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「地域脱炭素ロードマップ」とは 内閣府の示す地方自治体の脱炭素戦略

「地域脱炭素ロードマップ」とは 内閣府の示す地方自治体の脱炭素戦略

2021年02月25日

これからの地域エネルギー事業のヒント 10

2050年カーボンニュートラルは、自治体にとっても重要だ。国に先行して宣言する自治体がある一方、小規模自治体にとって具体的な計画を立てることは簡単ではない。政府は自治体と協力して進める「地域脱炭素ロードマップ」の素案を示している。2021年6月ごろには取りまとめられる予定だ。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

「地域脱炭素ロードマップ」とは

昨秋の政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に、あらゆるセクターでそれに向けた動きが活発化している。

このうち自治体に関わる部分では、年末に開催された「国・地方脱炭素実現会議」にて、政府が自治体と協力して進める「地域脱炭素ロードマップ(行程表)」の素案が示された(図1)。 

会議資料によると、「地域脱炭素ロードマップ」策定の趣旨は、「地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる主要分野において、国と地方とが協力して、2050年までに、脱炭素で、かつ持続可能で強靭な活力ある地域社会を実現する行程を明らかにすること」にある。

図1.政府と自治体が作成する「地域脱炭素ロードマップ」のイメージ


環境省資料を元に編集部作成

また、地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる主要分野として、以下の8分野が挙げられている。むろん、地産地消型の地域エネルギー事業も推奨されている。少し長めだが、地域で何をしてもらいたいかが例示されているので、前文を引用する。

ロードマップが対象とする地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる主要分野

1.地域のエネルギーや資源の地産地消

  • 地域企業や自治体等が主体となり、徹底した省エネと併せて、地元の自然資源を活用して地域・環境と共生した再エネ電気や熱、水素等をつくり、利用(ポテンシャルや環境保全の観点から再エネ立地に適する区域(ゾーニング)の自治体による設定も有効)。
  • 収益は地域内に循環させ、地域の課題解決に活用(見守り・防災・インフラ更新等)。
  • 地域間でも再エネ融通(ESG資金の流入になる)。
  • 食品や衣服などモノやサービスも、地域内での循環利用を含め、持続可能な形で生産・消費。

2.住まい

  • 全ての地域住民が当事者となる住まいで、断熱・気密の向上や省エネ・再エネ・蓄エネ(電動車との接続含む)、高効率設備・機器の導入に取り組み、デジタル技術による最適運用で、脱炭素化(ZEH)。
  • 健康で快適な暮らしを享受し、蓄エネにより防災性能も向上。

3.まちづくり・地域交通

  • 各地の人口動態などの特徴に応じ、都市機能の集約やグリーンインフラ、Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)など脱炭素型のまちづくりを進めつつ、再エネ電源で動く LRT/BRT、燃料電池、鉄道車両などの公共交通や電動車カーシェア、自転車インフラ、デジタル技術を活用した新たなモビリティなど、脱炭素型の地域交通を整備し、地域住民の利用を促進。

4.公共施設をはじめとする建築物・設備

  • 高度成長期に整備され老朽化の進む庁舎などの公共施設を、更新・改修の機会に、2050年まで供用することを想定して省創蓄エネ設備を導入し、脱炭素化(ZEB)。
  • 公用車には電動車を導入し、災害時に蓄エネを利用。
  • 公共施設周辺の建築物とも連携し、地域の中心区域全体の脱炭素を先導。

5.生活衛生インフラ(上下水道・ごみ処理など)

  • 上下水道やごみ処理などの生活インフラで、未利用エネの活用や再エネの導入、さらなる高効率化を実施。
  • 地域の多様な条件に応じて、2050年まで供用することを想定した施設を広域化・統合、分散化(集落単位の整備)。汚泥や廃棄物等の生成物をエネルギーとして地域内で利用。

6.農山漁村・里山里海

  • 豊富な再エネの活用(木質・畜産由来バイオマス、営農型太陽光発電等)、スマート農林水産業や農林業機械・漁船の電化、吸収源対策(農地炭素貯留、間伐や再造林、建築物への木材利用、藻場・干潟の造成・再生・保全等)を実施。
  • 湿原・サンゴを含む生態系の再生や鳥獣害抑制につなげ、自然共生も実現。
  • 2050年までに食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現。

7.働き方、社会参加

  • テレワークや二地域居住、副業など多様な働き方・住まい方の広がりを積極的に活用し、都市住民による地方の再エネ事業等への参加を促進。
  • 新しい生活様式の中で価値の高まる余暇について、国立公園等をモデルに、観光拠点の施設を脱炭素化し、脱炭素型ツアーを提供。

8.地域の脱炭素を支える各分野共通の基盤・仕組み

  • 自治体、国の支分部局、地元企業、金融機関等の関係主体がプラットフォームを通じてつながり、ニーズ(課題)とシーズ(知見・資源)をマッチング。
  • 脱炭素を担う人材の育成・確保や、地域のESG金融を通じた脱炭素投資(域内経済循環)につなげる。
  • これらはデジタルトランスフォーメーション(DX)を基盤として行う。
  • また、行政が公共調達・契約等から率先実行する。

※留意事項:対策施策は、各分野を縦割りに検討するのではなく、分野・組織を超えて横断的に検討。


小規模自治体の脱炭素計画は?

「地域脱炭素ロードマップ」の意味と論点を考える

「地域脱炭素ロードマップ」は、同会議での数回の検討を経た上で、2021年6月頃には取りまとめられるが、ロードマップのイメージ(上図1)を見るだけでも論点が浮かぶ。ここでは大きくふたつ述べる。

縦割りから横断的への実効性

第1は、「縦割りから横断的への実効性」である。

地域脱炭素」は、自治体という「地域」を主語にして、かつ、「国(政府)」を主語にしつつ、国(政府)として自治体と協力しながら日本の温暖化対策を進める考え方だと受け取れる。

一方、上記のとおり8つの分野で示された対策施策は、これまで省庁別に策定・推進されてきた温暖化対策施策の列挙にとどまっており、留意点として「対策施策は、各分野を縦割りに検討するのではなく、分野・組織を超えて横断的に検討」が示されている。

カギは、自治体ごとの現実的な検討過程において「縦割りから横断的へ」が本当にこなれたものになるか、だろう。

ロードマップイメージからは、「出だしの5年間で勝負」「やれそうな施策メニューを省庁横断的に示すので、やれることからやってほしい」「それでモデルケースを作って、2030年後以降にドミノ方式で全国的に横展開」という想いが強く感じられる。

それはそれで「(日本の官庁らしい)1つの政策手法」だが、1,700を超える基礎自治体、とりわけ小規模な自治体は「この政策が早い段階から本当に自分たちを支援してくれるのか」と、疑問視するかもしれない。

つまり、アイデア(施策)ベースでの支援とは別に、温暖化対策の基礎体力(温暖化対策に関するリテラシー、人材、資金)への支援がどの自治体にもなされることが、極めて重要と考える(そうでなければ、先行モデルをいくら開発したところで全国大でのドミノは起こらない)。

むろん、国(政府)としては「承知のこと」なのだろうが、「包摂性」を持った支援の仕組みがロードマップの中に示されることを期待したい。

自治体の温暖化対策の在り方が変わったことを、ロードマップや他の施策で示せるか

第2は、「2050年カーボンニュートラルという“裾切り”により、自治体の温暖化対策の在り方が変わったことを、ロードマップや他の施策で示せるか」である。

温暖化対策の効果は温室効果ガスの排出量で測るものであり「2050年カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという数値目標である。

むろん、自治体も「地方公共団体実行計画」を立てて排出量(の抑制)をメルクマールとして取り組んできたが、大半の自治体が「事務事業編」に基づき、自治体自身の活動に関わるカーボン・マネジメントしかしてこなかった。

しかし、「地域脱炭素化」で求められているのは、地域全体での排出量の抑制、いや排出量の「ゼロ化」である。

地域全体のカーボン・マネジメントに資するデータ(温室効果ガスインベントリ等)や知見の提供がなければ、たとえば排出量からみた対策効果が薄いものに注力したり、自治体以外のステークホルダー(企業や市民等)をうまく巻き込めなかったりなど、効果的な排出量削減はできないはずである。

環境省も、2021年度から自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)の支援をするようだが、先行自治体だけにとどまらず、全ての自治体における「見える化」を実現してほしいものである。

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。

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