現在、エネルギー業界を含むほとんどの業界は、大きな変化の真っただ中にある。現在の事業も近い将来には陳腐化しかねない。こうした中にあって、どのようにすれば生き残れるか、頭を悩ましている事業者も多いのではないだろうか。事業環境の変化に対応していくためには、これまでの延長で事業を考えていてはいけない。では、どのように事業環境の変化に対応していくべきなのか。熱管理士・電気管理士・放射線取扱技術者(第一種)の資格を持ち、数多くの日本を代表するエネルギー関連企業と未来創造や戦略策定にも関わる、立命館大学経営管理研究科(MBA)客員教授の河瀬誠氏によるレクチャーを3回に分けてお届けする。
気候変動問題やデジタル化など技術の進歩、自由化などの規制緩和、少子高齢化などは、日本の産業にそれぞれ影響を与えます。当該事業での経験の長い事業者でも、また新規参入してきた事業者にとっても、こうした新たな変化の中で、事業戦略を立案することは容易ではありません。
激変する事業環境の中で、事業戦略を立案するためには、まずは妥当な未来を予測することが必要です。変化する未来を予測せずして、戦略を立てることはできません。
とはいえ、事業環境の変化を予測することは簡単ではありません。
未来が現在の延長線上で描けない理由は、現在の社会が大きな転換期を迎えていることにあります。現在はまさに、「工業社会」から「知識社会」への転換の途上にあると言えるのです。
社会の転換の大きな原動力になるものは、技術です。この技術がドラスティックに変化しています。デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉は聞いたことがあるでしょう。デジタル技術の劇的な進化が、通信事業ではグーグルという企業を、電子機器ではアップルという企業を、また流通小売業ではアマゾンという会社を生み出しました。こうした企業が、もともとの業界をトランスフォーム(転換)していったのです。
未来予測はよく、PEST(政治、経済、社会、技術)の予測だと言われます。
しかし、政治や経済の予測は困難です。たとえば、政治でいえば米国のバイデン大統領の当選は選挙後もしばらく読めませんでしたし、経済であれば1ヶ月先どころか明日の株価も読めません。
それに対して、技術は比較的予測しやすいといえます。また、社会に関連する人口動態も、かなり精度良く予測できます。また、技術、人口動態が、政治と経済と社会のあり方を変える原動力と言えるのです。さらに、その基盤として、気候変動も政治・経済・社会のあり方を変える大きな要素です。
技術は、指数関数的に成長します。技術が市場に出てくるまでには時間がかかりますが、一度登場してしまうと、桁違いの速度で加速しながら成長します。
このような特徴があるので、来年や再来年は起きないかもしれませんが、5年から10年の間には間違いなく大きな変化が起きることが予想されるのです。
過去の事例としては、携帯電話(いわゆるガラケー)に対するスマートフォン、フィルムカメラに対するデジタルカメラ、メインフレーム(汎用計算機)に対するパソコン(PC)などがあります。こうした変化は、急激に起こるので、対策を立てようとしても変化が始まった時にはすでに手遅れとなってしまうことも多いのです。
これからも例えば、再生可能エネルギーの更なる拡大と低コスト化、あるいは電気自動車と自動運転の普及などが、この1年〜2年でどこまで進展するかは予測困難ですが、これから確実に起きることでしょう。
気候変動対策も同様です。2030年に日本は温室効果ガスを46%削減するという目標をすでに立てています。今年や来年の温室効果ガス排出削減は大きくないかもしれませんが、どこかで急激に削減を進めることになります。
このように、この先5年後、10年後までに起きる、大きな変化に備えておくことが必要です。こうした大きな変化が起きた未来から逆算して、現時点でどのような対応をすべきかを考えましょう。これが「バックキャスティング」という考え方です。未来からの逆算ということで、「フューチャーキャスティング」と呼んでもよいでしょう。
もちろん、大きな変化がなさそうなら、既存の事業を進めていけばいいだけの話です。
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