2021年6月6日に亡くなったノーベル賞受賞者の根岸英一・米パデュー大学特別教授は、「植物でできて人工的に実現できないはずはない」とかねて語ってきた。根岸氏が2010年に国内の化学研究者ら120人以上を束ねて「人工光合成」の研究を始めると発表してから、様々な研究が進み、およそ10年が経過した。
「カーボンニュートラル」に向けた動きが世界で加速している中、さまざまな領域でCO2を削減するために「いかに排出しないか」に焦点が当たっているが、いま、CO2を「使用(吸収)」することで削減する革新的技術の研究が進められている。
その方法のひとつが先に述べた「人工光合成」だ。太陽光エネルギーを使って水から生産したクリーンな水素を活用し、工場や発電所などから排出されるCO2をプラスチック等の原料となる基礎化学品に変換する「人工光合成」の研究で実用化に向けた成果が相次ぎ、実用性を探る段階に入りつつある。
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自然界における光合成は、植物が持つ「葉緑体」と呼ばれる細胞小器官の中で行われるようになっており、必要不可欠となる要素は、太陽光、水、CO2の3つだ。 「人工光合成」では、植物の代わりに太陽光に反応して水を酸素と水素に分解する「光触媒」と呼ばれる物質と、そこから水素だけを取り出す「分離膜」、水素にCO2を合わせて化学合成をうながす「合成触媒」の技術が必要となる(図1)。
図1:人工光合成による太陽光エネルギーの貯蔵
出典:応用物理学会
近年、「夢のクリーンエネルギー」とまで呼ばれ期待を寄せられている人工光合成の研究開発は、実は日本が世界の先頭を走っている。
人工光合成の実現に向けた構想は、2011年に大阪市立大学の研究チームが光合成の基となるタンパク質複合体の構造を解明したことから始まる。
以来、約10年間で、研究が急速に進み、2021年4月に豊田中央研究所が世界最高水準の太陽エネルギー変換効率を達成する人工光合成を実現。
同年8月には、三菱ケミカルや富士フイルムなどで構成する「人工光合成化学プロセス技術研究組合」などと共同で、「光触媒」を使い太陽光と水から高純度な水素を取り出す世界最大規模の実証試験に成功したと発表した。
「光触媒」における「太陽エネルギー変換効率」、つまり太陽エネルギーを使ってどのくらい水から水素を作り出すことができるのかは常に研究が続けられてきた。人工光合成によるクリーンエネルギー確保を実現するにはまだ時間を要するが、実用化に向け本格的な研究が始まってからの10年の歴史をまとめてみた。
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