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再エネ企業への変身へ向けて、脱褐炭に踏み切るドイツ・RWEの苦悩

再エネ企業への変身へ向けて、脱褐炭に踏み切るドイツ・RWEの苦悩

2020/03/06

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第18回

前回ドイツ連邦政府が2038年までに褐炭火力発電所を全廃するための、行程表を発表したことをお伝えした。ドイツの脱褐炭プロジェクトの中で最大の負担を強いられるのは、この国の最大手の電力会社RWE(本社・エッセン)である。今回はRWEの脱褐炭のスケジュールとその改革に伴う痛みに焦点を当て、ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏がレポートする。

脱褐炭で大きな負担

ドイツが今後18年間に閉鎖する30基の褐炭火力発電設備の内、半分を超える16基が、RWEの所有だ。脱褐炭により、同社は自らの身を切るような発電事業の変更を迫られる。

RWEの母体は、1898年にドイツ西部・ルール工業地帯のビクトリア・マティアス炭鉱に隣接して建てられた発電所だった。RWEはその後、ものづくり大国・ドイツの経済成長をエネルギー供給によって支えるという重要な役割を果たしてきた。

しかし、時代は大きく変わった。今日のドイツ政府にとっては、地球温暖化に歯止めをかけることが、最も重要な政策課題のひとつとなっている。市民のCO2問題に対する関心も、日本や米国よりはるかに強い。

石炭と褐炭を経営戦略の中心としてきた電力会社が、CO2削減という国家の目標達成に貢献するために、これらのエネルギー源の使用から脱却し、再生可能エネルギー主体の企業に生まれ変わろうとしている。RWEの経営戦略の大転換は、ドイツのエネルギー転換がこの国の電力市場、そして経済の流れをいかに大きく変えつつあるかを象徴する出来事だ。

9年間で褐炭火力の容量を半分以下に減らす

ドイツ政府が2020年1月16日に脱褐炭の行程表を発表すると、RWEのロルフ・マルティン・シュミッツ社長は、ほぼ同時に同社の褐炭関連事業の縮小計画を公表した。
現在RWEが運転している16基の褐炭火力発電所の設備容量は8,720MWだが、同社は2020年末から徐々に発電設備を停止し、2029年には半分以下の3,800MWに減らす。9年間で、5,000MWを超える設備容量を削減するのだ。そして遅くとも2038年末までには、褐炭を使う全ての発電設備の火が消える。

資料=RWE 「Übersicht über die Vereinbarungen zum Braunkohleausstieg von RWE」

さらにRWEは、2029年にライン川地区のハンバッハ褐炭採掘場とインデン採掘場の使用を停止するほか、2038年には最後のガルツヴァイラー褐炭採掘場も閉鎖となる。褐炭は露天掘りが可能であるため、ドイツでは最も調達コストが低いエネルギー源だが、褐炭の採掘にはあと18年間で終止符が打たれる。これによりRWEは、採掘許可を受けた褐炭の約半分にあたる11億トンの褐炭を採掘せず、地中に留めることになる。

さらにRWEは、「ハンバッハ褐炭採掘場に隣接した森林は伐採せずに保存するべきだ」とした、2019年1月の脱褐炭・石炭委員会の提言を受け入れた。この森林の伐採については環境保護団体から激しい抗議の声が巻き起こり、行政裁判所が環境活動家たちの主張を認めて、RWEに対して伐採の差し止めを命じていた。ゴアレーベンやヴァッカースドルフが反原発運動の象徴となったように、このハンバッハの森は、ドイツの反褐炭運動にとってシンボルとなっていた。

ハンバッハの森の環境活動家のバリケード(2016年・Infoletta Hambach)

RWEの大規模リストラ:従業員を6,000人削減へ

脱褐炭は、RWEの雇用に甚大な影響を与える。RWEのシュミッツ社長によると、同社は「短期的に」従業員数を3,000人減らす。その後2030年までに、従業員の削減数は合計6,000人に達する見込みだ。これは、褐炭部門で働く従業員数が、10年間で60%減ることを意味する。エネルギー転換によって、ドイツ最大手の電力会社は、身を切るようなリストラを迫られるのだ。

シュミッツ社長は大規模な人員削減の理由について、「政府が提案した褐炭火力発電所の閉鎖、設備容量削減のテンポは、RWEが想定していた以上に急激である。我が社の負担は、当初の想定を上回るものとなった」と説明している。彼は「RWEは、この政府提案に賛成したものの、我が社にとってはこれ以上の努力はもはやできない」と述べた。

さらにシュミッツ氏は「RWEはドイツ連邦政府と州政府が合意した脱褐炭・石炭法の施行に関して、最も大きな負担を負わされる。CO2削減という目標を達成するための脱褐炭・石炭合意がRWEの社員と経営に与える影響は、甚大だ。だがこの悪影響は、政府が設置した脱褐炭・石炭委員会による提言を実行する上で避けることができない代償である」と社員に説明している。

褐炭部門の社員には手厚い補償措置

RWEは、脱褐炭によって仕事がなくなる社員に対しては、他の部署に移るための職業教育や研修の他、退職金など様々な補償措置を行うことを約束した。ドイツでは労働組合の影響力が強いため、企業が社員を解雇するのは容易ではない。ドイツには労働裁判所という、雇用問題だけを担当する裁判所があり、働く者が「不当解雇」と主張して訴訟を提起すると、裁判官は労働者に有利な判決を出す傾向がある。

ドイツでも50歳を過ぎて失業した場合、新しい職を見つけるのは極めて難しい。このためドイツには、「中高年齢層向けパートタイム(Altersteilzeit)」という制度がある。この方法は、ドイツの企業が社員数を減らさなくてはならない時にしばしば使われている。

ドイツの公的年金の支給開始年齢は67歳である。たとえば59歳の労働者は、年金を満額で受け取るには、あと8年間働かなくてはならない。彼が「4プラス4」という形式の中高年齢層向けパートタイム契約にサインした場合、最初の4年間(59~63歳)は手取り給料の70%を受け取って、フルタイムで働く。しかし後半の4年間(63~67歳)には、会社で働かなくても、手取り給料の70%を受け取ることができる。

手取り給料の何割をもらえるかは、会社によって異なる。中には、手取りの80%~90%を出す会社もある。この場合、社員たちは喜んで会社を辞めていくので、経営者は彼らを解雇する必要はない。RWEは、こうしたプログラムを利用して、従業員数の削減を行うものと見られる。

一方、ドイツ連邦政府は脱褐炭のために仕事がなくなる労働者に対し、いわゆる「適応手当」と呼ばれる援助金を支払ったり、予定よりも早く年金生活に入るために年金支給額が減る労働者に対して、年金の減額分を補填したりする方針も明らかにしている。

「政府による補償額は、十分ではない」

RWEは、他にも政府の脱褐炭政策によって多額の経済損害を受ける。たとえばライン地方に所有する褐炭火力発電所や採掘場の資産価値が低下するので、同社はこれらの資産の減額分の損金処理を迫られる。また褐炭採掘計画の大幅な変更が必要となるために、追加的な費用が生じる。さらに前述の中高年層向けパートタイムにも、多額のコストがかかる。
RWEは脱褐炭にかかる費用の総額を、35億ユーロ(4,200億円・1ユーロ=120円換算)と推計している。

これに対し、連邦政府がRWEに支払う補償金の額は26億ユーロ(3,120億円)。RWEのシュミッツ社長は、「我が社は脱褐炭で大きな悪影響を受ける。政府は補償金として26億ユーロを支払う方針だが、RWEに生じる経済的損害は35億ユーロであり、政府の補償金は足りない。しかも我が社の経済損害には、逸失利益(脱褐炭がなければ稼げていたはずの収益)は含まれていない」と述べ、政府の措置に不満だという態度を明らかにしている。

さらにシュミッツ氏は、「この補償案をめぐる政府との長い交渉は、我が社の社員にとって感情的につらいものだった。社員の皆さんが、電力の安定供給を確保するという重要な仕事に安心して集中できるように、安心できる解決方法を求めてきたい」と語っている。
長年にわたってRWEで褐炭火力による発電や、褐炭の採掘に従事してきた労働者たちにとって、厳しい時代が始まろうとしている。

RWEのシュミッツ社長 2019年9月30日 copyright RWE AG, Lutz Kampert

投資家はRWEの脱褐炭を好感

RWEのケースは、地球温暖化と気候変動に歯止めをかけるための戦いがいかに苦しい物であるか、一部の市民の生活にいかに大きな影響を及ぼすかを示している。メルケル政権は、一部の市民に大きな痛みをもたらし、巨額の出費が必要となっても、CO2削減のための措置を粛々と実行に移している。ドイツ人たちが、改革の痛みにもかかわらず、エネルギー転換を断行する決意の固さには、感心させられる。

ちなみに金融マーケットはRWEの脱褐炭への決断を高く評価している。同社の株価は2020年1月1日には約27ユーロだった。しかし1月6日にRWEが脱褐炭スケジュールを公表し、「政府から26億ユーロの補償金が支払われる」と発表すると株価が急上昇し、本稿執筆中の3月4日には32.70ユーロとなっている。(RWE株価

株主や投資アナリストたちは、RWEが発電ポートフォリオを非炭素化し、褐炭・石炭・原子力中心の企業から、再生可能エネルギー中心の企業に生まれ変わろうとしていることを好感しているのだ。欧州の企業にとって、化石燃料との訣別は、資金調達という観点からも、避けて通れない道となりつつある。

(RWEのグリーン化・再生可能エネルギー拡大については、本シリーズの第14回もご参照下さい)

熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
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