英国のガス大手5社が結集して、水素供給ネットワークの構築に乗り出す。2020年11月のジョンソン首相の重点政策を受け、各社の足並みを揃えた格好だ。5社のシェアを合わせると、英国全土のガスシェアの85%にのぼる。天然ガスから水素へ、エネルギー転換が一気に進みそうだ。
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1月21日、英国のガス大手5社が2030年までの水素供給計画「Britain’s Hydrogen Network Plan」を発表した。2023年までに、供給する天然ガスに水素を最大20%まで混合させる。また、2025年までに1GW、2030年までに5GWの水素・バイオメタン製造を軌道に乗せるという。
さらに、大型車用の供給設備を整備する他、産業用の水素供給拠点を整備、再生可能エネルギーからの製造設備、CCS(CO2回収貯留)による化石燃料からの製造設備を接続する。こうした水素供給拠点を、2021年中に2ヶ所、2030年までにさらにもう2ヶ所を整備する。さらにガス管を水素供給可能なものに交換するなどの事業も含まれ、5社の投資額は総額280億ポンド(約4兆円)にのぼる見通しだ。
「Britain’s Hydrogen Network Plan」に参画する5社は、Cadent、National Grid、Northern Gas Networks、SGN、Wales & West Utilitiesだ。5社のガス供給シェアを合計すると85%、ガスの供給ネットワークの総延長は、なんと地球1.5周分に相当するという。英国を代表する五大ガス会社だといえよう。
5社は張り巡らされた供給網を活用し、ガスから水素へのスムーズな移行を図る。
5社について簡単に紹介しよう。
Cadentは、ロンドン北部やイングランド東部を中心に1,100万軒の家庭や企業にガスを供給する最大手だ。英国のガス会社を代表し、緊急時の無料コールセンターサービスを運営している。同社はバイオメタン製造に力を入れており、年間300GWhを超える欧州最大規模のウォリントンバイオCNG燃料補給ステーションの開発を支援している。
National Gridは、イングランドおよびウェールズで送電網やガスの供給システムを所有・運営している。米国のニューヨーク州、マサチューセッツ州では、電気とガスの直接販売を展開する。
他の3社については、Northern Gas Networksはイングランド北部で270万軒に、SGNはスコットランドとイングランド南部の600万軒に、Wales & West Utilitiesはウェールズ全体とイングランド南西部の750万軒にガスを供給している。
今回発表された「Britain’s Hydrogen Network Plan」は、イギリスのガス・電力ネットワーク団体が進める「Gas Goes Green」というプログラムの一環だ。2050年カーボンニュートラルを目標に定め、ガス供給インフラの再構築を含む投資の必要性など、業界全体のアクションを促すことを目的にしている。さらに、グリーン雇用と地域の経済成長にも寄与するものとなる。
「Gas Goes Green」プログラムでは「ネットゼロへの投資」「ガスの品質と安全性」「新たな消費規制」「システム強化」「水素への移行」「ネットゼロへの道」の6テーマに取り組む。このうち「水素への移行」に関しては、英国国内で進むほかの水素関連プロジェクトなどと連携する姿勢が示された。
英国では、すでに多くの水素関連プロジェクトが立ち上がっているが、そのひとつが、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の「Hy4Heat」である。「Hy4Heat」とは、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省が2018年に産業界と共同で立ち上げた水素供給の研究プログラムだ。住宅や商業施設などに対して水素を安全に供給し、利用できるようにするための技術開発に取り組むというものだ。
1月に発表された「Hy4Heat」の2020年進捗報告書によると、規格や認証、安全性評価やメーターの開発など10の分野における研究が進行中だ。実際に水素を燃料とする産業用設備だけでなく家電の開発についても、産業界から多くのメンバーが参加している。
この他の水素プロジェクトには、National Gridによる「HyNTS Future Grid」やNorthern Gas Networksがリードする水素供給ネットワーク「H21」、SGNのグリーン水素プロジェクト「H100File」などがある。今回の「Britain’s Hydrogen Network Plan」は、これらのプロジェクトとも連携しながら推進する。
Gas Goes Green 資料より
2020年11月、英ボリス・ジョンソン首相はグリーンリカバリーの重点政策として「10-point plan」を発表した。発表時には、2030年までにガソリン・ディーゼルを燃料とする新車販売を禁止する方針を謳ったことに注目が集まったが、ほかにも脱炭素に向けた重要な施策が含まれている。水素生産能力の拡大もそこに含まれている。
「10-point plan」においては、水素供給能力を2030年までに5GWに拡大することを掲げている。同じく2030年までに、電気とガスの供給を100%水素でまかなう水素タウンの開発も目指す。そのために最大で5億ポンドを支援するという。今回のガス大手5社による「Britain’s Hydrogen Network Plan」は、この政策を受けたものだ。
「10-point plan」では、水素への移行について明確なマイルストーンも示した。2022年に水素のビジネスモデルを確立、2023年にはガスの供給ネットワーク中への水素含有量を20%にまで引き上げる。また、2023年までに地方の家庭において水素供給のトライアルを実施する予定だ。さらに、英政府は水素社会への移行により、2030年までに8,000人、2050年までに10万人の雇用を生み出すとしている。新たなエネルギー源へのシフトが大きなビジネスチャンスとして捉えられている。
水素ガスの供給にあたっては、既存の天然ガスの供給インフラをそのまま利用することができないことが課題だった。そのため、発電用燃料や燃料電池車両用、水素製鉄などが注目されてきた。そうした中にあって、天然ガス(日本におけるいわゆる都市ガス)を水素に置き換えていくというのは、他国と比較すると先進的かつ野心的な計画だといえるだろう。
参照
ENA:Gas grid companies plot course to Britain’s first hydrogen town 2021.1.21
ENA:Gas Goes Green
UK goverment:10-point plan
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