エネルギー業界は神話から脱却し、ゲームチェンジャーに 国際大学 橘川武郎教授 インタビュー(後編) | EnergyShift

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エネルギー業界は神話から脱却し、ゲームチェンジャーに 国際大学 橘川武郎教授 インタビュー(後編)

エネルギー業界は神話から脱却し、ゲームチェンジャーに 国際大学 橘川武郎教授 インタビュー(後編)

2021年06月03日

第6次エネルギー基本計画の策定をテーマに、経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である、国際大学教授の橘川武郎氏にお話しをおうかがいする3回目。現在日本でも注目されるようになってきた洋上風力発電については正しい戦略だと指摘する。何より、エネルギー業界の守旧派は硬直的な「原発脳」を脱却する必要があると語る。その先に、2050年にトップランナーとなる道が開けるということだ。(全3回)

シリーズ:エネルギー基本計画を考える

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毎年1GWの洋上風力開発は正しい戦略

― 洋上風力を推進していくためにも、何らかの政策措置が必要でしょうか。

橘川武郎氏洋上風力については、デンマークのエルステッド(オーステッド)がリードしており、私も彼らから推進するように言われたことがあります。そのときに、日本には4つの問題があることを伝えました。それは、風向き、漁業権、送電線、遠浅の海が少ないこと、の4つです。

しかし彼らは日本のことをよく調べており、これらのち3点は問題ではないということでした。

まず、風向きです。地球は自転しており偏西風が吹いており、西欧諸国のように西側が海のところでは安定した風が吹いています。これに対し、日本でも西側に日本海や東シナ海などの海があり風況のいい場所がありますし、東の太平洋側にもいい場所があります。ですから、エルステッドは銚子沖の開発にも参画しています。

漁業権については、オーナーシップを持ってもらうということでした。デンマークでも陸上風力については当初、騒音問題などによる住民の反対があったそうですが、住民にも投資してもらい、市民風車にすることで反対がなくなったそうです。住民にはこれまで騒音だったものが、お金の音に聞こえるようになったとかいう話も聞きました。米国でもシェールガス開発で同じ方法をとっています。

送電線の不足に至っては、問題の意味がわからないということでした。再エネが安ければ、電力会社は送電線を整備するでしょう。2030年代になって、洋上風力のコストが8円/kWhから9円/kWhとなれば、再エネの奪い合いになるのではないでしょうか。そもそも、送電線は総括原価方式です。送電線の整備が進まないというのは神話的なところもあると思います。

ただし、4点目の日本に遠浅の海が少ないことだけは、エルステッドとしてもどうしたらいいかわからないということでしたが、それでも洋上風力のコストが10円/kWhを切ることは可能だと考えていました。

したがって、毎年1GWずつつくっていくというグリーン成長戦略は正しいと思いますし、パリ協定が採択された2015年から取り組んでいれば2030年再エネ38%が視野に入っていたと思います。

難しい導入目標に対応しなくてはいけない、現在の資源エネルギー庁の方々には同情しますが、これはすべて先輩が悪いということです。


国際大学国際経営学研究科 橘川武郎教授(2020年撮影)

― 日本における電気自動車の普及も注目されています。

橘川氏:Dena(ドイツエネルギー機関)は、ドイツにおける2050年カーボンニュートラルのシミュレーションをしています。それによると、運輸部門では電気が21%、水素が23%、航空機用等の合成燃料が22%となっています。乗用車が電気、長距離の車両は水素ということでしょう。

3年前にノルウェーに行ったとき、販売台数のうち40%が電気自動車ないしはプラグインハイブリッド自動車でした。電力の90%を水力発電で供給しているノルウェーの場合は、電気自動車によるCO2排出削減効果が大きくなります。そして、販売されていた電気自動車は主に日本車とドイツ車でした。ということは、日本の自動車業界は電気自動車でも十分に競争力があるということではないでしょうか。

低価格の電気自動車では中国には及ばないかもしれませんが、中級車以上では日本は十分に競争力を持てると思います。

とはいえ、電気自動車については、VPPのようなシステムとしての運用が中心になってくると思います。その点、トヨタ自動車がモデルタウンを開発するということは理解できます。

また、出光興産は、EVのためのSS(サービスステーション)につくりかえようとしている。MaaS(Mobility as a Service)の世界に移っているのです。モノからサービスへの移行ですし、人口が減少すればますますMobilityのニーズは高まります。したがって、ビジネスモデルも変わることになります。

SSは石油会社にとって重要な経営資源ですから、これをいかに活用していくかは、石油会社の腕の見せ所です。

日本の電力業界は原発脳の脱却を

― お話しをおうかがいしていると、日本には神話が多いと感じました。

橘川氏:まず、再エネは高いというのが、日本での一番の神話です。

また、最近になって原子力推進派が息を吹き返すという報道がありますが、これは間違っています。彼らは力不足です。もし本気で原子力を推進したいのであれば、第5次エネルギー基本計画に賛成してはいけなかったのです。というのも、そこにはリプレイスは盛り込まれていないからです。

核燃料サイクルについても、六ヶ所村再処理工場が運開すれば、毎年7トンのプルトニウムが取り出されます。しかし、一般の原子炉でプルサーマル(プルトニウムを含む核燃料の利用)を実施しても、1基当たり年間0.5トンしか消費できません。14基のプルサーマル運転炉が必要なわけですが、今の日本には4基しかありません。プルトニウムがたまる一方です。かつて米国のカーター政権は日本に対し、核燃料再処理をやめるように通告してきましたが、現在は同じ民主党政権なので、同様に通告される可能性があります。

もし私が推進派の政治家であれば、既設のABWR(柏崎刈羽原子力6号機、7号機のような改良型の原子炉)を、(電源開発大間原子力のように)フルMOX(プルトニウムを含む燃料を100%使って運転)の原子炉につくりかえるでしょう。フルMOX炉はプルサーマル炉の3倍のプルトニウムを消費しますから、そうすればあと4基ですみます。しかしそうしたアイデアはまったく出ません。新型炉によるリプレイスといった政策も出ません。

原子力推進派はリアリティのあるアイデアを出すのではなく、自分たちのポジションを守るのにせいいっぱいです。出席する審議会では、テーマが再エネであっても省エネであっても、毎回原子力の話をしていることについては、怒りを覚えます。

私は、原子力の推進派の方々の硬直的な考え方を、「原発脳」とよんでいます。そこから脱却することが必要でしょう。

その点、JERAは火力専門の会社であり、原子力から距離をおいて、カーボンニュートラルを目指します。また、東京電力パワーグリッドは先行してノンファーム接続を導入しましたが、これは柏崎刈羽原子力の再稼動を待っていられないからでしょう。同様に、原発を切り離せないでいる他の電力会社も、原発脳から脱却すると、ゲームチェンジャーになれるでしょう。

― 2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年までの取り組みが重要だという見方もあります。

橘川氏:バイデン大統領にせかされたとはいえ、日本も大幅な温室効果ガス削減の目標を設定しました。これをきっかけに、ようやく原発脳が治り、グローバルな発想を持てるようになったのではないでしょうか。

目先の2030年までは大変かもしれませんし、お金が出ていくことになり痛みもあるでしょう。京都議定書での目標も結局お金を払って達成しましたが、その痛みを生かせずに十分な再エネ政策をとってきませんでした。しかし今からでも挽回は可能です。アンモニアの技術を確立してアジアで展開することもあるでしょう。2030年では勝てないかもしれませんが、2050年のゴールには先頭を走っているようにしたいものです。

お金で解決することを一概に否定するわけではありませんが、海外でCO2を減らしていくことも重要です。日本には少なくともアジアでのカーボンニュートラルに責任があります。

ヨーロッパは急速に石炭をなくそうとしていますが、日本は同じようにはいかないと思います。石炭のたたみ方をきちんと考えておく必要がありますし、そのたたみ方は同じ特徴を持つアジアの国々にも適用できます。同じように、原子力のたたみ方も大事です。そこではカーボンフリーの火力発電が重要になるでしょう。

原発脳から脱却し、ゲームチェンジャーが出てきたところに、これからのヒントがあります。これまでの日本の経営者には問題がありました。高い現場力と低い経営力のミスマッチが電力問題の本質です。そこから脱却することが必要です。

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(Interview &Text:本橋恵一、小森岳史、Photo:岩田勇介)

橘川武郎
橘川武郎

国際大学国際経営学研究科教授 1951年生まれ。和歌山県出身。1975年東京大学経済学部卒業。1983年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。同年青山学院大学経営学部専任講師。1987年同大学助教授、その間ハーバード大学ビジネススクール 客員研究員等を務める。1993年東京大学社会科学研究所助教授。1996年同大学教授。経済学博士(東京大学)。2007年一橋大学大学院商学研究科教授。2015年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。2020年より現職。東京大学・一橋大学名誉教授。総合資源エネルギー調査会委員。前経営史学会会長(在任期間2013~16年)。

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