主力電源化が求められる再エネにあっても、長期的には洋上風力への期待は大きい。高い設備利用率が期待でき、海外では欧州を中心に建設が進んでいる。日本では今後、どのような政策をとっていくことで、洋上風力の導入が促進されるのだろうか。2021年9月21日に開催された、第16回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」における洋上風力をめぐる議論をお届する。
審議会ウィークリートピック
2020年12月に取りまとめられた「洋上風力産業ビジョン(第1次)」において、洋上風力発電は、①大量導入、②コスト低減、③経済波及効果が期待され、再エネの主力電源化に向けた切り札して位置付けられている。ビジョンでは2030年に10GW(1,000万kW)、2040年に30~45GWの案件を形成することや、着床式発電コストを2030~2035年までに8~9円/kWhにするといった官民の目標が設定されている。
このため『再エネ海域利用法』が施行され、洋上風力発電事業を実施可能な促進区域を国が指定し、事業者が長期(30年間)の海域占用を可能とする制度が創設され、事業の安定性を確保している。また漁業者等の地域関係者間の協議の場である協議会を設置することにより地元調整を円滑化し、事業者の予見可能性を向上させている。
このように洋上風力発電の事業環境は大きく整備されたものの、「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」の第16回会合では、まだ多くの課題が残されていることが事業者から指摘されている。本稿ではその概要をお伝えしたい。
再エネ海域利用法では法に基づく「促進区域」や「有望な区域」を指定・選定しており、2021年9月13日時点の促進区域の合計予定出力は189万kWとなっている。
表1.促進区域、有望な区域等の指定・整理状況
出所:再エネ等に関する規制等の総点検TF
促進区域の指定等に関するプロセスは図1のようなイメージである。
図1.促進区域の指定等に関するプロセス
出所:再エネ等に関する規制等の総点検TF
再エネ海域利用法では促進区域の指定基準として、以下の6つの基準が定められている。
① 気象・海象等の自然的条件と発電出力の量
② 航路等への影響
③ 港湾との一体的な利用
④ 電力系統の確保
⑤ 漁業への支障
⑥ 他の法律における海域及び水域との重複
また促進区域指定ガイドラインでは、促進区域の指定に先立って、早期に促進区域に指定できる見込みがあり、より具体的な検討を進めるべき区域を「有望な区域」として選定することを規定している。有望な区域の選定条件は以下のとおりである。
① 促進区域の候補地があること
② 利害関係者を特定し、協議会を開始することについて同意を得ていること(協議会の設置が可能であること)
③ 区域指定の基準に基づき、促進区域に適していることが見込まれること(例えば系統の確保)
また、有望な区域には至らないものの、都道府県が早期の協議会を希望している等、将来的に有望な区域となり得る区域を「一定の準備段階に進んでいる区域」として公表している。
「⑫千葉県いすみ市沖」は、「一定の準備段階に進んでいる区域」の段階を経ることなく、当初から「有望な区域」として選定されており、条件さえ整えばスピーディーにプロセスを進めることが可能である。
洋上風力案件形成を加速化する施策の1つとして「日本版セントラル方式」の導入が予定されている。
世界各国では洋上風力導入支援のため、様々なタイプの「セントラル方式」が導入されているが、日本版では国による風況等の調査や系統確保を重視している。
洋上風力発電の事業採算性の試算や発電設備の設計をおこなうためには、風況・海底地盤・気象海象・生態系(環境影響評価)や漁業実態に関する調査が必要となる。
従来であれば複数の事業者が個別に調査をおこなうことにより、重複が発生し全体として非効率なものとなっていた。
今後は国が一括して迅速かつ効率的にこれらの調査をおこなうことにより、洋上風力事業者は事業開発という本業に専念することが可能となり、また共通のデータに基づく事業者間の競争が進むことにより、低コストな事業形成が進むことが期待されている。
このため国では2021~2022年度の2年間で調査項目や手法、データ形式の共通化に向けた実証事業をおこなっている。
また系統確保に関しては、国が系統を仮確保するスキームの導入が予定されているほか、広域系統のマスタープランを策定し、海底直流送電線などの新たな地域間連系線や基幹系統の整備が予定されている。
タスクフォースにて事業者等からの改善要望が集中したのも、このセントラル方式に関するものであるが、日本では実証事業が開始されたばかりの段階であることに留意願いたい。
日本風力発電協会(JWPA)はセントラル方式の早期導入として、有望な区域等の選定から促進区域の指定までのプロセスの加速化や海底地盤調査データの開示を求めている。
また環境アセスメントについては、各社に共通的な現地調査の実施(配慮書・方法書)までは国がおこない、事業者による作業の重複を避けることを要望している。
系統整備に関しては、英国やオランダのセントラル方式にならい、発電側/送配電側の責任分界点の変更を要望している。日本では発電事業者が連系点までの送電線等の整備をおこない、その費用は数百億円にも達することがあるが、オランダでは送配電事業者が送電線や変電所を整備することとなっており、発電事業者は発電の低コスト化に専念することが可能となっている。
図2.オランダの発電/送配電の責任・費用の分界点
出所:JWPA
RWE社はドイツの垂直統合型大手電力会社であったが、現在は再エネに大きくシフトしており、洋上風力発電では世界で2位となる合計2.6GWを保有している。その日本法人においては、九電みらいエナジー社や関西電力と洋上風力事業の協力協定を締結している。
RWE Renewables Japan社はタスクフォースにおいて、多数の具体的な提案・要望をおこなっており、以下では主要な要望を抜粋する。
1.風車の大型化に対応した基地港湾開発
世界的に見れば洋上風車メーカーはすでに3社に集約されており、風車の大型化(12MW~15MW)も進んでおり、日本でも同様の大型風車に対応したインフラ整備が不可欠である。
12MW機では風車のブレード長さは115m、モノパイル(基礎部分)の重量は2,000トンにも及ぶ。このため基地港湾は、十分な岸壁延長や広い保管ヤードを持つこと、また地耐力の強化が不可欠となる。
2.国からの各種データの提供
現在は、海域地盤調査や環境アセス等は各事業者が個別におこなう必要があり、同じ調査を複数事業者が実施することとなり、対応する地元の負担が増えている。また海域調査を実施できる企業が限られており、調査企業の取り合いになっている状態である。
すでに一部の風況観測データや海底地盤調査データが国から提供されているが、データの質・量のさらなる向上が必要とされる。データは加工前の生データの提供が必要であり、入札直前ではなく、十分に余裕をもったタイミングでの提供を要望している。
また技術面では、海外ではフローティングライダーという高精度の気象観測技術の活用が主流となっているが、日本では乱流強度の算定についてウィンドファーム認証の問題がクリアされていないため、これを導入できずボトルネックとなっている。
3.カボタージュ規制の大臣許可運用の拡大
カボタージュ規制とは、国家主権・安全保障の観点から、自国内の貨物または旅客の輸送は、自国の管轄権の及ぶ自国籍船に委ねるべきとの国際的な慣行として確立した制度であり、多くの諸外国でも存在する。
外国籍船による自国内の貨物等の輸送については個別の事例ごとに審査をおこない、許可(特許)を付与した場合にのみ認めているが、個別の航行ごとに許可を申請していたのでは、時間がかかり非効率であることが問題として指摘されている。また外国人船員・作業員を乗船させた場合、日本籍船であっても一定期間ごとに外国の港に寄港する必要がある。
対応策として、促進区域を自動的にカボタージュ規制を緩和する特例を認める特区とすることが要望されている。
4.外国人船員・洋上作業員の資格緩和
洋上風力発電事業では、調査・建設・運用・保守などすべての段階において、洋上の専門技術者が必要である。現時点、日本ではこのような洋上専門技術者はわずかであるため、海外(外国人)技術者の活用が不可欠である。当面は日本の技術者が海外技術者から学ぶことにより、中長期的には日本の技術レベルを向上させることが期待される。
外国人技術者は日本の労働許可の取得が必要になるが、大学等の卒業あるいは従事経験10年などの高いハードルがあるため、外国人技術者の確保は困難であると指摘されている。
5.認証機関の門戸開放
現在、ウィンドファーム認証を実施することが可能な第三者認証機関は日本海事協会1つのみである(ただし、別の1機関(外資系)が日本適合性認定協会の認定取得に向けた審査中)。
現在も審査は案件で逼迫しているが、学識者による委員会形式であるため、学識者の不足がボトルネックとなることが指摘されている。
このため、学識者に依存した審査ではなく、IEC(国際電気標準会議)の認証システムとして国際的に登録された民間認証機関を活用することが提案されている。
また海外の認証機関の参入を促すため、電気事業法や建築基準法、港湾法などの技術要求を英語で明文化することが望ましい。
6.接続線(自営線)の課題
再エネ海域利用法に基づく公募指針において、FIT認定申請期限日は事業者選定の日から1年後とされている。
洋上風力発電事業者は系統の接続点まで長距離自営線(陸上を含む)の敷設が求められるが、1年以内に全ての地権者の同意を得ること(測量、契約、合筆、登記等作業や手続きも含む)は非常に困難である。また架空送電線ではなく地中埋設線が必要となる場合は、著しくコストアップとなってしまう。
よって自営線敷設における地権者との調整において、国の関与と支援を要望するとともに、事業者の判断で系統の合併や変電所の配置ができるよう、公募占用指針の中に明示することを要望している。
洋上風力は現時点、設備機器や人材、規格等すべてにおいて欧州等の海外が大きく先行している。よって日本国内のサプライチェーンが育つまでの間は、海外の技術等を積極的に取り入れる必要がある。
海外技術の活用は実務面で必要であるだけでなく、金融や保険の観点からも国際的に適合するプロジェクトとすることが重要である。
諸外国で実現している技術が速やかに日本でも適用できるよう、適切な規制改革が進むことを期待したい。
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