総理辞任で日本の脱炭素はどうなる? 岸田、河野両候補についても解説! | EnergyShift

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総理辞任で日本の脱炭素はどうなる? 岸田、河野両候補についても解説!

総理辞任で日本の脱炭素はどうなる? 岸田、河野両候補についても解説!

2021年09月03日

菅総理が9月3日、辞任を表明した。総裁選の出馬も見送ったことで、次の衆議院選挙までの間に、内閣は変わることになる。いずれにしても、今の衆議院の任期満了は今年の10月21日であり、そのタイミングで選挙は行われる。菅総理の辞任で、日本の脱炭素はどうなるのか? ゆーだいこと前田雄大がどこよりも速く分析する。

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岸田氏、河野氏どちらが総理になっても、政策は大きく変わる

目下、コロナ対策等の評価もあり、内閣支持率は下がっており、自民党にかなり逆風が吹いている。したがって、選挙については、自民党が議席を減らすことが確実視されているわけだが、そこで政権交代が起きるかどうかは、この瞬間分からない。

ただ一つ言えることは、仮に自民党が政権を維持するのであれば、今回就任するであろう新総理はそのまま継続することになる、ということだろう。

これから自民党は、「いかに選挙に勝つか」というところが焦点になる。どの総理なら選挙に勝てるか、という視点での行動だ。

ただ、今回、菅総理が辞任することになった決定打のひとつは、岸田氏のアクションだろう。筆者も外務省時代に長らくお支えをしてきた方で、人柄も存じ上げている。思慮深く、和を大事に、足並みを乱すことをよしとせず、そして、政策で語るべきであるという考えをお持ちの方だ。

その岸田氏が、今回ここまで思い切った行動を取ったのは正直、意外だったが、失うものがあっても立ち上がらなければならないという岸田氏の熱意は、その人柄を存じ上げているからこそ、非常によく分かる。個人的には、その熱い思いで、いい意味での変革をしていってもらいたいと思う。

流れ的には、このアクションとその波及が決定打になった感のある菅総理の辞任。

ここが起点とするならば、岸田氏になりそうな気がするが、菅総理が辞任した背景には、安倍、麻生両名がいるのは間違いがなく、そして、二階氏の影響もあるだろう。

岸田氏が明示的に二階氏に反旗を翻したのは、二階氏にとって快くないところもあるだろう。菅総理自身も、辞任につながったアクションを良しとしないのであれば、国民人気も加味して河野氏に譲る、ここについては安倍、麻生、二階氏から言われ、その線で調整が進んだ可能性もあるとも個人的に見ている。当の河野氏は麻生派だ。と、これを書いている間に、やはり河野氏の表明が出た。いま書いたが「やはり」というところだ。これで総裁選は目が離せない。

となると、岸田氏、河野氏、どちらが総理になるのかで、かなり政策は変わってくる印象だ。そこで今回は、菅総理辞任で、日本の脱炭素はどうなるのか、独自分析をお伝えしたい。

菅政権の脱炭素の歩みと、その特徴を振り返り、②岸田氏になった場合、どうなるのか、分析。その上で、③河野氏になった場合について分析し、最後に④それぞれの共通項を解説したい。

それでは菅政権の脱炭素の歩みと、その特徴を振り返りたい。

菅総理がメスを入れた脱炭素

菅政権は、菅氏が安倍政権で官房長官を務めてきた経緯から、安倍政権の路線を多くの論点で継承する形で政策を展開してきた。ただ、菅総理がメスを入れて、方針を変えた分野が二つあると見ている。一つが携帯電話のフィールド、そしてもう一つが脱炭素だ。

安倍政権下では、安倍政権の周辺に多くの経産官僚が側近としていたため、経産省の色が濃いエネルギー政策が展開されてきた。象徴的なのは、石炭火力重視の方向性であり、そこは答弁の中でもかなり触れられてきていたところだ。

脱炭素といえば、再エネはあまり重視をせず、トーンは控えめにしながら、トヨタの文脈などもある水素については注力をし、そして火力の延命につながるカーボンリサイクルにかなり力を入れた。事実、筆者自身が調整に携わって、世の中に出た安倍政権の発表では、水素やカーボンリサイクルなどが日本の打ち出すポイントであった。

そして、G20のホストとなった2019年夏の段階で出した2050年目標では、その時点ではカーボンニュートラルは、今世紀後半という形での言及にとどまっていた、これが安倍政権の立ち位置だ。いまは、もうカーボンニュートラルを宣言するのが当たり前の空気になっているが、わずか2年前にはまだその立ち位置にあったわけだ。

そこから急激に、脱炭素の方向に舵を切ったのが菅政権だ。

もちろん、バイデン政権発足や、中国がまさかの2060年カーボンニュートラルを発表したことで、仮に安倍政権であっても遅かれ早かれこのようになったとは思う。ただ、それでもこの脱炭素についてはかなり力を入れて、菅政権は取り組んできた。

閣僚の中にも、河野大臣、小泉大臣と、脱炭素推進派がいたということも大きく、筆者がその筋から聞くところでは、こうした人たちの意見も取り入れながら、強い決意で菅政権は脱炭素に取り組んできた。

時系列的には2050年カーボンニュートラルを宣言し、その後、グリーン成長戦略で、脱炭素を基軸とした成長の絵図を提示し、そして2030年に温室効果ガス46%減という目標をたて、そして、いま、エネルギー基本計画などで再エネの、過去からみれば大きな積み増しについて議論をしているところになる。

河野大臣の音声が文春で流出するなどしたが、そこもまさにこの脱炭素の調整。いかに官邸として、ここに力を入れていたかが分かる。エネルギーを所掌する経産省が、ハンドルを握るのではなく、ハンドルは官邸が握りながら、その意向を踏まえ、ときに忖度もしながら、省庁が絵図を描いてきた、という構図だ。

経産主導では、ここまで脱炭素には振れなかっただろう。

温対法改正によって、初めて法律の中に脱炭素方針が明記されたという出来事もあった。法律を再改正しないとここを外すのは無理であり、世界の潮流を踏まえれば、もうここから逆行することはない、そういう進捗もあった。

そうした中での菅総理の辞任。もちろん誰が総理になるのかにもよるが、ベースとして築かれたものはあり、そこがある程度基軸になるだろう。ただ、これまではハンドルが官邸にあり、そして脱炭素の方向にかなり旗を振っていた、それが推進力となってきた。

それが、菅総理辞任によって変わるだろう、これは、確実だと筆者は見ている。


9月2日、第6回気候変動対策推進のための有識者会議にて(首相官邸ホームページより)

岸田氏が総理になると脱炭素が遅れる恐れ

次に岸田氏になった場合にどうなるのか、その分析をしたい。

結論から言うと、脱炭素の歩みは鈍化すると見ている。

岸田氏は、宏池会という派閥の長だが、この宏池会は、伝統的に政策通であるという評価がされている派閥になる。日ごろから政策について多く議論をし、自身の考えをしっかり形成しており、穏健な派閥でもある。

したがって、積極的に何かを大きく変革させるというタイプではない。特に岸田氏に関しては、外務省でお支えした筆者の経験から、その部分の色が強いという印象がある。聡明で知的であり、つねに落ち着いている、かつ、リスクには慎重という、ある種、官僚としては、安心して見ていられる部分もあった。

ただ、そうなると、脱炭素というのは、いまある秩序から次の秩序へ変革をする、グリーン・トランスフォーメーションの領域のため、少し色が違う印象がある。

また、外務大臣を務めていたときの日本のスタンスは、先に述べたとおり、エネルギーといえば火力が中心、そこに原発再稼働の論点がある、というような時代だった。

外交も、火力、原発をトップセールスしていた時代に外務大臣をされていたわけだ。もう少し言えば、パリ協定の採択からパリ協定の発効までの脱炭素の機運の高まりを、日本政府がしっかり読み切れずに、パリ協定が発効したときに日本の締結手続きが間に合わなかったときの大臣でもある。

個人的にも、岸田氏は、広島選出という地合いから軍縮・不拡散のところはかなり関心が高く、その他、日米同盟を基軸等の王道路線のところ、そして多国間主義での協調というところには関心はあるが、気候変動・脱炭素に熱心であった印象はない。

つまり、岸田氏が総理に就任した場合、脱炭素の路線にストップをかけることはしないものの、積極的な旗振りは当座しない、と筆者は見ている。世界がここから脱炭素で競争を加速させるときに、政府の旗振りがなくなることは、日本の脱炭素の速度が落ちることにつながり、世界との距離が一時的に広がってしまうと分析している。

総裁選出馬会見で、言及されなかった脱炭素

もう少し見ていこう。

総裁選の出馬表明から今日に至るまでの岸田氏の政策の中核は当然コロナ対策。経済対策についても触れているが、コロナによって疲弊したところへの財政出動、給付金の支給がメインであり、それ以外の具体的な経済対策は、ある種当然だが、そこまで見えてきていない。

実は、政調会長でもなくなっていたこともあり、岸田氏の政策に関する言説は、総裁選に出るまで、あまり出回っていない。とはいえ、総裁選に出ることを表明した8月26日の会見で、論点を絞って、コロナ以外にも触れており、この会見に基づき、脱炭素の位置づけを確認したい。

まず、岸田氏が最初に打ち出したのがwithコロナ時代の社会・経済活動のあり方。そして、次に述べたのが、昨年の総裁選出馬のときと同じく、格差の是正。ここが重点として述べられた。そのポイントは成長と分配の好循環だ。

脱炭素が出てきてもおかしくない文脈だが、結局、ここでは触れられなかった。内容は、科学技術・イノベーションの促進、産業分野ごとのリーディング・カンパニーの支援、スタートアップ支援など。二つ目のリーディングカンパニーでは、力の集結にも触れたため、ここはオールジャパンの取組みをする、という意味では脱炭素の波に乗っていくところにも整合するわけだが、脱炭素は言及されず仕舞いだった。

ちなみに、やはり重視したのが、分配の論点。賃上げする必要がある、内部留保するなということを暗に述べた。令和版の所得の倍増をする、という。

そして、地方創生にも言及した。場合によっては脱炭素が入ってきてもいい論点だったが、ここでも言及されず、メインはデジタル化。強調していたのは5G、ビッグデータの活用。これを地方に結びつけて、地方のデジタル化を進め、デジタル田園都市構想を推し進めるとした。

つまり経済対策では、デジタルには触れたが、脱炭素には触れなかった格好だ。これだけ、グリーンリカバリーが叫ばれる風潮の中、触れなかったのは、敢えて外したとも取れると個人的には見ている。なぜなら、菅政権は環境と経済の好循環が柱だ。ここの色をなくして成長と分配、としており、明確な認識をもって脱炭素を外した、と見ることができる。

ちなみに、昨年の総裁選のときにもデジタルには言及、脱炭素には触れず、だった。

また、外務大臣だったこともあり、外交にも第三の柱として言及。

その内容は、自由民主主義、人権、法の支配などの基本的価値観を重視していく、というもの。外務大臣当時のように官僚が書く王道答弁ラインで、率直な感想は、攻め手ではない、という印象だ。そして第二に領土・領海・領空を守りぬくと安全保障について言及し、3つ目に触れたのが地球規模の課題だった。

ついに、ここで来たかと思ったが、課題の列挙の中の一つとして、温暖化について言及したのみ。これも当時の外交ラインからはさほど変わっていない。課題の一番目に温暖化が来たことは変化と言えば変化だが、位置づけは、多国間協調の中で議論されるテーマの1つ、という認識かもしれない。

つまり、あまり脱炭素についてはアップデートがされていない感じを受け取った。政策通の宏池会だ、意図をもっている可能性もあるが、だとすると、優先順位は低いということになる。

総合すると、岸田氏は脱炭素には重きは、就任当初は置かないだろうと見ることができる。後段で触れるが、いずれ、認識を新たにして、立場を変えるタイミングは来ると思うが、ただ、穏健派ということもあり、遅れた分を取り返すべく、鉈を振るうことはない、と筆者は予想している。

ちなみに原発については、広島という地元柄、実は積極的ではない。ただ、止めに行く側でもない。

河野氏就任なら、脱炭素は一気に進展

それでは、河野氏になった場合、どうなるのか。

結論からいうと、脱炭素が一気に進展するだろう。

くしくも河野大臣についても、外務省時代にお支えした経験があり、そして、気候変動についてちょうど筆者が担当をしていたこともあり、かなりの頻度で、脱炭素論点で接点を持ったが、ご存知のとおり、超脱炭素推進派だ。

そして穏健派ではなく、改革派だ。現状を変えることで短期的にデメリットがあっても、そこはいとわない。

過去の発言などを見て貰えば分かるが、エネルギー政策に関しては、再エネ比率の向上や、それによって系統に負荷がかかるなら、そこを増強するべきとの主張を持っている。そして原発は完全に反対。火力発電、特に石炭火力については猛反対という方になる。

菅政権は、鉈を振るったとは言っても、安倍政権の延長の中で、そこからすると大変革というのが脱炭素政策だったわけだが、河野政権に仮になったら、その次元すらはるかに超えた形で脱炭素が進むと思われる。

そういう意味で、岸田氏になったら、いまより停滞、河野氏になったらいまより加速、ということで、どちらになっても、現状の路線から変化が生じるとことになる。

とはいえ政権だけが全てではない、そこで、いずれが総理に就任しても、ここは共通項だという点を解説していきたい。

どの政権だろうと、民間の脱炭素は止まらない

すでに世界は米、中も脱炭素に振り向いて、その取組みを加速させたことで、脱炭素時代に完全に突入した。

日本のグローバル企業がこの中で、舵を取っていかなければならない現状は、どの政権だろうと変わりない。

そして、ブラックロックが出したレポートに象徴されるように、ESG投資、サステイナブルファイナンスの額は急増し、その中で重視される項目は、脱炭素だ。

さらに、アップルに代表されるように、すでにサプライチェーンの脱炭素化は進展しており、そこについていくためには、脱炭素の取り組みが各企業レベルで必要になる。

つまり、もう脱炭素ドミノは民間では倒れ始めているわけだ。日本のグローバル企業もそこは、気づきの程度こそあれ、気づいており、敏感なところは、もう自衛の策を講じている。トヨタの今年6月の脱炭素転換などはいい例だ。トヨタはもはや政府をあてにしている節はなく、自分たちでやる、というようなスタンスに見て取れるほどだ。

もちろん、ここをビジネスチャンスと思って動いている企業も多くいる。

つまり、このような感度高い企業の脱炭素進展は、政権関係なく一定程度起こると思われる。政権の方針が関係するのは、右見て左見て、というような企業や、太宗が決したときに動くような企業だけだろう。

しかも、国内金融も、三菱UFJフィナンシャル・グループに続いて先日、三井住友フィナンシャルグループも投融資のカーボンニュートラルを宣言した。3大メガのうち2つがこの目標を掲げており、地銀にもその動きは波及している。つまり、金を調達するのにも、脱炭素をしないといけないレールはもう敷かれたわけだ。

政権が変わった場合に、岸田氏、河野氏のパートで分析したようなスピードの変化は出るものの、一定程度、ベースラインの脱炭素化は進むと見ている。

また、米国が中国包囲網形成をしようとしている、その中のトップアジェンダは気候変動だ。ここを仮に岸田氏になっても避けてとおるわけにはいかない。これからCOPに向けて、アメリカは中国あぶり出し作戦に本格的に動くと思われる。そこで日本にもかなり協力要請のプレッシャーがくるだろう。岸田氏も、状況が一変したことを、就任してすぐに知ることになると思う。

つまり、時間の問題であり、それを織り込んで、各主体は脱炭素に動くべきというのが筆者の考えである。

今日はこの一言でまとめたい。

『菅総理辞任で脱炭素にも影響 ただし、遅かれ早かれ、どの道、進むことになるだろう』

 

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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