CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(前編) | EnergyShift

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CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(前編)

CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)をどう理解すればよいか? —社会のエネルギーシステムからの視点—(前編)

2020年10月15日

連載 気候変動問題を戦略的に考えよう(10)

GHG(温室効果ガス)ネットゼロ(実質ゼロ)に向かうための最終手段とみなされるCCUSであるが、その真の意味はあまり理解されていない。ここでは通常とはやや異なる切り口から、松尾直樹氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関 上席研究員/シニアフェロー)が、CCUSの「見方」を端緒に、将来のエネルギーシステムを考察する。

CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)とは

今回は政策措置論ではなく、趣を変えて、将来の技術やエネルギーシステムの話をいたしましょう。

気候変動問題に関心のある方は、CCUSという言葉をお聞きになったことがあると思います。Carbon Capture, Utilization and Storageですね。

以前は、CCSのみが注目されていましたが、近年はUtilizationが付いてCCUSという形でくくられることが多いようです。最近では中国の習近平主席のステートメントにもあるように、「ネットゼロ」を公言する国が増えてきていますが、そのためにも、ますます注目されてくるでしょう。

CCUSは、化石燃料燃焼プラントからのCO2を捉え(通常は石炭火力ですが、LNG液化プラントや、最近は大気中CO2を捉まえるという技術も論じられています)、それを「利用」するか「(地中)貯留」する一連の技術です。

出典: IEA

実は、この2つのCCUとCCSは、かなり性格が異なります。どうしてCO2削減策としてのコンテクストで、ひとくくりで考えようとするのか理解に苦しみます。日本政府もそうですし、IEAもたとえば“CCUS in Clean Energy Transitions”という本を出版しているように、これらをひとつのカテゴリーで考えています。

この論考では、特にCCUに焦点を当て、その意味を、将来のエネルギーシステムとしてのあるべき姿から考えてみましょう。よくみるものとは、すこし異なった視座に基づく論考になります。

なお、この論考の前半は、日本エネルギー経済研究所・柴田善朗さんのこの問題をかなりよく整理した研究レポート*に依っているところが大きいことを記しておきます。

* 柴田善朗,「CCU・カーボンリサイクルに必要な低炭素以外の視点―CCUSという分類学により生じる誤解」,http://eneken.ieej.or.jp/data/8821.pdf

CCUS(特にCCU)に関するナイーブな疑問

CCUを論ずる前に、まず簡単な方のCCSに関して考えてみましょう。これはCO2排出に対するエンド・オブ・パイプ型技術ですのでわかりやすいですね。貯留した分のCO2が削減されます。

個人的には、CCSは(対策オプションのカードとして持っておくのはいいのですが)実施すべき対策として高い優先順位とすべきだとは思っていません。

通常、気候変動緩和策は、GHG削減「以外」の便益があります。たとえば省エネはエネルギーコストの削減がメインの目的で、CO2削減は副産物です。ですが、CCSは、CO2削減「しか」便益がありません(逆に増エネ技術です)。その意味で、CO2削減「にも」寄与する対策から優先的に実施していくべきというのが、わたしの考え方です。

次に、CCUに関して考えてみましょう。わたしはCDM(クリーン開発メカニズム)屋でもあったので「なぜCCUがCO2削減策なのか?」というロジックが最初はよくわかりませんでした。みなさんはクリアに説明できますか?

CCUのベースラインとは?

CCUは、捕捉された(そうでなければ大気に放出された)CO2を、燃料に合成して使い、それが従来の化石燃料利用を代替するわけですが、もうすこし整理すると、以下のようになります。

プロジェクトでは、補足/回収されたCO2由来の合成燃料利用に伴うCO2以外に、CO2補足に要するエネルギー、合成燃料のもうひとつの原料である水素製造のエネルギー由来のCO2が排出されます。

ベースラインでは、プロジェクトでは補足されたCO2と、この代替された化石燃料利用からのCO2が排出されます。

図にしてみると、以下のようなものになります。よくご覧になってみてください(第1近似として、化学分解や合成に必要なエネルギー投入由来のCO2は無視しています)。

※ 化学分解/合成に必要なエネルギー投入や燃料輸送に由来するCO2は記載していない。

さて、ここで対比すべき排出量を考えてみましょう。視点がいくつかあって、けっこう面白い頭の体操になります。

まず、一番左の(石炭火力からの)CO2排出量を基準に考えてみましょう。ベースラインではそれがそのままCO2として排出されます(上記図のe)が、プロジェクトでは、捕捉/回収された分が合成燃料になり、それが消費されてCO2として排出されます(a)。プロジェクトの最初の段階の捕捉率がもし100%とするなら(a)(e)はCの収支を考えると等しいはずです。

一方で、その合成燃料の需要を基準に考えてみましょう。合成燃料は、それに化学組成や物理特性の似た化石燃料を代替すると考えることが妥当でしょう。たとえばプロジェクトが同じ種類のベースライン燃料を代替するとした場合、(a)(b)は、同じ排出量となります。

CO2の捕捉/回収に必要なエネルギー消費に伴うCO2は、対比するものがベースラインにないため、プロジェクト側に排出増として効いてしまいます(c)

となると、問題は、残った(d)のCO2排出量がどの程度か? ということになります。H2源が天然ガスのようなHリッチな物質で、合成燃料が液体燃料などの場合、(水蒸気改質を経た結果の)CO2排出量(d)は、(b)よりも小さくなり、その差が、(c)やH2/合成燃料製造のエネルギー消費に伴うCO2排出量(ここでは無視した部分です)より大きいなら、全体としてCO2削減に効くこととなります。

ただ、このCO2削減効果はさほど大きくなく、合成燃料とH源のC比率の差に依存します。H源と合成燃料が同じ組成の炭化水素であった場合、CO2削減効果が見込めないのは明らかですね。これが最初の「CCUはCO2削減策なのか?」という疑問に繋がってきます。

CCUのCO2排出削減はどこから来るか?

結局わかることは、「CCUのCO2削減のオリジンは、H源が何であるか?」という点に尽きます。

天然ガスでもある程度の削減効果はありますが、それなら合成燃料などを作らずに、最初から天然ガスを燃料として使った方が、CO2捕捉や化学合成の際のエネルギーが不要になるため、はるかに賢い使い方ですね。どうしても液体の合成燃料が必要な場合にしか意味を持ちません。

すなわち、CCUがCO2削減策として大きな意味を持つのは、再エネ(か原子力)由来のH2が大量に得られるケースに限られるといえるでしょう。カーボンニュートラルメタンなどは、その場合の合成燃料になるわけですね。当たり前といえば当たり前の結論といえるでしょう。

ただこの場合、捕捉/回収されたCO2のCは、合成燃料のボディーにはなりますが、「利用するエネルギーの起源は、あくまでHであって、Cが燃えることではない」ことになります。

合成燃料燃焼CO2にかぎらず(これは重要)、CO2をどこかで捕捉/回収することができれば、Cは単にサイクルの中を、消費されることなく回っているだけとなります(カーボンリサイクル)。

これはCCSと対比すると違いが顕著になります。CCSでは、CO2削減の原資はあくまで捕捉/回収したCであるわけです。エネルギーの利用などもありませんし、水素も不要です。

ちなみに、CCUとして、エネルギー利用ではなく、原材料(たとえば建材)としての利用を含めて考える場合もありますが、CO2削減効果という視点からみれば、これはむしろCCSの一種と考える方が適していますね。

では、エネルギーという視点から見ると、どのようなことが考えられるのでしょうか。次回はそのお話しをします。

連載:気候変動問題を戦略的に考えよう

松尾直樹
松尾直樹

1988年、大阪大学で理学博士取得。日本エネルギー経済研究所(IEE)、地球環境戦略研究機関(IGES)を経て、クライメート・エキスパーツとPEARカーボンオフセット・イニシアティブを設立。気候変動問題のコンサルティングと、途上国のエネルギーアクセス問題に切り込むソーラーホームシステム事業を行う。加えて、慶応大学大学院で気候変動問題関係の非常勤講師と、ふたたびIGESにおいて気候変動問題の戦略研究や政策提言にも携わり、革新的新技術を用いた途上国コールドチェーン創出ビジネスにもかかわっている。UNFCCCの政府報告書通報およびレビュープロセスにも、第1回目からレビューアーとして参加し、20年以上の経験を持つ。CDMの第一号方法論承認に成功した実績を持つ。 専門分野は気候変動とエネルギーであるが、市場面、技術面、国際制度面、政策措置面、エネルギー面、ビジネス面など、多様な側面からこの問題に取り組んでいる。

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