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地域エネルギー事業の新潮流 地域密着型エネルギー事業者の地域エネルギー論

地域エネルギー事業の新潮流

2020年11月20日

これからの地域エネルギー事業のヒント7

地域エネルギー事業に、地域活性化や地方創生への貢献を取り入れる動きが生まれている。元々、旧一般電気事業者や都市ガス会社も、地域の公益事業として地域貢献に取り組んできた。地域の発展こそが、事業の発展につながるからだ。市町村というより小さな自治体にフォーカスし、顔の見える関係で電力自由化に対応する動きが起きているのではないか。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が、地域エネルギー事業の新たな展開を紹介する。

進む「事業目的の複合化」

本稿では、一貫して自治体や地元企業など地域密着型エネルギー事業者による地域エネルギー事業の在り方を考察してきた。
また、地域密着型エネルギー事業の目的(何のために事業を行うのか)として、「再エネの普及拡大によって地球温暖化対策に貢献すること」と「エネルギー代金を地域の外に流出させず、地域内でこれを循環させることによって地域経済の活性化に貢献すること」の両立を挙げてきた。とりわけ、地方経済に大きな打撃を与えているコロナ禍においては、後者への期待が高まっている。

昨今、地域エネルギー事業に地域活性化、あるいは地方創生に貢献する役割を取り入れて事業を展開しようとする動きが生まれている。さらには、電力小売全面自由化から4年以上経過したことも影響してか、これまで広範な地域を市場にしてきた「自由化プレーヤー」の中には、ターゲット市場を特定の地域(市町村)に絞り、エネルギー自由化と地域エネルギーへの対応を統合する動きも出てきている。

地域貢献のパイオニア「湘南電力」

地域貢献を意識した地域エネルギー事業のパイオニアは、地域新電力の優等生である「湘南電力」だろう。

「湘南電力」は、電力の地産地消、すなわち神奈川県内の発電所から調達する電力を神奈川県内のお客様へ供給することを通じて、持続可能な地域づくりに取り組んでいる。また最近は、経済産業省の令和2年度「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業」に採択され、EV等を活用した「地域マイクログリッド構築事業」にも取り組んでいる。

湘南電力でもう一つ注目すべきなのは、「電力で地域貢献」というキャッチフレーズの下、湘南電力の収益の一部を、地元パートナー企業の地域貢献活動に還元していることである。

このスタンスをさらに特徴づけるのが、一般的な料金プラン(湘南のでんき)とは別に、「地域応援メニュー」という名の8種類の電力プランを用意し、「支払う電気料金の1%は色々な地域応援プランを通じて地域活性化のために使われます」として、「エネルギー選択を通じた、より具体的な地域貢献」ができるようにしていることである。

表1.湘南電力の「地域応援メニュー」

(出所)湘南電力 ウェブサイト

この8つのプランの中で、特に注目したいのが「小田原市応援プラン」である。
湘南電力には、自治体は出資していないが、このプランはSDGs未来都市でもある小田原市と共同で小田原市内の「子ども食堂」を支援する「官民連携プラン」である。このプランを選べば「小田原の子どもたち」を手軽に支援できることが市民にもわかりやすく、賛同を得ている。

このように、湘南電力は、「地域の再エネ普及」「地域経済循環効果の創出」に加えて、「地域活性化(地方創生)支援」も果たしている。

図1.地域エネルギー事業の今日的役割

「氷見ふるさとエネルギー」が意味すること

一方、本年(2020年)10月に事業を開始した「氷見ふるさとエネルギー(株)」は、地域エネルギー会社の新たな形といえる。

同社(資本金999万円)は、富山県氷見市、北陸電力株式会社、氷見商工会議所、関係団体等が出資し、社長は氷見市の副市長が務める。2020年11月から市内公共施設(8,600ヶ所)に電力販売を、同年12月からは子育て世帯や移住者、創業者、市ゆかりの首都圏在住者を対象に料金割引を行い、地域活性化に貢献する。さらに来年度から省エネ設備や太陽光発電の導入支援などにも乗り出す。

氷見ふるさとエネルギー ウェブサイト

では、同社のどこが特徴的なのか。

第1には、地域エネルギー会社として電力販売するにも関わらず小売電気事業者のライセンスを持たず、北陸電力の「取次ぎ」となることである。要するに、(地産地消とはいえない)北陸電力の電気を販売するわけである。

第2には、地方創生や子育て支援につながる氷見市民限定の料金メニューを持つことである。

表2.氷見市民限定の電気料金メニュー

(出所)氷見ふるさとエネルギー ウェブサイト

第3には、とりあえず非地産電力で事業開始するものの、2021年度中には市内の企業や家庭が導入する太陽光発電設備の設置をサポートする事業を行い、それにより発電した電気を「地産電源」とすることである。つまり、「まず再エネありき」ではなく、いずれ「都市型再エネ」である太陽光発電を創造・活用して地産地消につなげるという形をとる。さらにはバイオマス発電の開発にも意欲を見せている。
ちなみに北陸電力と氷見市は、2019年度に再生可能エネルギーを活用した「広域DR(デマンドレスポンス)システム」の実証事業も実施しており、すでに連携の素地ができていた。

第4には、可能な限り市内業者からの物品購入や電気工事の依頼を行うことで、「地域内経済循環への貢献」を目指していることである。これにより氷見ふるさとエネルギーは、地域密着型エネルギー事業に求められる3つの要件を満たすことになる。

既存大手電力と自治体が組んで地域エネルギー会社を設立する意味

以上が、地域エネルギー事業の観点からみた、氷見ふるさとエネルギーの評価だ。既存大手電力である北陸電力が自治体と組んで地域エネルギー会社を設立する意味は他にもある。

競争上の観点から見れば、(大手の)自社顧客を氷見ふるさとエネルギーの顧客に置き換えることで、実質的な顧客確保になるだけでなく、氷見ふるさとエネルギーの持つ「顧客創造機能」が奏功すれば顧客増にもつながる。
つまり、都市ガス会社に比べて広域的な市場を持つ既存電力会社が、自社供給区域の持続可能性の維持や発展を図るとしたら、このように自治体単位に細分化して取り組む必要があることを示しているようにも思われる。今後、他の既存電力会社も、地域との共生を目指して追随する可能性が高いのではなかろうか。

次世代電力ネットワークの観点から見れば、氷見ふるさとエネルギーの需要がDRやVPPのソースになるだけでなく、地域マイクログリッドの構築、さらには法的に解禁された「配電事業ライセンス」により独立した配電事業をも営むことまで発展できるポテンシャルを持つ(実施するかどうかは別にして)。

このように同社の事例は、(深読みしすぎかもしれないが)今後の地域におけるエネルギー活用に求められる多様な要件を、顕在的にも潜在的にも備えていると考えられるが、いかがだろうか。

参照

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。

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