2022年度から、FIP制度がスタートする。しかし、プレミアム単価の算定方法の詳細など、決まっていないことはまだまだある。とりわけ、昨冬の電力市場価格の高騰は、算定価格に大きな影響を与えるものでもある。2021年9月7日に開催された、第35回「再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会」における、FIPのプレミアム単価に関連する議論をお届する。
審議会ウィークリートピック
昨冬の電力スポット市場価格の高騰は、FIPの制度設計に影響を及ぼすこととなった。
FIP制度は、再エネ電源の投資インセンティブを確保することを大前提として、電力市場への統合を促しながら、再エネの自立化へ向けた途中経過に位置付けられる制度である。 このため、FIP制度のプレミアム(供給促進交付金)単価は、基準価格(FIP価格)から、「参照価格」を控除した額として算定される。
参照価格とは、FIP発電事業者が市場取引等により期待される収入であり、卸電力市場価格や非化石価値市場価格、バランシングコストを加算減算することにより算定される。これにより、FIP事業者は常に卸電力市場価格を意識した発電事業を営むことが期待されている。
図1.プレミアム単価の算定イメージ
出所:再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会
「再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会」の第35回会合では、参照価格のうち、卸電力市場価格の変動がFIPプレミアムやFIP発電事業者の総収入に与える影響について議論されたので、本稿ではこれをご紹介したい。
この審議会ウィークリートピックでFIP制度を取り上げるのは久しぶりであるため、まずはFIP参照価格の設定方法を復習しておきたい。本稿では単純化のため、非化石価値市場価格やバランシングコストは割愛し、自然変動電源のうち太陽光発電(東京エリア)を対象として、仮の数値に基づいた算定例を示す。
FIP参照価格は、大きく3つのステップにより算定される。
Ⅰ.前年度年間平均市場価格を算出
各30分コマのスポット市場と時間前市場の価格をエリア別に加重平均する。また自然変動電源による発電特性を踏まえ、1年間分の加重平均(非自然変動電源は単純平均)を取ることにより算出する。表1では、9.00円と仮定する。
表1.FIP参照価格等の算定イメージ
(円/kWh)
5月 | 1月 | |
基準価格 | 10.00 | |
①前年度年間市場平均 | 9.00 | |
②当年度月間市場平均 | 5.00 | 11.00 |
③前年度月間市場平均 | 6.00 | 12.00 |
④月間補正値(②ー③) | -1.00 | -1.00 |
⑤参照価格(①+④) | -8.00 | 8.00 |
⑥プレミアム(基準価格-⑤) | 2.00 | 2.00 |
⑦月間総収入(②+⑥) | 7.00 | 13.00 |
出所:筆者作成
Ⅱ.月間補正価格を算出
上記Ⅰと同様の加重平均により、「当年度月間平均市場価格」と「前年度月間平均市場価格」を算出し、「当年度月間平均市場価格-前年度月間平均市場価格」を「月間補正価格」とする。表1では、太陽光発電の導入量が増加したことにより、市場価格が前年度よりも少し(1円)下落した、という姿を想定している。これにより表1では、月間補正値は-1.00円となる。
Ⅲ.参照価格を算定
Ⅰ.前年度年間平均市場価格+Ⅱ.月間補正価格により算定する。
表1の5月では、①前年度年間平均市場価格:9円+④月間補正価格:−1円により、8.00円と機械的に算定される。
こうして得られた参照価格を基にプレミアム単価を算定し(「基準価格」-「参照価格」)、1ヶ月単位でプレミアムが広域機関から交付される。
FIP発電事業者は相対取引も可能であるが、仮に取引所で売電する場合、卸電力単価とプレミアム単価を合計したものが、発電事業者の総収入(単価)となる。
表1の例では、プレミアム単価はいずれも2円であるが、市場価格が異なるため、FIP発電事業者は1月の発電量を増やそうというインセンティブが働く仕組みである。逆に、5月に定期点検をおこなうなどにより、発電量が抑制されることが期待される。
なおプレミアム単価の算定式が「基準価格」-「参照価格」であるため、市場価格が高騰した際には単純な計算値はマイナス値となってしまう。ただし、日本のFIPではプレミアム単価の下限値をゼロ円としており、ネガティブプレミアムは生じさせないルールとなっているため、FIP発電事業者は差額を広域機関に納付する必要はない。他方、相対取引の場合には、事業者間で様々な創意工夫が施される可能性は否定できない。
以上が2020年度に決定された、FIP参照価格算定方法の原則概要である。
これは、前年度と当年度の市場価格がほぼ同水準であることを想定した算定ルールとなっている。昨冬のように市場価格が長期間高騰した際には、以下のような不都合が生じることが明らかとなった。
再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会の第35回会合で事務局は、表2の前提条件に基づいて、FIP開始後に市場価格が高騰した際に、参照価格やプレミアムがどのような単価となるかを模擬的に試算している。
表2.試算の前提条件
電源種・発電エリア | 太陽光発電・東京エリア | ||
基準価格 | 10円/kWh (2022度 50~250kWの調達価格) | ||
参照価格 | 前年度年間平均市場価格 | 高騰時市場価格 (2020年度年間平均市場価格を採用) | |
当年度月間平均市場価格 | 非高騰時市場価格 (2019年度月間平均市場価格を採用) | ||
前年度月間平均市場価格 | 高騰時市場価格 (2020年度月間平均市場価格を採用) |
出所:再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会
表2・表3の単価は2019年度・2020年度の実績値であるが、あくまでFIP導入後にこのような市場価格高騰が起こるとどうなるか、ということを把握することが目的であるため、当年度とは2024年度のことであり(2019年度と同じ市場価格が発生したと仮定)、前年度とは2023年度のことである(2020年度と同じ市場価格が発生したと仮定)、と仮想的に考えてみよう。
表3.市場価格高騰時の参照価格等 試算結果
(円/kWh)
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
①前年度(2023年度)年間市場平均 | 9.89 | |||||||||||
②当年度(2024年度)月間市場平均 | 7.49 | 7.85 | 8.41 | 9.46 | 14.20 | 9.75 | 8.92 | 7.33 | 7.71 | 7.28 | 6.79 | 6.21 |
③前年度(2023年度)月間市場平均 | 5.40 | 4.78 | 5.67 | 5.19 | 7.70 | 7.50 | 4.54 | 4.73 | 10.32 | 52.71 | 6.84 | 5.77 |
④月間補正値(②ー③) | 2.09 | 3.07 | 2.74 | 4.27 | 6.50 | 2.25 | 4.38 | 2.60 | -2.61 | -45.43 | -0.05 | 0.44 |
⑤参照価格(①+④) | 11.98 | 12.96 | 12.63 | 14.16 | 16.39 | 12.14 | 14.27 | 12.49 | 7.28 | -35.54 | 9.84 | 10.33 |
⑥プレミアム(基準価格-⑤) | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 2.72 | 45.54 | 0.16 | 0.00 |
⑦月間総収入(②+⑥) | 7.49 | 7.85 | 8.41 | 9.46 | 14.20 | 9.75 | 8.92 | 7.33 | 10.43 | 52.82 | 6.95 | 6.21 |
出所:再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会
FIP開始後の2023年度(1月)に市場価格が高騰すると、FIP発電事業者はまず市場売電のルートを通じて大きな売電収入を得ることとなる。翌年度(2024年度)には市場価格は沈静化し、売電収入自体は相対的に小さなものとなる。
ところが、現在の参照価格計算ルールのもとでは参照価格がマイナス値となるため、2024年度のプレミアムが非常に大きなものとなり、FIP発電事業者は再び大きな収入を得ることになる。
2024年度には需給は逼迫していないにも関わらず、このように高いプレミアムを支払うことは、発電事業者に対して誤ったメッセージを発することとなり、供給過多により市場価格を一層下落させるおそれもある。
また過剰なプレミアムを交付することは、需要家の負担を増大させることとなり、適切ではない。
よって第35回会合では参照価格の算定方法を見直し、参照価格がマイナス値となるときはゼロ円を下限値として、参照価格=0円/kWhとみなすことが提案された。
(ただしバランシングコストについては外数として扱い、非化石取引市場の収益を加えて0円/kWhを超える場合を除く)
参照価格の下限値をゼロ円に変更した場合の、1月のプレミアム等は表4のとおりである。
表3の試算と比較すれば1月のプレミアムは大きく抑制されるが、年間を通じたFIP発電事業者の収入も大きく減少することとなる。このため、可能な限り1月に発電量を増やしたい、という発電事業者のインセンティブはあまり変わらないと予想される。
表4.参照価格の下限値をゼロ円とした場合の試算
(円/kWh)
1月 | |
①前年度(2023年度)年間市場平均 | 9.89 |
②当年度(2024年度)月間市場平均 | 7.28 |
③前年度(2023年度)月間市場平均 | 52.71 |
④月間補正値(②ー③) | -45.43 |
⑤参照価格(①+④) | -0.00 |
⑥プレミアム(基準価格-⑤) | 10.00 |
⑦月間総収入(②+⑥) | 17.28 |
出所:筆者作成
2022年度から開始されるFIPは、新設電源のFIP適用のほかに、既設のFIT電源からFIP制度への移行が進むことも期待されている。
ところが前項で見たとおり、現在のプレミアム算定ルールのもとでは、市場価格が高騰した翌年度にはプレミアムは少額となり、表3の試算では4月~11月および3月のプレミアムはゼロとなっている。
FIP開始の前年度となる2021年の冬季は、東京エリアで需給逼迫の可能性が指摘されており、市場価格が高騰する可能性も否定できない。
FIPの開始後、またFIP制度に参加後であれば、FIP期間の20年間における市場売電収入とプレミアムを合計した総収入は平準化されると予想されるが、FIP移行初年度のプレミアム収入が少ないことが予見される場合には、FITからの移行は滞ることが懸念される。
そこで事務局ではFIP制度開始の初年度(2022年度)に限り、そのプレミアムの算定に用いる2021年度の市場価格については、2021年9月1日時点のTOCOM先物価格を上限として設定することを提案している。(太陽光:日中ロード、その他:ベースロードを東西エリア別で採用)
表3・4の前提条件をベースに、TOCOM先物価格による補正を加えたものが表5である。
表5.TOCOM先物価格を上限とした際のプレミアム(太陽光)
(円/kWh)
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
①2021年度年間市場平均 | 7.04 | |||||||||||
②2022年度月間市場平均 | 7.49 | 7.85 | 8.41 | 9.46 | 14.20 | 9.75 | 8.92 | 7.33 | 7.71 | 7.28 | 6.79 | 6.21 |
③2021年度月間市場平均 | 5.40 | 4.78 | 5.67 | 5.19 | 7.70 | 7.50 | 4.54 | 4.73 | 10.32 | 16.46 | 6.84 | 5.77 |
④月間補正値(②ー③) | 2.09 | 3.07 | 2.74 | 4.27 | 6.50 | 2.25 | 4.38 | 2.60 | -2.61 | -9.18 | -0.05 | 0.44 |
⑤参照価格(①+④) | 9.13 | 10.11 | 9.78 | 11.31 | 13.54 | 9.29 | 11.42 | 9.64 | 4.43 | 0.00 | 6.99 | 7.48 |
⑥プレミアム(基準価格-⑤) | 0.87 | 0.00 | 0.22 | 0.00 | 0.00 | 0.71 | 0.00 | 0.36 | 5.57 | 10.00 | 3.01 | 2.52 |
⑦月間総収入(②+⑥) | 8.36 | 7.85 | 8.63 | 9.46 | 14.20 | 10.46 | 8.92 | 7.69 | 13.28 | 17.28 | 6.99 | 8.73 |
出所:再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会
2021年9月1日時点のTOCOM先物価格(東エリア・日中ロード:円/kWh)は12月:15.46円、1月:16.46円、2月:16.85円、3月:11.22円であったため、表5では1月のみが上限値と差し替えられる。(なお、①2021年度年間市場平均7.04円の出所は不明である) もちろん、2022年度月間市場平均価格が実際にどうなるかは現時点不明であるが、2021年度年間市場平均価格を意図的に抑制したことにより、2022年度には相対的に大きなプレミアム収入が期待される。
この特例措置により、初年度2022年度から積極的なFIP(新設・移行)の増加が期待される。
まとめ
再エネ電源を一定程度、市場統合することを目指してFIP制度が開始される。制度そのものの予見性は重要であるものの、将来の市場価格は誰にも予測できないと考えられる。第35回会合では、発電事業者団体から価格変動リスクに対する多くの懸念が示された。
他方、FIPの20年間という長期で見れば基準価格こそが重要であり、市場価格が高い時間帯・季節に発電量を増加させるという原則・対策をどこまで実現できるかという点が長期的な収益を左右すると考えられる。
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、無理なく再エネ電源の市場統合が加速されるよう、優れた制度が設計されることを期待する。
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