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急拡大する水素業界カオスマップ2021年版 2050年に市場規模280兆円超え、本命企業はどこだ? 水素まとめその5

2021年12月16日

重工大手3社は水素発電を新たな収益源に

「つかう」分野で水素の潜在需要がもっとも高いのが水素発電タービンである。

世界中でLNG火力発電から水素発電へのシフトが進み、2050年には水素タービンの世界市場は最大約23兆円になる見込みで、日本の潜在水素需要は約500〜1,000万トンにものぼるという。ただし、水素は沸点が低く貯蔵が難しいうえ、燃焼スピードがLNGよりも速くバックファイア(逆火現象)が起きやすかったり、NOx(窒素酸化物)が発生したりと取り扱いが難しい。この燃えやすい水素の燃焼をタービンの中で制御する技術で世界をリードするのが三菱重工、川崎重工、IHIの3社だ。

特に三菱重工はLNGに30%の水素を混ぜて燃焼させる混焼技術を完成済みで、2030年をめどに100%水素だけを燃やす大型タービンを商用化する計画だ。

川崎重工もまた2021年12月7日に、天然ガスに40%の水素を混ぜて混焼する技術を国内ガスタービンメーカーとしてはじめて開発したと発表。重工大手3社は、化石燃料を使わない次世代発電である水素での事業拡大を狙う。

FCV推しはトヨタだけ!?

もうひとつ、「つかう」分野で本命視されるのが、水素と空気中の酸素の化学反応で電気を取り出す燃料電池(Fuel Cell:FC)である。経産省によれば日本のFC分野の特許出願件数は世界1位であり、水素をもっとも効率的に電気に変換する仕組みを日本は持つとする。

FC分野で成長が期待されるのがFCVに代表される輸送部門である。国も水素社会の実現に向け、2018年に水素閣僚会議を世界ではじめて日本で開催し、2019年には今後10年間で、水素ステーション10,000ヶ所(10thousand)、燃料電池システム1,000万台(10million)を設置する”Ten, Ten, Ten”という世界共有目標を策定。さらに2030年までにFCVを80万台普及させるという国内目標を掲げ、環境整備を急ぐ。

だが、ことFCVに関していえば、ホンダが「クラリティ」の生産を2021年8月で終了するなど、乗用車で注力しているのは世界でもトヨタと韓国・現代自動車ぐらいで、その注目度は低い。

期待とは裏腹に伸び悩むのは水素ステーションも同じだ。国内には水素ステーションが整備中も含めて166ヶ所しかなく(2021年8月時点)、ガソリンスタンド3万1,500ヶ所、EV充電スタンド約3万基に比べ、圧倒的に少ない。

岩谷産業は2021年11月10日、グリーンボンドを発行し総額100億円を調達し、2023年度までの3年間で、国内の水素ステーションを30ヶ所増やし、83体制にすると表明したが、FCVの本格普及にはさらなるステーションの上積みが欠かせない。

輸送部門の水素転換に向け、政府やトヨタなどが今、期待するのが10トン以上の荷物を積んで長距離輸送にも耐えられる大型トラックのFC化だ。政府はEVよりも航続距離を伸ばしやすく、水素充填も短時間でできるFCトラックが、2050年には最大300兆円(1,500万台)の世界市場を築くと見込む。国内の潜在水素需要は年間600万トンにのぼると試算する。

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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