脱炭素に向けて、再エネ導入以上に取り組む必要があるのが省エネだ。欧米の電力会社では、政府の方針などもあって、省エネの情報提供やサービスを強く打ち出しているケースは少なくない。ひるがえって、日本の電力会社では、まだまだこれからという印象ではないだろうか。2021年1月22日および3月16日にそれぞれ開催された、第1回、第2回「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」の議論をお伝えする。
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新電力等の小売電気事業者やガス小売事業者間の競争において、価格が重要であることは言うまでもないが、最近では再エネ電力の提供などにより、価格以外の付加価値による競争も生まれつつある。
今後ここに他社との差別化ポイントの一つとして、古くて新しい「省エネ」による差別化が加わることになりそうだ。
本稿では約3年ぶりに開催された「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」の2021年第1回・第2回会合の議論の様子をお届けしたい。
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、家庭での省エネ推進の重要性は一層高まっている。
電力・ガスを問わず、エネルギー小売事業者による省エネ情報提供制度は古くから存在し、電力・ガス小売全面自由化前の2005年には、省エネ法において、家庭等の一般消費者へエネルギーの供給をおこなう者に対して、省エネに資する情報提供の「努力義務」を規定している。
その具体的内容は「指針」(一般消費者に対するエネルギーの供給の事業を行う者が講ずべき措置に関する指針)で定めるとともに、情報提供等の取り組みの規範となる「ガイドライン」(エネルギー小売事業者の省エネガイドライン)が段階的に整備されてきた。
「指針」ではエネルギー小売事業者の努力義務において、消費者の省エネに役立つ情報として以下の5つの情報提供項目を定めている。
(1)一般消費者の毎月のエネルギーの使用量の前年同月値に関する情報
(2)一般消費者の過去一年間の月別のエネルギーの使用量及び使用料金に関する情報
(3)エネルギー消費機器の使用方法の工夫によるエネルギーの使用量の削減量及び使用料金の削減額の目安等の提供
(4)エネルギーの使用の合理化に資する機械器具につき、エネルギー消費性能、当該機械器具の普及促進のための助成制度等に関する情報
(5)前各号に掲げるもののほか、契約又は住居形態別のエネルギー使用量の目安等、エネルギー供給事業者の創意により実施する消費者が行うエネルギーの使用の合理化に資する情報の提供
この5項目の情報提供に関しては事業者の規模を問わず、すべての小売事業者の「努力義務」となっている。
他方、指針では、情報提供の実施状況の「公表および国への報告」についても定めており、これは事業者規模により差異が生じている。
小売全面自由化後の2018年度の指針改正では、電気・ガスの契約件数が30万件以上のエネルギー小売事業者には「公表・報告」の努力義務が課されているが、30万件未満の小売事業者では、「報告することが望ましい」と位置付けられている。
契約件数が30万件以上の事業者を努力義務対象とすることにより、電気では約9割、都市ガスでは約8割のエネルギー使用量をカバーすることとなる。
表1.情報提供、公表・報告事業者の区分
エネルギー種別の小売契約件数 -30万件超- | エネルギー種別の小売契約件数 -30万件未満- | |||
情報の提供 (指針5項目) | 情報の提供の 実施状況の公表・報告 | 情報の提供 (指針5項目) | 情報の提供の 実施状況の公表・報告 | |
特定事業者等 | 努力義務 | 努力義務 | 努力義務 | 報告することが望ましい |
非・特定事業者 | 努力義務 | 努力義務 (報告様式整備) | 努力義務 | 報告することが望ましい (報告様式整備) |
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
現時点、国に報告をおこなっている事業者数は、電気では旧一般電気事業者10社のほか大手新電力が3社、都市ガスでは旧一般ガス9社のほか2社、合計24社となっている。
例えば毎月のエネルギーの使用量の前年同月値に関しては、23社すべてが消費者に情報提供をおこなっており、その情報提供手段の約9割が会員制webサイトとの回答であった。
図1.エネルギー使用量の前年同月値 情報提供の手段
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
方針やガイドラインに沿って、エネルギー小売事業者から一般消費者に対して省エネ情報が提供されているものの、果たしてこれらの情報が一般消費者の省エネ行動を促すものとなっているのかどうか、省エネ行動を促す有効な情報として追加すべきものはないか、について検証する必要があると考えられる。
このため資源エネルギー庁は、一般消費者に対してアンケート調査を実施している。
アンケートでは「電力会社・ガス会社の変更理由、また電力会社・ガス会社を選ぶ際の基準」という設問に対して、約90%の回答者が「電気・ガス料金が削減できる」と回答したものの、「省エネの情報・サービスが充実している」を選択した回答者も約20%存在した。
また、省エネサービスの利用経験のある一般消費者は4%~24%と少ないものの、利用した者の満足度は53%~71%と高いことから、省エネサービスに関する積極的な周知をおこない利用度を向上させることにより、一般消費者の省エネ行動が促進される可能性がある。
図2.電力会社が提供する省エネサービスを利用した感想
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
また上記「指針」に沿って、エネルギー小売事業者が請求書や自社webサイト等で契約者へ提供している省エネに関する情報の認知度は表2のとおりであった。
表2.省エネに関する情報の認知度
情報提供の内容 | 知っている | 知らない | |
指針(1) | 一年前の同じ月のエネルギー使用量 | 65.2% | 34.8% |
指針(2) | 過去12か月間の月別のエネルギー使用量・使用料 | 71.2% | 28.8% |
指針(3) | 家電等の使い方による省エネ効果や光熱費の削減額 | 32.5% | 67.5% |
指針(4) | 省エネ型家電等の性能や購入時の助成制度 | 17.6% | 82.4% |
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会を基に筆者作成
指針(1)(2)の情報については認知度が高いのに比べ、指針(3)(4)の認知度は低水準であった。しかしながら指針(3)(4)も、「省エネに取り組むに当たり、役に立ちそうだ」との回答が23~25%あったことから、これらの情報が適切な方法で消費者に届くことにより、家庭での省エネの推進に繋がる可能性があると考えられる。
「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」では上記アンケート結果をもとに、以下のような情報の追加や情報提供方法の見直しについて提案している。
指針の見直し案①(関連情報の追加)
家庭のエネルギー消費量は、外気温などの外部要因によっても大きく変動する。このため省エネに資する情報と合わせて、気温影響等の関連情報を提供することを指針に定めることとする。
図3.指針1(エネルギー使用量の前年同月比)への情報の追加例
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
指針の見直し案②(類似世帯比較の追加)
住居形態別のエネルギー使用量や契約形態など、エネルギー消費の観点で類似する他の家庭と比較した情報提供をおこなうことは、ナッジ(※)の観点からも省エネ促進効果の高い情報であることが科学的に示されている。よって、これを指針に追加することとした。
※ナッジとは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるように人をそっと後押しするアプローチのことである。
指針の見直し案③(情報提供方法の改善)
上記アンケートの結果から、現行の指針に定めるいくつかの情報は消費者に十分に伝わっていないことが判明した。
これは、指針に定める情報が一箇所に集約されて掲載されておらず、消費者が一度に確認できないことが理由の一つとして考えられる。
よって、省エネに資する情報を一つの媒体に集約化して提供することを指針に明記することとした。
検討会では、エネルギー小売事業者に一層積極的な省エネ情報の提供を促すとともに、消費者による小売事業者の選択基準を明確化するため、省エネ情報提供の充実度を評価する制度を導入することを提案している。つまりこれは、優れた小売事業者を褒賞することによりレピュテーションを高め、他社との差別化を可能とさせる仕組みである。
新たな評価スキームでは、エネルギー小売事業者の定期報告(指針の実施状況)や任意の報告事項を元に、エネルギー小売事業者別に点数を付与し合計点でランク分けを行い、その結果を公表することとする。
具体的な点数付与方式としては、エネルギー小売事業者による情報提供の評価について、下記図表のとおり情報提供の「内容」と「提供方法」の2つの観点から、基礎点・加点を配点する。
情報提供の「内容」については、指針で定める事項を基礎点とし、その他一般消費者の省エネを促す上で有効と考えられる事項を加点とする。
表3.情報の「内容」に関する点数付与
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
情報の「提供方法」についても、指針で定める事項を基礎点とし、その他一般消費者の省エネを促す上で有効と考えられる事項を加点とする。
省エネに関する情報提供の「内容」と「提供方法」を統合した評価マトリクスと、評価スキームにおける配点は図4のとおりである。基礎点50点+加点70点の合計120点とされている。
図4.省エネ情報提供の評価スキーム配点
出所:エネ小売事業者省エネGL検討会
評価スキームによって得られた小売事業者ごとの得点は、資源エネルギー庁webサイトやエネルギー小売事業者の比較サイトにおいて公表される。
2021年度は評価スキームの試行期間と位置付けられ、2022年度から本格運用が開始される予定である。
また小売事業者の取り組みインセンティブをさらに高めるため、新たな褒賞として国の「省エネ大賞」において、エネルギー小売事業者の情報提供のサービスを評価する新たな部門を設けることが検討されている。
省エネ大賞を受賞することは、消費者に向けた分かりやすい差別化・アピールポイントとなると考えられる。
また一事業者のメリットだけでなく、エネルギー小売事業者の取り組みのベストプラクティスが横展開されることや、一般消費者による省エネ情報の認知度向上につながり、社会全体としてのメリットが得られると考えられる。
省エネ情報の提供は、小売事業者にとってコストアップ要因であるものの、付加価値をもって健全な競争がおこなえる新たな舞台となることを期待したい。
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