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新たな電力システムに原子力の居場所はあるか

新たな電力システムに原子力の居場所はあるか

2021/06/28

日本政府の温室効果ガス削減目標が2030年46%減に修正され、2050年カーボンニュートラル宣言と併せて、日本社会は急速に脱炭素に向かっている。こうした中、カーボンニュートラルな電源として、原子力に対する期待が一部で高まっている。しかし、本当に原子力が脱炭素社会で何らかの役割を果たすことができるのだろうか。原子力が直面する現実はどうなのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。

10年サイクルで変化する日本の電力政策

電力政策は今年、新たな10年のサイクルに入った。今後10年の政策を大元で規定するのは、言うまでもなく、政府が4月に新たに設定した2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標「2013年度比46%減」だ。目標達成に向けた道筋は今年改訂される新たなエネルギー基本計画で示される見通し。その中身はまだ不透明だが、原子力の扱いが最大のカギであることは間違いない。電力システム改革の文脈に原子力を位置づける作業がいよいよ求められている。

ここ最近の電力政策は10年サイクルで括ることができる。小売部分自由化とともに始まった2000年代は、自由化の10年だった。自由化範囲は段階的に広がり、日本卸電力取引所も発足した。ただ、原子力ルネサンスが盛り上がる中、全面自由化は見送られ、自由化政策は失敗しかけていた。

そんな状況下で起きた2011年3月の福島第一原発事故が、2010年代の電力政策の方向性を決定づけた。自由化政策のアクセルがあらためて噴かされ、戦後長く続いた9電力体制は解体された。原子力の稼働停止が長期化する一方、FIT制度が創設され太陽光など再生可能エネルギーの導入量は飛躍的に増えた。

そして、2020年代。昨年10月のカーボンニュートラル宣言に続き、今年4月には2030年の温室効果ガス削減目標が従来の26%から46%に上方修正された。2020年代の電力政策の最大のキーワードが脱炭素になることは間違いない。

もちろん2015年のパリ協定採択を契機に、電力低炭素化に向けた取り組みは強化されている。そういう意味では、政策の方向性はこれまでと大きく変わらず、従来の取り組みが加速するだけだとも言える。だが、そんな中、2010年代と比べて風向きが劇的に変わりうる要素が一つある。原子力だ。

「失われた10年」から原子力は復活するか?

原子力政策にとって2010年代はまさに「失われた10年」だった。福島第一原発の事故を踏まえた新規制基準の策定や検査制度の見直しなど保安面の改革は行なわれたが、資源エネルギー庁所管のエネルギー政策としてはほとんど動きがなかった。

そんな原子力政策が再始動しつつある。エネ庁は4月、「原子力イノベーションエコシステム」という新たな概念を総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会に提示した。脱炭素社会の実現とエネルギーの安定供給に貢献できる、安全性に優れた原子力推進の体制をあらためて構築するという。

原子力への追い風は、脱炭素だけではない。供給と需要の両面で、従来の電力政策の前提が覆る構造的変化が顕在化していることだ。

供給面では昨年度冬季の発電電力量不足による需給逼迫、そして今年度冬季の発電容量不足という非常事態だ。大手電力が地域独占の時代に建設した大規模集中電源が豊富にあり、需要を満たすために必要な供給力は潤沢にあるという従来の常識が崩れつつある。自由化と再エネ導入拡大という発電事業を取り巻くダブルの環境変化は、老朽火力の市場退出を想定以上に早めている。

一方、需要面でも、人口減少等で電力需要は今後減少に転じるという近年の政策論議の前提が大きく崩れている。エネルギー全体の脱炭素化に向けて、電化率の大幅な向上は至上命題になりつつあるからだ。例えば地球環境産業技術研究機構(RITE)による2050年脱炭素の試算では、電力需要が現在の年9,000億kWh程度から1兆4,000億kWh近くまで増加するという複数のシナリオが示された。

原子力はすでに電源としての信頼も価値も失っているかもしれない

こうした需要の増加は当然、中長期的な供給力不足の懸念を高め、原子力待望論を元気づかせる要因になる。だが、原子力の容量価値(kW価値)はそれほど信頼できるものだろうか。大規模災害や事業者の不祥事、司法判断などにより稼働停止を余儀なくされるリスクが原子力は他の電源種に比べて高いことは否定できないからだ。

例えば、2000年代を振り返っても、2002年の東電のトラブル隠し発覚、2004年の関電・美浜原発での死傷事故、2006年の電力各社のデータ改ざん発覚、2007年の中越沖地震による東電・柏崎刈羽原発の被災などがあった。福島第一原発事故後、原子力の安全性への国民の目が厳しさを増してからは運転差し止めを求める裁判で原告が勝訴するケースも増えている。東電・柏崎刈羽原発で核物質防護の不備が発覚するなど事業者の深刻な不祥事も相変わらず起きている。

原子力の稼働停止が連鎖的に発生するリスクが少なからず存在する以上、相応の規模の供給力をバックアップとして持たなければいけない。その供給力もCO2を排出しないことが当然必要で、ゆくゆくは水素やアンモニアを燃料とした火力発電が期待される。であるならば、脱炭素時代の電源構成は、最初から再エネと水素・アンモニア発電の二本柱でいくという選択肢もあるだろう。

脱炭素に向けた新たな電力システムでは重要性を増す調整能力(ΔkW価値)を提供できないことも大型原発の弱点だ。従来のシステムでは「王様」として君臨していた原子力の居場所が、再エネ中心に再構築される新システムの中にあるかどうかは自明ではない。原子力の存在がシステム全体の安定性を下げる可能性もある。2030年や2050年という時間軸ごとに、こうした問題と正面から丁寧に向き合うことが必要ではないか。

木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

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