圧縮空気技術を蓄電(エネルギー貯蔵)に使えないかという取組が注目を集めている。カナダに拠点を置くハイドロスター(HYDROSTOR)というベンチャー企業はゴールドマン・サックスから2億5千万ドルの投資を確保した。
目次[非表示]
空気を圧縮してエネルギーをためておくというCAES(Compressed Air Energy Storage)技術は以前から検討されており、それだけでは新しくないアイデアだ。1970年代にはすでにドイツで、1990年代にはアメリカでも一部で実用化されている。
日本でも、早稲田大学がエネルギー総合工学研究所、神戸製鋼がスクリュ式圧縮・膨張機を使ったCAESの実証実験をNEDOの事業として2017年から1年半おこなっていた。
出所:NEDO 圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)システムの実証試験を開始 ニュースリリースより(2017.4.20)
しくみとしては、電力を使ってタンクなどの空気を圧縮させておき、使用時に開放してタービンを回す。浮き輪に目一杯空気を入れ、一気に空気栓を外すと勢いよく風が出るのと基本的には変わらない。ただ、従来導入されたアメリカ・ドイツのCAESは広く使われなかった。
ハイドロスターはこのCAESに独自技術を加えた「A-CAES」というプロジェクトを展開しており、アメリカ・カリフォルニアに合計で900MW、7,200MWhのエネルギー貯蔵を計画している。同時に、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州には200MW/最大1,600MWhのプロジェクトも進んでいる。ゴールドマン・サックスの投資はこの3つの合計、1.1GWのプロジェクトに対するものだ。
ハイドロスター社、さらにCAESの導入プロジェクトとして、これまでに例のない規模になる。では、このA-CAESは従来のものとどう違うのだろうか。
A-CAESでは、ふたつの点にオリジナリティがある。ひとつは、圧縮時の熱をためておき、解放時の膨張時に再利用する独自のシステムがあること。もう一つは、プールを使った貯水池を圧縮に使うことだ。
空気を圧縮する際には圧縮熱という熱が発生する。A-CAESではこの熱を発生時にためておく技術を開発した。圧縮熱は(規模などの条件にもよるが)240℃まで上昇するという。この圧縮熱は通常排熱するが、それを貯蔵しておき、再利用する。
前述の通り、CAESでは圧縮空気を開放するときにタービンを回すのだが、実はこのとき、圧縮された空気だけではタービンを回すエネルギーが足りず、エネルギー変換効率が著しく悪くなる。従来のCAESでは天然ガスなどを使い、解放時の空気を加熱して再膨張させていた。それを、A-CAESでは圧縮したときの圧縮熱を再利用し、解放時の空気の加熱に使っているのだ。
もちろん天然ガスを使うとカーボンフリーにはならないので、この熱貯蔵技術がA-CAESの賢いところのひとつになる。
ハイドロスターのもうひとつのユニークな点は、圧縮した空気の貯蔵場所だ。
従来のCAESでは圧縮空気を専用のタンクに溜めておく。規模の大きいものでは、天然の洞窟や採掘跡を利用するものもある。しかし、タンクでは規模がでず、天然の洞窟を利用するのでは施設の設置場所が限定される。圧力を維持することにもエネルギーが消費されてしまう。
ハイドロスターでは水圧を利用する。圧縮施設のそばに地下600mの人工的に空洞を掘る(すでに地下空洞がある場合はそれを使うこともできるという)。地下に掘った空洞にはパイプラインが地上まで伸びており、地上には水を溜めたプールがある。このプールの水圧を圧縮空気の圧力維持に使おうというアイデアだ。
エネルギーが100%充填されていると、プールの水面は上昇する。使うとき、地下の圧縮空気のタンク=空洞には水が入り込んできて、空気が送り出されると同時に地上プールの水面は下降する。
これは、揚水発電における、水の位置エネルギーの利用にも似ている。この水を使うアイデアはハイドロスターでは以前から持っていて、たとえば海中の水圧を利用するプロジェクトも以前は進んでいたようだ。
揚水発電とA-CAESはどちらが優秀?・・・次ページ
エネルギーの最新記事