中国では現在、電力不足が深刻化している。中国政府の環境対策に加え、石炭価格の上昇による火力発電所の稼働率低下が主因とみられるが、電力会社が十分な燃料を確保できないことも、電力の需給逼迫につながっている。
石炭価格は世界的に高騰しているが、中国の問題はやや深刻かつ複雑だ。電力を「生産できなかった」とも、電力会社の経営悪化により、「生産しなかった」とも言える。火力発電依存が高い中国が脱炭素を競う習近平のジレンマも見え隠れする。
中国の電力需要逼迫の要因とは何か、自然エネルギー財団上級研究員の王嘉陽氏が、2021年10月20日のメディア懇談会で発表した、中国のエネルギー事情に関する最新データに沿って、詳しく述べたい。
石炭価格上昇の原因の1つとしては、まず始めに国内外の製造業の生産量拡大により、石炭の需要が増加したことである。中国では新型コロナウイルスによる生産活動のダメージから世界に先駆けていち早く回復し、海外からの製造業への注文が急増した(図1)。
図1
一般的に製造業の成長率が上がると国内総生産(GDP)成長率も上がり、推移はほぼ相関しているとされているが、2021年第1四半期は製造業成長率がGDP を大きく上回った。製造業輸出量を見てみると、中国国内経済回復とともに海外注文の増加により、2021年前期は輸出量が増加していることがわかる(図2)。
それに伴い電力需要が上昇。2021年1~8月の電力消費量の増加率を見ると、前年比13.8%増加で、2次産業の電力消費の増加が顕著だ。中国全土の消費の増加が、石炭生産の増加よりも遥かに大きい(図3)。
図2
図3
二つ目に、石炭供給不足により石炭価格が高騰したことが挙げられる。中国全体の電気生産の3分の2を占める石炭火力の燃料となる石炭の不足が今回の危機を招いたという分析だ。
先に述べた2021年の製造業の生産量の大幅増加に伴い、石炭の消費量が生産量を大きく上回った。炭鉱事故続発による規制強化などを受けて今年3月から石炭生産が鈍る一方、製造業の石炭・電力需要は旺盛で、需給逼迫に拍車が掛かっている。中国第3位の石炭生産地である陝西省では今年9月、習近平国家主席も出席したスポーツイベントが開かれ、省内の炭鉱は生産を減らした。
新型コロナウイルスの蔓延が中国でピークを迎えた2020年1月から2月かけては、石炭の需要が減少したため石炭のストック量は多かったが、その後都市封鎖の段階的な解除によって経済が回復を始めると、需要も増加基調に戻しストック量は減少傾向となった(図4)。さらに、世界の石炭価格高騰の影響で、輸入石炭価格も最高値を更新し、国内石炭価格は4月から急増し、最高値を更新した(図5)。
図4
図5
ここで、中国のエネルギー構造を見てみる。中国は世界最大の温室効果ガス排出国だが、同時に中国政府は石炭の利用削減を方針として掲げ、エネルギー構造転換を進めている。
2020年9月の国連総会で、習近平主席は2030年までにCO2排出のピークアウトと2060年までにCO2排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成する目標を発表した。これらの目標を実現するために、今後は自然エネルギーを中心にエネルギー構造の低炭素化を進めることが重要であり、自然エネルギー電源の開発を加速する必要があると表明した。
中国の電力構造を見てみると、図6に示すように中国の発電設備容量の構造は石炭火力が中心になっているが、火力発電と水力や風力をはじめとした自然エネルギー発電がともに拡大している。一方、発電量の比率を見ると、石炭火力の割合はさらに大きく、石炭消費の半分は発電向けに使用されている。しかし2020年には、火力発電は石炭価格の高騰で燃料費があがったことにより火力発電事業者の採算が合わず、発電量が減少した。
図6
中国では電力取引構造が一般的な市場取引と異なり、電力取引市場の規制による価格抑制がある。石炭価格が値上がりする一方で、中国国内の電力価格は政府によって低く抑えられている。石炭価格の上昇で業績が悪化するのを嫌がる発電会社が発電を渋り、工場の稼働停止が相次いだ。石炭産業の営業利益は前年比で倍増している一方、電力産業の営業利益は減少し、2021年7月から前年比を下回る水準となっている。
つまり、発電量を増やすことで発電所の損失が大きくなるため、発電所はフル稼働しておらず、電力供給量の減少へとつながっているわけだ。
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