンドシステムにデータを伝送している。
図2 ガスメーターと電力スマートメーターとの無線接続
出所:中部電力パワーグリッド資料を筆者が一部改変図3 ガスメーターと接続したSM-NCU
出所:中部電力パワーグリッドガス業界からは通常時の検針データとしては、計量粒度を1時間、通信頻度を12時間ごととする要望があり(警報値は別途、優先的に即時通信)、電力スマートメーターによる共同検針では電力Aルートの通信時間帯をさけて通信する予定である。
共同検針の課題
共同検針の課題の一つは、SM-NCUと電力スマートメーター間等のインターフェースの統一である。このため、一般送配電事業者やガス事業者、水道事業者、メーター製造業者等が参加する「共同検針インターフェース検討会議(仮称)」を設立する予定である。検討会議では、スマートメーターインフラの運用ルールの制定、セキュリティガイドライン、インターフェース仕様書等を整備することを目的としている。
なお、ガスなど他事業者の通信データを、電力スマートメーター用の携帯電話通信回線に相乗りさせることは、一種の「又貸し」(MVNO)に該当するため、従来の電力用の通信料金は適用できないとされている。
水道メーターとの共同検針
全国に設置されている水道メーターは8,000~9,000万台と推定されている。
水道についても、事業者独自のスマートメーター化の取り組みのほか、一般送配電事業者と連携した、電力スマートメーターを通じた遠隔検針実証事業などが複数おこなわれている。
ただし水道では、従来から人間による検針頻度が2ヶ月ごとであり、コスト抑制が重視されてきた。スマートメーターへの移行にはさらなるコスト抑制が課題となる。
なお、純粋な「検針」とは異なるが、コインパーキングの運営や自動販売機の管理データを、電力スマートメーターの通信網に相乗りさせる実証実験もおこなわれている。
単なる検針通信環境の共同化以上の付加価値・メリットを求めて
電力、ガス、水道いずれも生活に不可欠なインフラであり、これらデータを掛け合わせること、さらには第四・第五のデータを掛け合わせることで、需要家のライフスタイルを詳細に分析できる可能性がある。これにより、新サービスの開発など事業機会の創出のほか、自治体による公益的サービスの改善や災害へのレジリエンス強化など多様なユースケースが想定される。
また、法人・事業所に対しては総合的エネルギーマネジメントサービスを提供することにより、ユーティリティ全体のコストダウンのほか、国全体の脱炭素化に資する可能性がある。
ガス・水道等それぞれの業界が独自のニーズを持ちながら、さらなるコストダウンを実現することは決して容易ではないが、需要家・事業者・自治体等にとって、単なる検針通信環境の共同化以上の付加価値・メリットが実現することを期待したい。
(Text:梅田あおば)