これからの地域エネルギー事業のヒント8
地方自治体が、エネルギーの地産地消を進めるにあたって、自治体新電力を設立させるだけが、すべてではない。地域のエネルギーを地域に供給するしくみを構築するためには、さまざまな方法が考えられる。今回は、そういったケースについて、静岡県島田市、東京都東村山市、千葉県富里町の3つの自治体の取り組みを、エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が紹介する。
地方自治体が出資して地域内の民間企業と連携し、新電力会社を作る「自治体新電力」が徐々に増えている半面、1,700を超える日本の基礎自治体地域の多くは、地域に賦存する再生可能エネルギーを地産地消型で活用する事業体の設立を構想しようとしても、再エネ電源が乏しい、エネルギー・リテラシーが不足している、より優先順位の高い政策課題がある等の理由によって、オーソドックスな地域エネルギー事業に思いを馳せられないのが現実である。
しかし最近は、自治体新電力という形式によらないで、自治体の持つエネルギー需要にコミットした官民連携の事例も出てきている。
今回紹介する3自治体の事例は、優先課題を公共施設におけるエネルギー代金の削減としつつも、それだけにとどまることなく、エネルギーの地産地消や地域活性化といった地域課題解決に向けた事業への広がりを模索している点で注目に値する。
自治体財政が逼迫する中にあって、自治体施設のエネルギー使用量や費用削減に努める自治体は多く、高圧以上の施設では競争入札方式が採られてきたが、この手法だとコスト低減効果以外の付加価値が生まれない。
そのような中、公共施設の電力料金削減を核としつつも、それにとどまらない新たな付加価値づくりを目的として「公募プロポーザル」を実施することにより、“随意契約的に”事業者を選定し、かつ複数年の連携協定を結ぶことによって、エネルギーの地産地消やまちづくり、SDGsへの貢献などを目的とした連携事業の実施効果を高める動きがある。
その事例が静岡県島田市である。島田市は公募プロポーザル方式による民間企業との連携を活発に行っており、その一環として島田市が所管する公共施設で使用する電力の調達コスト削減や低炭素型まちづくりの実現、エネルギーの地産地消、SDGs(持続可能な開発目標)の達成等に貢献する提案を求めて、公募型プロポーザルを実施した(2020年2月)。背景には公共施設のランニングコスト縮減が喫緊の課題となっている市の厳しい財政状況があった。
この受託者となったのは島田ガスを軸とした共同企業体(JV)、すなわち島田ガス、静岡ガス、静岡ガス&パワーの静岡ガスグループである(次点は中部電力だった)。その後、両者は「SDGsを先導し持続可能なまちづくりを推進する電力供給等業務に関する協定」を結んだ(2020年7月)。協定の内容は下記のとおりである。
協定の概要
1.電力調達コストの削減
2.付加提案
(出所) 島田市・静岡ガス発表資料、ガスエネルギー新聞記事を基に筆者作成
このように島田ガスJVは、TPO&PPAモデルによる地産電力創出と公共施設への供給に加えて、レジリエンスや地域経済に貢献できる総合提案を行い、結果として、地域(自治体)新電力を設立するという形態をとらずとも、それと同等の目的を達成している。
島田ガスは創業63年の地域密着力が高い地元ガス事業者だが、2018年4月から静岡ガスグループ入りをしたことで、総合エネルギー事業への造詣が深い静岡ガスグループの総力を結集した、全国にも例を見ない先進的な提案をすることができた。また提案を求める側の島田市側には、立地上、自然変動型の再エネによる地産地消型のエネルギー事業は望みにくいという事情があったことや、同市が低炭素化まちづくりや地域活性化、SDGs等に関する高いリテラシーを持っていたこと等が、このような先進的な提案を受け入られる素地となったと推測される。
東京都東村山市は、2020年6月、市の「民間事業者提案制度」による提案に基づいて、民間事業者2社(JXTGエネルギー=現ENEOS、アジア航測)と市有施設への電力調達の効率化や地域課題の解決に関する協定(5年間)を締結した。
協定の主たる目的は一括購入による公共施設の電気料金削減(年間約1,700万円)と、これまで各施設の管理部署の職員が個別に行っていた支払い事務作業の大幅な軽減であり、そのために、図1のとおり、民間事業者2社と東村山市の3者で電気料金の支払い事務を代行する特別目的会社(SPC)を設立(2021年1月)する。
同市が負担する電気料金は2019年度で1億3,000万円近くに上り、経費削減のための事業提案を公募したわけだが、削減分のうち1,000万円はSPCとなる「東村山タウンマネジメント(株)」に委託料として支払われ、同社が実施するまちづくり事業などに還元されるなど地域活性化に活かされる。
東村山市と民間事業者との協定内容
発表資料、日経新聞記事を基に筆者作成
また、千葉県富里市も公共施設の電気料金削減に向けた官民連携事業の提案型プロポーザルを行い(2020年9月)、図2のように、民間事業者2社(アジア航測、ALSOK)とSPCを設立する(2021年1月)とともに、2021年度から市の25施設の電力を出光興産からの一括購入に切り替えるなど、東村山市と同様のスキームで同様の効果(年間約1,800万円の削減効果、事務手間軽減、削減費用のまちづくり事業への活用)を狙う。
冨里市と民間事業者との協定内容
発表資料、日経新聞記事を基に筆者作成
このように両市とも、自治体が自ら電力供給に参画する「自治体新電力」設立も多い中にあって、事業リスクも考えて供給は民間に委ねる手法を選び、かつ、削減効果を地域活性化に充てることで自治体新電力に近似する効果を得ている。
残念ながら、このモデルには再エネ開発がなく、地球温暖化対策に資する低炭素化効果は望めないものの、将来、官民が連携したSPCが母体となって、建物の屋根や耕作放棄地等を利用した太陽光発電や蓄電池・EV等の分散型エネルギーリソース(DER)を活用した「都市型地域エネルギー事業」を営むポテンシャルを有しているとも考えられるので、進化を期待したい。
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