マクドナルドも、ついに2050年カーボンニュートラルを宣言した。多くの企業が同様の宣言をしていることから、この宣言そのものには真新しさはないかもしれない。しかし、ファストフードはサプライチェーンのCO2削減が簡単ではない領域であり、そもそもマクドナルドは早くから脱炭素に取り組んできていた。その証拠に、いま、欧米での企業の脱炭素進展度合いのメルクマールとも言えるPPAの契約容量は原発一基分相当の1GWを超える。なぜ、マクドナルドはここまで強大にPPAを推進できたのか? その立役者には、フェイスブックの再エネ調達も支えるある存在があった。今回はマクドナルドの取組みに加え、企業が排出削減を行う上でカギとなるパートナー形成に迫りたい。
10月5日、ファストフード世界大手のマクドナルドが、2050年までにグローバル事業全体でCO2の排出量をネットゼロにすると宣言した。また、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の国際キャンペーンであるRace to Zeroと、科学的根拠に基づく削減目標イニシアチブ(SBTi)のBusiness Ambition for 1.5°Cにも署名した。
Business Ambition for 1.5°Cは、2019年にニューヨークで開かれた国連気候行動サミットで発足したイニシアチブだ。産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2℃ではなく1.5℃までに抑えることを目指す。10月14日現在、世界936社の企業がコミットしており、日本からもリコーやソニー、花王、パナソニックなど30社以上が参加している。
このイニシアチブには、まもなく始まるCOP26に向けて、気候変動対策の強化を求める意図がある。マクドナルドという世界大手が開催直前に署名したことは、COP26にも大きなインパクトをもたらすかもしれない。
さて、これまでマクドナルドがどのようなCO2排出削減目標を立てていたかというと、2030年までに直営・フランチャイズ店舗や事務所からのCO2排出量を、2015年に比べて36%削減するとしていた。サプライチェーン上の排出削減量は、同31%と設定していた。これらの目標は2018年3月の発表当時、ファストフード業界では意欲的な目標とされた。
目標達成にあたり、排出量の多い牛肉の生産や店舗で使用するエネルギー、パッケージ、廃棄物などの分野でサプライヤーと協力しながら炭素排出を減らすとしていた。いわゆる自社の事業所以外からの排出量であるスコープ3に相当する、これらの排出量を合わせると、同社全体の排出量の約64%に相当する。
こうした業界の中での脱炭素の取組みの先駆的位置づけにあったマクドナルドはPPA調達においても先行した。具体的には、マクドナルドでは、米国でこれまでに5つのバーチャルPPA契約を締結している。2019年の最初の2つはテキサスにおける風力発電と太陽光発電で、合計の発電容量は380MWだった。2020年には、2件の風力発電と1件の太陽光発電による契約を追加。これによってバーチャルPPAの容量は、風力発電547MW、太陽光発電583MWの合計1,130MWとなった。なお、バーチャルPPAというのは、再エネ発電所の電気を市場に供給し、環境価値のみを契約する需要家に供給する一方、需要家が使用する電気は電力系統を通じて供給し、PPAの売電価格と需要家の購入価格の差額を決済するというしくみで、再エネ発電所の発電電力量と需要家側の需要を一致させる必要がないというメリットがあるしくみだ。
マクドナルドが導入したトータルのバーチャルPPA容量は、店舗8,000件を運営できる規模だという。また、2030年に36%という排出削減目標の半量に到達できるとしている。
しかし、マクドナルドがPPAをここまで追及することができたのには、ある相棒の存在がいる。その存在こそ、マクドナルドのバーチャルPPA推進の立役者であるApex Clean Energy(以下、Apex)だ。
Apexは、おもに太陽光・風力発電の開発、建設、運用を行う再エネ事業者だが、近年はPPAの橋渡し役として活躍している。Apexは、発電所を所有せず、開発から運用までとPPAの締結を行うため、再エネプロバイダとも呼ばれる。
同社は2014年ごろからPPAに関するサービスを始めた。初の契約先はイケアで、2014年にテキサスの風力発電所でPPAを締結した。2019年に結んだPPAの総容量は2GWに達し、調査会社大手のウッド・マッケンジーから、同年の米国の再エネプロバイダのトップと評価された。
2019年に、マクドナルドが初めてバーチャルPPAを結んだテキサスのアビエーター陸上風力発電プロジェクトでは、Apexがファンド運用会社とともに交渉に当たった。
ちなみに、このアビエーター陸上風力発電所へは、関西電力が48.5%を出資している。また、アビエーター陸上風力発電プロジェクトのバーチャルPPAには、マクドナルドだけでなくフェイスブックも参加している。
バーチャルPPA以外の取組みとしてユニークなところでは、フロリダにあるディズニーワールドリゾートにおいてネットゼロ・エネルギー店舗の旗艦店を新築する試みも行っている。屋上には前面に太陽光パネルを配し、壁面緑化や自動開閉で温度調節するルーバーなども取り入れた。フロリダという温暖な気候だからこそ実現できたのかもしれないが、1店舗ごとの地道なエネルギー利用の効率化も重要になってくるだろう。
また、サプライチェーン全体の脱炭素化は同社にとっても大きな課題だ。今のところは、再エネへのシフトというよりも、原材料の持続可能性の向上、中でもパティの主原料である牛肉へのはたらきかけに力を入れている。というのも、畜産は気候変動問題について逆風が強まっているからだ。
2050年ネットゼロを宣言したマクドナルドだが、達成への道のりは並大抵のものではない。現時点の排出削減は、店舗と事務所の排出量が8.5%、サプライチェーン全体では5.9%だ。今後は米国だけでなく、日本を含む世界各国でバーチャルPPAのような取組みが拡大されると予想される。
サプライチェーンに関しても、畜産や農業、輸送といった幅広いセクターで脱炭素化が求められる。逆に、マクドナルドがサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを強化すると、世界全体の脱炭素化も大きく前進すると思われるため、今後の動向に注目だ。
それとともに、マクドナルドは引き続きPPA調達をApexとの連携の下で今後も進めていくだろう。日本においてはまだこうした相棒を見つけてPPAを強力に推進する向きは出てきていないが、世界の潮流を見ても、また今後の化石燃料動向を見ても、日本企業にとって自社エネルギー構成の中でのPPA比率を高めていく動きはじきに本格化するだろう。そうしたときに、その道の相棒を見つけることができている企業とそうでない企業では、投融資の呼び込みや企業価値の向上に差が出てくるかもしれない。
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