高い山々に囲まれ、雪解け水など豊富な水に恵まれた日本の地形は水力発電に適しており、その導入ポテンシャルは国土面積をはるかに超える中国、米国、カナダなどに次ぐ世界第5位だという。しかし、中小水力発電の導入量は10年でわずか20万kWと足踏みが続く。資源に乏しく、国土が狭い日本にとって、中小水力発電は、昼夜問わず安定的に発電する、貴重な純国産エネルギーだ。眠れる水力発電大国と言われた日本も、中小水力、中でも小水力発電の導入拡大に向け、取り組みを急ぐ。
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世界でもっとも導入が進む再生可能エネルギーが水力発電だ。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によると、2020年までの世界の累積導入量は12億kWを超え、再エネ全体の43%を占める。カナダやブラジルでは6割を超える電力を水力発電でまかなっているほか、中国や米国などでも大規模導入が進んだ。中でも中国は、電力供給の18%を水力発電が担っており、その発電量は1.2兆kWhを超えている。これは日本の総電力消費量を超える規模だ。
各国の水力発電の発電割合(2020年)
自然エネルギー財団のデータをもとに編集部作成
日本においても水力発電は総発電電力量の9%を占めており(自然エネルギー財団試算)、電源構成で最大の比率を占める再エネとなっている。
水力発電の開発は今から120年以上前となる明治時代末期から大正初期ごろから加速し、かつては日本の電力の約80%をまかなっていた。しかし、1960年代に終わりを迎える。1963年に関西電力の黒部川第四発電所、通称黒四ダムが完成。発電出力33万5,000kWを誇ったが、これだけのダムをつくることで河川が沈み、そこに住む貴重な生物のすみかが奪われた。
黒部ダムをはじめとする大型ダムが完成したものの、時を同じくして化石燃料や原子力の利用が拡大。さらにダム建設には膨大な時間とコストがかかるうえに、自然環境への影響が極めて大きいことなどから、日本の大規模ダム開発は限界を迎える。
その一方で、近年、ダム建設を伴わない小水力発電を中心とする中小水力への期待が高まっている。
国もエネルギー政策の方針である第6次エネルギー基本計画において、「中小水力発電は純国産で、天候に左右されない優れた安定供給性を持つエネルギー源であり、地域共生型のエネルギー源としての役割を拡大していくことが期待される」と評価する。特に有望視されるのが小水力発電だ。
日本における水力発電の導入ポテンシャル(包蔵水力)は、経済産業省の試算によると約1,200万kWあると推計されている。そのポテンシャルは「我が国の国土面積をはるかに超える中国、米国、カナダなどに次いで世界5位であり、欧州の水力大国であるロシアやノルウェーよりも大規模な発電量を誇っている」(第9回再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース)という。
包蔵水力とは、いわゆるエネルギーとして利用可能な水のエネルギーのことを指すが、その8割以上となる986万kWを3万kW未満の中小水力が占めることから、中小水力の導入拡大が期待されている。
日本の包蔵水力
出典:第9回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース
政府も2030年の温室効果ガス46%削減、2050年脱炭素に向け、2030年までに中小水力を1,040万kW導入する目標を掲げている。また環境省では2050年までに最大1,500万kWの導入ポテンシャルがあると推計する。
だが、そのポテンシャルとは裏腹に中小水力の導入は足踏みが続く。
2012年のFIT(固定価格買い取り)制度の導入からおよそ10年間かけて上積みできたのは20万kWに過ぎず、導入量は980万kW(2021年6月時点)にとどまる。2030年目標(1,040万kW)を達成するには、残り9年で60万kW追加せねばならず、再エネ総点検タスクフォースなどでは「(実現は)かなり厳しい」と指摘されている。高い導入ポテンシャルがありながら、2030年の達成すら危ぶまれる状況に、「日本は眠れる水力発電大国だ」という声すらあがっている。
今後の導入を左右するFIT認定量をみると、2021年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、調査遅れや地元協議ができないといった影響を受け、8件、1,341kW(6月時点)と大幅に落ち込んでいる。中でも1,000kW以上の中水力は0件と停滞、FIT認定においては1,000kW未満の小水力が中心になっている。
中小水力発電(新設)のFIT認定量(2021年6月末時点)
単位:kW(件)
認定(新設) | 200kW未満 | 200kW以上1,000kW未満 | 1,000以上5,000kW未満 | 5,000以上30,000kW未満 | 合計 |
2012年度認定 | 2,409 (31件) | 7,877 (15件) | 12,394 (5件) | 54,251 (5件) | 76,932 (56件) |
2013年度認定 | 5,434 (55件) | 11,112 (19件) | 18,120 (9件) | 186,181 (15件) | 220,848 (98件) |
2014年度認定 | 10,459 (107件) | 20,715 (37件) | 50,527 (22件) | 228,859 (21件) | 310,560 (187件) |
2015年度認定 | 4,014 (51件) | 7,079 (14件) | 4,774 (2件) | 59,640 (4件) | 75,507 (71件) |
2016年度認定 | 5,218 (57件) | 6,877 (15件) | 5,527 (3件) | 193,514 (13件) | 211,136 (88件) |
2017年度認定 | 1,813 (26件) | 2,870 (6件) | 7,999 (2件) | 47,641 (4件) | 60,323 (38件) |
2018年度認定 | 3,518 (58件) | 864 (2件) | 6,303 (3件) | 21,830 (1件) | 32,515 (64件) |
2019年度認定 | 3,365 (45件) | 5,727 (9件) | 20,866 (7件) | 14,700 (2件) | 44,658 (63件) |
2020年度認定 | 3,897 (53件) | 9,362 (16件) | 33,039 (10件) | 82,980 (5件) | 129,278 (84件) |
2021年度認定 | 501 (7件) | 840 (1件) | 0 (0件) | 0 (0件) | 1,341 (8件) |
合計 | 40,628 (490件) | 73,322 (134件) | 159,549 (63件) | 889,598 (70件) | 1,163,097 (757件) |
出典:経済産業省
世界の中小水力ポテンシャルが1.5〜2億kW(NEDO試算)とされる中、日本は1,500万kWと世界全体で1割に迫る開発余地を持つ。中でも特に市場拡大が予想されるのが小水力だ。
小水力とは、国土の狭い日本では1,000kW未満と定義されており、だいたい5,000軒程度の家庭の消費電力をまかなえる規模である。
小水力の耐用年数は45年程度とされており、他の再エネに比べて稼働期間が長く、改修などをおこなえば100年を超える、恒久的な使用も可能だとされている。また発電効率が高いという特徴を持つ。太陽光発電の設備稼働率が17%、風力発電(陸上)の25%に対し、小水力は60%と非常に高く、小水力1kWあれば1世帯分の電力をまかなえるといった試算もある。
小水力の最大の特徴が、ダム建設を伴わないという点だろう。いっときに大量に降る雨をエネルギーとして活用しようとすれば、大量の雨を貯めるために大型ダムが必要となる。それに対し、小水力は雪解け水など安定した水が流れ、水量を制御しやすい河川などがあれば、発電できる。このとき発電量を決めるのが、水の高さと水が流れるときの流量である。非常に原理が簡単であることも小水力発電のひとつの特徴だ。
小水力のしくみには大きくわけて「流れ込み式」「調整池式」「貯水池式」の3つがあるが、今、主流となっているのは流れ込み式だ。
小水力発電のしくみ
出典:経済産業省
流れ込み式とは、河川を流れる水を貯めることなく、水が流れるままに発電する方式である。調整池式は、夜間や週末の電力消費の少ないときに池に貯水し、電力消費量の増加に合わせて水量を調整しながら発電するというもの。貯水池式は、調整池式より池が大きい。水量が豊富で、電力の消費量が比較的少ない春や秋に大きな池に貯水しておき、電力消費の多い夏や冬に使用する、いわば年間運用の発電方式といえる。
日本でも太陽光発電の導入量は目覚ましい。太陽光発電の導入が進むと日が沈んだ夕方以降の電力を誰が補うのかが課題となるが、調整池式や貯水池式などの小水力が重要な役割を担えるかもしれない。ただし、現時点では、小水力はFIT制度のもとでの建設がほとんどだ。そのため、より多く発電したいという意図から流れ込み式が主流となっている。
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