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高度化法が新電力を壊滅させる!? 環境価値は誰のものなのか

高度化法が新電力を壊滅させる!? 環境価値は誰のものなのか

再生可能エネルギーや原子力などの非化石電源の小売り比率を、2020年度に25%へ引き上げる政府の中間目標案作成が大詰めを迎えている。

新電力13社側は「このまま中間目標案が導入されれば小売りの競争環境をゆがめ、毎年10数億円の利益が吹き飛ぶ」と訴え、抜本的見直しを経済産業省に迫る。

脱炭素を義務づけた高度化法

「新電力が壊滅し、その結果、大手電力による寡占化が進むことになりかねない」2019年3月の審議会である委員はこう語った。

この審議会では、経産省が2018年10月から7回にわたって議論してきた「非FIT非化石価値の取引」に関する制度設計を議論している。2020年度から始まるこの取引の議論が進むにつれ、新電力が大きな打撃を受けることが明らかになり、委員の中から異論が噴出している。

なぜこのような事態になったのか。

高度化法の変遷

経産省は、地球温暖化対策とエネルギーシフト実現のため、電気やガス、石油事業者などに対して、太陽光発電や風力発電などの再エネ電源や、原子力などの化石燃料を使わない非化石電源の利用などを促すことを目的に、2009年に「エネルギー供給構造高度化法」(以下「高度化法」)を制定した。(同年8月28日施行)

2020年度に、非化石電源(再エネ、大型水力もしくは原子力由来)の電気を「一般電気事業者(大手電力)なら50%以上」、「特定規模電気事業者(新電力)であれば2%以上」販売するよう、規定するのがこの高度化法だ。

制度設計当時、高度化法には大型水力や原子力を持つ者と持たない者との圧倒的な競争力格差を考慮した目標値がそれぞれ設定されていた。

2015年に、2030年度時点の日本全体のエネルギーミックスが「原子力20〜22%」「再エネ22〜24%」に引き上げられ、同時に高度化法も見直された。新高度化法では、2030年度までに、大手小売りのうち「44%以上」を非化石電源(再エネや大型水力、原子力由来)の和にするよう改訂された。

2016年には旧電力だけでなく、新電力にも同じ非化石電源44%の達成が義務付けられた。

こうなると、大型電源を持つ者(旧電力)とそうでない者(新電力小売り)との競争がなりたたなくなってしまう。JEPX(日本卸電力取引所)では化石・非化石の区別なく取引が行われるため、非化石電源だけを調達することはできない。

そこで、経産省は非化石の取引がわかるようにした。CO2排出ゼロという環境価値(=非化石価値)を、エネルギーとしての電気の価値(kWh)と分離・証書化し、売買することができる非化石価値の取引を可能にした。

非化石電源を持たない者は、JEPXから非化石証書を買うと、非化石電源由来の電気を調達したとみなされ、非化石電源比率を高めることができる。小売りの44%目標達成を後押しし、大手電力と新電力の競争力格差を埋める役割を果たす、そう経産省は判断したのだった。

こうして2018年5月、まずはFIT電源が持つ非化石価値を取引する「FIT非化石価値取引市場」がスタートする。

FIT電源の環境価値は国民のもの

2019年2月に第3回目(2018年度分)の入札が終わったFIT非化石価値市場の取引はお世辞にも活発とはいえない。

「FIT非化石証書は供出量に対し、0.01%程度しか売買が成立していない。最低価格が1.3円/kWhと高く、証書が売れ残る。売れ残った証書は電力小売りに分配されるため、結局買わない方が得をするメカニズムのためだ」と、JEPX関係者は言う。最低価格1.3円/kWh、最高価格4円/kWhという上下限価格の見直し議論は今もくすぶる。

しかし、新電力にとってFIT・非化石の高い金額はまだ受け入れられるものだった。

FIT買取費用は電力会社が負担するのではなく、再生可能エネルギー発電促進賦課金(FIT賦課金」としてすべての電気利用者から徴収されている。 FIT電力とは国民全体で負担してつくられた再エネ由来の電気であり、環境価値はFIT賦課金を負担する国民のものだと規定されてきた。FIT非化石取引で上がった売り上げは、すべてFIT賦課金の原資に回され、国民負担の軽減を図る取引スキームがつくられているからだ。

FIT:固定価格買取制度。

非FIT・非化石は、新電力から旧電力へと金が流れる

ところが、非FIT・非化石になると話は別だ。

非FIT・非化石とは、FITを利用せずに建設された非化石電源のことで、大型水力や原子力などを指す。そのほとんどを東電グループや関電などの旧電力が所有している。

つまり、非FIT非化石証書の取引制度をつくった途端、証書の販売収入は大手電力が手にすることになる。

「持たざる者(新電力)から、持つ者(大手電力)にお金が流れる仕組み」と新電力はいう。

ある有識者は「非化石証書の収入によって新電力を潰す原資が手に入る。この原資をもとに電気料金を値下げし、集中的に新電力の需要家を奪いにかかる。新電力を完全に駆逐したあとで、じっくり価格を上げていく。このような市場になれば、消費者にとっても悲惨な状況になる」。

別の有識者も「制度設計を誤れば、小売りの競争環境を破壊しかねない」と警鐘を鳴らす。

特例措置も効果は限定的

そこで経産省は、2020年度からはじまる中間評価の際、非化石電源比率が平均値を下回る小売り事業者の目標を引き下げる「特例措置(グランドファザリング)」制度の導入を予定する。さらに、中間目標の基準を6%*引き下げる激変緩和措置も講じる予定だ。

また、高度化法の対象事業者を5億kWh(一般家庭で約17万世帯)以上の電力を販売する小売り46社とし、小規模な小売り事業者への配慮もしている。

46社だけで国内販売電力量の98%とカバー率は高いが、2017年度の非化石電源比率は46社平均で18%。30社は5〜10%にとどまる。2030年度一律44%達成という高度化法の大枠は変わらないので、達成に向けた道のりはかなり厳しい。

「再エネであれば、新電力にも調達や構築のチャンスはあるものの、大型水力や原子力を我々が新設することは、不可能に近い」(新電力関係者)。新電力たちは非化石証書を購入するしかない。

* 2019年5月31日開催の審議会で提案された第2次中間とりまとめ(案)では激変緩和措置の比率は”6%”から、”一定量”へと修正された

新電力の利益が毎年、半分吹き飛ぶ

非化石証書の購入で目標を達成するために、新電力はどれだけのコスト負担を強いられるのだろうか。

経産省では、2020年度から2022年度までの3年間を第1フェーズと位置づけ、中間目標を25%に設定した場合、非化石証書の購入量は8.9%になると試算する。一般家庭の電気料金が20円強/kWhであるため0.5%の負担増となる計算だ。仮にすべてFITから購入するのであれば、小売り価格は上昇するがFIT賦課金が下がるので、電気料金負担はニュートラルになるという。

しかし、新電力たちはすべてをFITで賄うことには反対だ。「1.3円の最低価格で試算しても、8.9%の非化石証書購入の負担額は10数億円におよぶ」「2020年度以降、原子力が再稼働した大手電力へと新電力からお金が流れるだけだ」と訴える。

非化石証書の購入費用を電気料金に転嫁できなければ「新電力の経常利益の半分〜2割に相当する負担が2020年度以降、毎年発生してしまう。大手電力が出資し財務基盤の強い新電力以外、いずれ経営が行き詰まる」と新電力は指摘する。電気料金転嫁をすれば「自社の競争力を弱体化させ、顧客が奪われるだけ」で、がんじがらめの状況だ。

そこでエネット、出光昭和シェル、東京ガス、イーレックスなど新電力13社は「高度化法の目標達成に必要な非化石証書の購入費用を全事業者が同じ条件で、小売り料金に転嫁することを制度上、担保してほしい」と陳情した。

これに対しては独禁法の観点から待ったがかかっている。「一律消費者に料金転嫁を求めることは独禁法に抵触」するからだ。

小売りの競争環境を是正するほかに、抜本的な解決策は見当たらない。

出典:非FIT非化石証書の取引に係る 制度設計について 2019年4月22日 資源エネルギー庁 資料より

大型水力や原子力は公共財

そもそも大型水力や原子力が持つ環境価値は誰のものなのか。

新電力たちは、「地域独占と総括原価に守られてきた時代につくられた大型水力や原子力はエッセンシャル・ファシリティ(送配電網のようなサービス提供に不可欠な公共財)だ」と指摘してきた。

エッセンシャル・ファシリティが内包する環境価値を大手電力のみが手にし、新電力に負担をさせるのはおかしい。だが、それが制度的に難しいのであれば、非FIT・非化石の証書収入の使い途は制限されるべきではないのか。

新電力たちは「非FIT非化石証書の販売益は、非化石電源の維持・拡大のみ使うよう用途を厳密に制限する」ことを経産省に迫る。

経産省も用途制限には一定の理解をしめす。

  • 非化石電源の新設・出力増
  • 非化石電源を安全に廃棄するための費用など
  • 非化石電源の耐用期間延長工事、安全対策費用など

上記3つの用途にのみ、証書収入を使うことを大手電力の発電部門に求める構えだ。だが、このような用途制限だけでは「非化石電源の導入拡大に効果がない」と言う意見もある。

現在、新電力13社は非化石電源の小売り比率を含む、中間目標設計の抜本的な見直しを求めている。

中間目標の詳細決定は、年内が目途。地球温暖化対応のコストを誰がどのように負担するのか。新電力の命運を握る、非FIT非化石価値の制度設計をめぐる議論が最終局面を迎えている。

この記事の著者

藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげる。


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