「工業社会」から「知識社会」への大転換期にある現在、エネルギー産業の形も中央集権型から分散型へと転換しつつある。それぞれの企業は未来を予測し、その未来で生き残るために事業転換を図り、新規事業を立ち上げる必要がある。今回は、事業構造転換と新規事業というイノベーションをいかにすすめるべきか、そのためのリーダーシップとはどうあるべきか、立命館大学経営管理研究科(MBA)客員教授でエムケー・アンド・アソシエイツ代表の河瀬誠氏が解説する。
目次[非表示]
事業環境が長期的に大きく転換する転換期にあたっては、未来を予測し、シナリオプランニングなどにより適切な戦略ミックスを実現し、自らの事業構造を転換することが必要です。
既存事業は現在いかに好調であったとしても、事業環境が変われば衰退します。次の変化の波に乗った新規事業を育てていかなければならないのです。
では、新規事業をどのように創り、育てていけばいいのでしょうか。
第1回で述べたように、事業構造の転換にはこれまでの成功体験が足を引っ張ります。成功体験を脱して、組織を転換、つまりコーポレートトランスフォーメーション(CX)を進めなければいけません。
ここで踏まえておくべきことは、組織の形が変わってきていることです。
工業社会のなかでの典型的な組織の形は、いわば「野球型」(階層型組織)といえました。しかし、知識社会のなかでの典型的な組織の形は、いわば「サッカー型」(自律型組織)だということができます。
野球というゲームでは、選手の役割は固定的で順序やポジションも確定しています。そして、監督は、こまかな指揮や命令をする役割を期待されます。
これに対し、サッカー選手の役割は流動的で常に変化しています。ゲームの中では、個人がその場で自律的に判断して試合を運んでいくのです。そうなると、サッカーの監督の役割は、細かな指示や命令を出すことでなく、大きな戦略とビジョン(ゴール)を示すことになります。
工業社会の開始とともに、大組織が登場しました。当時はまさに「野球型組織」、つまり固定的・官僚的な組織が最も効率的でした。こうした組織においては、情報は文書を通じて垂直方向で流通します。しかし、組織が縦割り化し、情報がその壁を超えられないという問題があります。
知識社会になると、情報通信技術の発達とともに電子メールやSNSが登場しました。
そうなると、組織の縦割りを超えて情報を共有しやすく、外部とも連携しやすくなります。タスクごとに流動的なチームを組成し、個人個人が情報を共有し、すばやく自律的に判断して動く、まさに「サッカー型」の組織が、高いパフォーマンを発揮するようになるのです。
組織がデジタル化に伴い転換すると、戦略もまた転換していきます。
工業社会で広く普及した戦略論は、「古典的戦略論」と言われます。古典的戦略論は、まさに工業社会の最盛期だった1980年頃に、ハーバード大学を中心に理論として完成しました。
古典的戦略論では、調査と分析を重視して合理的な「正解」を求めていきます。「役に立つ製品」を求める市場は必ずあるはずなので、それを調べ、PDCAをしっかり回していくというわけです。
しかし現在、世界はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)化してきており、市場をいくら調べても、確実に売れる商品を特定することは困難です。
現在の欧米の経営学では、サッカーと同じように、目指すゴールを設定した上で、シナリオの修正を繰り返す「アダプティブ(適応型)戦略」が、主流となっています。
残念ながら、日本においては前世紀のMBA取得者がいまだに主流となっており、戦略論はなかなか転換できていないというのが現状でしょう。
例えば、多くの大企業がマネジメントの基本に「中期経営計画」を置いています。中期経営計画の弊害というのは、およそ3年後までしか考えていないということです。このタイムスケールでは、どうしても「現状維持のまま、もっと頑張る」ことが最適な戦略となりがちです。こうした中期経営計画を3回ほど繰り返せば、すっかり時代に取り残されてしまうでしょう。
そうではなく、10年先、15年先の未来を見て、かつ足元の方針は年度ごとに見直していく、という方が、変化が激しい時代には合理的でしょう。現に、アメリカの急成長を続ける大企業の多くが、こうした「ビジョンドリブン経営」を実践しています。
たとえば、自動車業界はまさに、CASE(Connected/Autonomous/Service/Electronic)またはMaaS(Mobility as a Service)とったデジタル化の波に晒されつつあります。現在の自動車メーカーは自動車というハードウェアを製造することに価値を置いていますが、こうした変化の中、今後はモビリティなどのサービスを提供する会社に転換していくことが必要となるでしょう。
同様、現在多くの企業は、自発的なものであろうと、環境変化に要請されてのものであろうと、2050年のカーボンニュートラル達成をビジョンに設定していることと思います。もし現在の事業構造のままではビジョンの達成が厳しいならば、自らの事業構造を変える戦略を取ることも必要となるでしょう。
現状を打破するためのイノベーションに欠かせない、ある「人材」とは・・・次ページ
エネルギーの最新記事