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最先端エネルギー技術を支援するGoogle「X」、風力ベンチャーへの支援を終了。技術開発と資金の困難さ

最先端エネルギー技術を支援するGoogle「X」、風力ベンチャーへの支援を終了。技術開発と資金の困難さ

2020/03/19

GAFAの一角であるGoogleグループ(Alphabet Inc.)は、さまざまなスタートアップへの支援を通じて、新技術開発を推進している。その分野にはエネルギーも含まれている。一方、将来性がないと判断され、資金提供が停止するケースもある。Googleの子会社、Google Xとして設立された現X Developmentが、どのような技術開発に着目し、支援しているのか、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が紹介する。

発明王エジソンは資金調達も天才

それまでにない新技術を一定の形にするには、独自の着眼点や忍耐力はもちろんのこと、「資金」も劣らぬほど重要である。数百年に一度の発見をしても、無名のまま歴史に消えて行った人がどれだけいたことか。
逆にスポンサーを獲得することで才能が大きく花開いたケースもある。例えば「私に支点を与えよ。されば地球を動かしてみせよう。」と言ったのは古代ギリシアのアルキメデスだが、物理学者・数学者・哲学者・技術者、そして天文学者でもあった彼はシラクサの王ヒエロン2世(あの“黄金の冠”について調査をアルキメデスに命じた王)にその才能を高く買われて軍事技術の責任者に任命された。その後、てこの原理や集光などの知識を具体化した強力な迎撃装置をつくり上げてシラクサの人々を守ったが、これを逆に見ると、人類史上で最高の天才の一人であるアルキメデスでさえ、王様のバックアップがなければ“難しい事をずっと考えていただけの人”で終わっていたであろう。

アルキメデスが考案した「アルキメデスの鉤爪」。てこの原理などが応用されている。

またエジソンは「XXまでにXXを完成させる」とプレゼンテーションすることで資本家たちから資金を集めてアイディアを製品化させる能力にたけており、 “金融王”と言われたモルガン財閥の創始者、ジョン・モルガンからも融資を得ていた。つまりエジソンは、ただ技術を開発するだけでなく、事業化させるために知恵と執念を注いだからこそ“発明王”として名を残している。

そして21世紀の今では「エンジェル」や「クラウド・ファンディング」など様々な方法で新技術に資本をつけることが可能となっており、その点で技術者にとってチャンスは昔より格段に多くなっている。中でも大手IT企業Googleは極めて独創的なエネルギー技術の育成に寄与している。

革新的技術の開発に出資するGoogle「X」

Googleは2010年に「Google X」(以下、「X」)という子会社を設立して革新的な技術の開発に乗り出している。2015年からはGoogleの親会社であるAlphabetの子会社となり、社名もX Developmentに変更した。 同社は“完成への難易度は非常に高いが、もし実現すれば大きな効果をもたらすような壮大な技術”の開発を目標としている。

自動運転車「Waymo」や、自然な形で視界の中にメッセージが表示されたり、手で操作する必要なく声だけでそれに返信できるメガネ型コンピューター「Smart Glass(現GLASS)」、あるいは高度20kmの成層圏にインターネット基地局の設備を乗せた気球を飛ばし、ネット接続ができていない地域に電波が届くようにする技術を開発する「Project Loon」などが支援対象となっている。

2020年3月に発表された第5世代のWaymo GLASS Project Loonの電力供給は太陽光発電。

例えば、この「Loon」はGoogleにとって救世主になるかもしれない。というのも、現在は地球上の数十億人がインターネットを使える環境にないが、「Loon」の技術によってもっと多くの人たちがGoogleを使うようになれば、同社の売上は何倍にも成長する。それだけではなく、新たな数億、数十億人が最新の知識を共有できれば「隠れたアルキメデス」が何人も頭角を現して世界を変える技術を実現するかもしれないし、前時代の不公正な因襲に苦しむ人たちが基本的人権に目覚めるきっかけとなる可能性もある。

通常、実現性が低いと投資家からの出資や金融機関からの融資を得るのは困難だが、“ムーンショットな=月探査ロケットのように実現性が極めて低いものの、完遂できたら極めて意義深い技術”に限定して巨額の資金を出すのはGoogleぐらいではなかろうか。

革新的なエネルギー技術にも出資。MaltaとDandelion

「X」は、今まで誰も実現させていないエネルギーの技術開発にも出資している。

太陽光発電や風力発電で得たエネルギーを、高温の溶融塩を入れた大型タンクに最長で数週間も保存するという蓄電技術「Malta(現MALTA)」では、「必要な時に発電できない」という再生可能エネルギーの弱点をカバーできる可能性がある。

このシステムでは保存された熱と冷却された液体との温度差を使って電気として系統に乗せるが、低コストでの製品化が実現したら再生可能エネルギーの利用率が飛躍的に高まるであろう。

Maltaの開発の様子(ProjectXウェブサイトより)

地中熱を使ってヒートポンプを稼働させ、建築物の冷暖房を効率化するという考え方は、以前からあり、一部では実用化もされている。しかし、既に家やビルの建っている下の地中深くにパイプラインを掘削する技術の開発が困難であった。これに対し、プロジェクト「Dandelion(現DANDELION)」は、90~150メートルまで掘削しても採算に合う技術を無事に完成させることができた。今では100名規模の企業に成長してニューヨーク州だけで数百カ所の実績を上げている。

DANDELIONウェブサイトより

この二つはXの子会社となり独立した。Xでは「卒業(GRADUATED)」と呼ぶ。

“上空300メートルの風力発電”への資金サポートは終了へ

Xは2013年、地上1,000フィート(約300メートル)の強くて安定した風をそのまま発電の動力に使う技術「Makani」を傘下に置いた。
発電設備とケーブルでつないだ小さい無人プロペラ機を上空まで飛ばし、そのあとは強風に乗って飛行機が凧のように回転運動するが、その動力を使って600kWを発電させる、という技術である。送電設備の敷設や維持が困難な遠隔地や離島において非常に有望であり、2019年7月にはノルウェー・カルメイの沖合で初の洋上発電試験を成功させた。

しかし2020年2月19日、Makaniの幹部は自身のブログでXからの離脱を発表*、2月20日にはXの幹部アストロ・テラーが支援終了の声明をだした。これにより、Xはこれまで7年間続けてきたMakaniへの支援を終了することが明らかになった。

Makani のデモの様子(Makani websiteより)

その背景として、Makaniの幹部のひとりは「技術面では大きく進歩したものの、一般的な風力発電のコストが想定を超えて安くなり、価格競争力がなくなってしまった」と述べている。加えて、このところ「X」がエネルギー技術への出費額を削減していることや、Makaniに人事的な問題があるとも一部で報道された。
ただしMakaniの技術開発はこれで終了するわけではなく、今後は欧州石油最大手の英蘭Royal Dutch Shellがメインのスポンサーとなり、プロジェクト継続を模索していく(Xの支援終了と同時に発表された)。やや強引な「卒業」に見える。

島国であるうえ多くの離島がある日本にとっても、独立で運用できる600kWのマイクログリッドは非常に魅力的な技術となるので、是非とも完成させて頂きたいものである。

「X」創業メンバーの一人は日本人だが、残念ながら手掛けているプロジェクトに日本発の技術は一社もない。これからでも、数社ほどXに認められる日本企業が出現することを願うばかりである。

*Makani CEOのFort FelkerによるX離脱についてのブログ「A long and windy road

参照サイト

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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