気候変動問題を戦略的に考えよう(2) パリ協定のエッセンス | EnergyShift編集部

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気候変動問題を戦略的に考えよう(2) パリ協定のエッセンス

気候変動問題を戦略的に考えよう(2) パリ協定のエッセンス

EnergyShift編集部
2020/02/19
ブックマーク
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気候変動への関心が高まるいま、気候変動枠組み条約とCOP は世界中からの注目が高まっている。その25年にわたる道のりや問題点、世界中で何を目指しているのか、なぜそのゴールなのかを知ることは、自らの普段の行動だけでなく、これからのエネルギービジネスになくてはならない知識と言えるだろう。地球環境戦略研究機関(IGES)松尾直樹上席研究員がその成り立ちから現在までをわかりやすく解説する。

気候変動に関する国際枠組みの推移の理解 ― 気候変動枠組条約とCOP

今回は、パリ協定とはどんな国際制度で、その成否は何が握っているか? という点を考えてみましょう。

みなさんは、COPという用語を耳にされたことがあると思います。京都会議はCOP3でしたし、パリ協定が採択されたのはCOP21、昨年末にマドリッドで開催されたのはCOP25でしたね。

COPとは国連気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)の締約国会議(Conference of the Parties)のことで、毎年開催されることになっています。すなわち、UNFCCCはすでに四半世紀(!)の歴史を積み重ねてきたわけです。

UNFCCCは、京都議定書やパリ協定の親条約で、気候変動問題への国際的な国レベルの対策の枠組みを提供していると同時に、いくつかのベースとなる概念や仕組みを打ち立てました。それらを以下にまとめてみました。

『究極の目的=危険のないレベルでの大気中GHG濃度安定化』
この「危険のないレベル」が、パリ協定で気温上昇1.5–2℃として表現されたわけです。

『共通だが差異のある責任とそれぞれの能力に応じた対応』
先進国と途上国という区別は、パリ協定でようやくかなり取り払われたと言えるでしょうか。

『自主的な対策と先進国の自主的な目標設定』
『各国の対策の状況に対する報告と審査制度の整備』
このふたつは、下段でもうすこし考えてみましょう。

『コスト効果的な対策から実施』
これは市場メカニズムの導入に結びつきます。

『定期的な交渉プロセスの設置』
COPや補助機関会合のことです。

ここでは、温室効果ガス(GHG)削減(気候変動緩和)の側面から、UNFCCCを解説していきます。

目標の性格 ― 自主的それとも法的拘束力?パリ協定の成立まで

UNFCCCは、気候変動問題に関する最初の国際協定でした。そのこともあり、GHG排出目標に関しては、先進国に対してのみを対象にしています。また、その削減目標は自主的に設定することになっていました(原文はやや異なりますが実質的にはこういうことです)。

当時、気候変動問題に先行する地球環境問題に、成層圏オゾン層破壊問題がありました(いまでももちろん問題であり続けています)。この問題は、枠組みを規定するウィーン条約から、法的拘束力のある排出目標を持つモントリオール議定書という形で進化し、その度重なる改定で数値目標やカバレージを強化してきました。

これが大きな成功をおさめたため、気候変動問題に関しても、同様のアプローチが採られようとしたわけです。

その結果として、先進国に対して法的拘束力のある数値目標を含んだ、京都議定書が成立したわけですね。法的拘束力のある数値目標とは、国際協定の中に具体的な目標の数値が、義務事項(英語ではshallという助動詞で表現されます)として規定されることを意味します。この義務事項を受けて、規制される各国は、(通常は)それを達成するための法的措置を国内で講じることとなります。

先進国は、京都議定書第一期(2008~2012年)の次のステップとして、この仕組みを途上国にまで拡げようとしました。

しかしその結果、「それは時期尚早」とした途上国の強い反対を受けて、拡大は失敗に終わりました。それがコペンハーゲン会議(COP15)です。

このショックは当事国にとって非常に大きく、国連の下で、世界でいっしょに対策フレームワークを進化させて対応していこう、という従来の考え方では難しいのでは? という認識も芽生えてしまいました。小数の主要先進国や、先進国と途上国の二国間での取り組みに転換するという考え方も持ち上がりました。日本が提唱している二国間クレジット制度はその名残りと言えるでしょう。

ただ、やはりUNFCCC、国連の世界的な対策フレームワークを重視する欧州の熱意に押される形で、法的強制力という方向性は諦める代わりに、途上国まで含んだ「国による区別をできるだけ排除する」方向性は死守する形で合意に持ち込んだのが、パリ協定になります。

すなわち、目標設定は、その内容やレベルは、あくまで「その国の自主性に基づく」ものとすることで、その自由度と裏腹に、拒否や不参加を回避しようとしたのです。

それは各国の目標(を含む一連の宣言文書)のことを、Nationally Determined Contribution (NDC:国が決定する貢献)と呼ぶことからも、うかがい知ることができます。

結果として、(米国の現政権はやや特殊事情ですが)世界のほとんどの国が、それぞれにNDCを作成し、自らの約束としています(今年末までに改訂する国を含めて最初のNDCが出そろいます)。NDCは,パリ協定の「コア」となる道具立てであるわけですね。

目標の性格 ― グローバルな気温ゴールに向かって

各国のNDCに記された排出目標(正確には緩和目標)は、内容もレベルも自主的である一方で、パリ協定の大きな成果として、世界で向かうべき「気温上昇に対するゴール」への合意があります。このゴールが、産業革命以前を基準とし、1.5–2℃の上昇に抑えるということなのです。現在すでに1℃程度上昇していますので、残された余裕はわずかです。

科学的には、気温上昇をストップさせるためには(それがどんなレベルであるにせよ)世界の年間排出量を、ほぼゼロに近いレベルに抑える必要があります。パリ協定のゴール水準では、それを2050–2100年のタイムフレームで実現化することを意味します。

世界の年間GHG排出量は、まだピークにすら達していないため、まさにコペルニクス的転換に近いチャレンジが必要とされるわけです。

下のUNEP Gap Reportの図からも明らかなように、現在の各国のNDCsを集めてみても、このゴール達成にはほど遠い状況です。さあ、どうしましょう??

自主性をベースとせざるを得ないパリ協定においては、ふたつの手段が用いられることとなりました。

そのひとつが「グローバルストックテイク」と呼ばれるプロセスです。簡単に説明すると、各国のNDCは5年ごとに更新されていくことになっています。グローバルな気温上昇ゴール(-1.5℃から-2.0℃)に向かうためには、それを各国が「自主的に」「強化」していく必要があります。グローバルストックテイクとは、その5年ごとのチェックプロセスです。

このチェックプロセスは、各国それぞれのレベルが対象ではなく、世界全体(すなわちNDCの総計)で気温上昇ゴールに「向かっているかどうか?」(さらにはどの程度足りないか?)ということの評価です。現状としては、もちろん近い将来のNDC強化においても不足となることは目に見えています。

しかし、それをみなで確認し合って、強化に向けての気運の盛り上げと、自己(自国)責任の再考をうながすことで、なんとかゴールに向かって軌道修正をしていこうとするものです。

こころもとない気もしますが、フィードバックを効かそうとする点で、一種のPDCAサイクルのような仕組みと言えるかもしれません。

目標と実績 ― 実効性をどう担保するか?

ここでみなさん、疑問に思われませんでしたでしょうか? グローバルストックテイクにせよ、NDCにせよ、「将来排出目標」です。「実績」ではない(!)わけですね。

達成できないものを積み上げて気温ゴールに向かっても意味がありません。すなわち、「まずは各国でNDCをきちんと達成する」ということができてはじめて、パリ協定が意味を持ってくるわけです。

この「実効性の担保」のためのプロセス(手段)が、「透明性枠組み」というものです。

パリ協定と同じく、自主性をベースとしたUNFCCCにおいても、「義務事項」として、各国が報告書を2年ごと、および4年ごとに提出しなければならないことになっていて、先進国に対しては、その審査が行われます。自主性をベースとしたUNFCCCの中でも、数少ない義務事項として、(たまに強化されるかたちで)続いてきました。ちなみに、わたしは第1回目からこの審査プロセスに携わっています。

パリ協定では、この現行のUNFCCCのプロセスがアップグレードされる形で、導入されます。隔年透明性報告書とその審査プロセスですが、そのコア部分は、「NDC目標達成に向けての進捗報告」になります。

ただ、オントラック(目標達成に向かっている)かどうかの自己分析や判断は行いますが、審査プロセスにおいて、採るべきあるいは強化すべき政策措置の指摘やレコメンデーション(勧告)などを行うことはできません。「きちんと認識する機会」を提供し、それによって「軌道修正」や「対策強化」のトリガーにするということを期待するのみです。

その意味で、やはりかなり「緩い」仕組みでしかないのですが、あくまで自主性をベースにしたUNFCCCやパリ協定において、(その制約の中で)どういう仕組みを用意すれば、実効性が上がるか? ということを考えた結果の道具立てなのです。

この「透明性枠組み」の実効性が上がって実効的な対策が進み、各国がそれをベースにNDCを強化していくことができなければ、パリ協定の意味が崩れてしまいます。

パリ協定の成否

NDC強化や、気温ゴール、排出ニュートラリティーといった面を、気候変動や環境関係の人は注目し、議論しがちです。「低」炭素を「脱」炭素と言い換えて、(まだ世界の排出ピークにも達していないのに)何かを成し遂げたような気になっている傾向があります。

私自身は、むしろ対策をきちんと積み上げていくにはどうすればいいか? という点を重視しています。次回は、この観点から、パリ協定を対象に、地味ですがベースとなる「透明性枠組み」を考えてみることにしましょう。

プロフィール

松尾直樹 (まつお なおき)

1988年、大阪大学で理学博士取得。日本エネルギー経済研究所(IEE)、地球環境戦略研究機関(IGES)を経て、クライメート・エキスパーツとPEARカーボンオフセット・イニシアティブを設立。気候変動問題のコンサルティングと、途上国のエネルギーアクセス問題に切り込むソーラーホームシステム事業を行う。加えて、慶応大学大学院で気候変動問題関係の非常勤講師と、ふたたびIGESにおいて気候変動問題の戦略研究や政策提言にも携わり、革新的新技術を用いた途上国コールドチェーン創出ビジネスにもかかわっている。UNFCCCの政府報告書通報およびレビュープロセスにも第1回目からレビューアーとして参加し、20年以上の経験を持つ。CDMの第一号方法論承認に成功した実績を持つ。
専門分野は気候変動とエネルギーであるが、市場面、技術面、国際制度面、政策措置面、エネルギー面、ビジネス面など、多様な側面からこの問題に取り組んでいる。


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