台湾洋上風力発電UPDATES:2026年以降の国産化ルール変更とTSMCの大型買電契約 | EnergyShift

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台湾洋上風力発電UPDATES:2026年以降の国産化ルール変更とTSMCの大型買電契約

台湾洋上風力発電UPDATES:2026年以降の国産化ルール変更とTSMCの大型買電契約

2020年09月10日

非核家園、永続台湾

今回は、2026年から2035年までの洋上風力開発「国産化」のルールに関する最新の動向と、半導体製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)による洋上風力電力の大型買電契約について、JETRO・アジア経済研究所研究員で東アジアのエネルギー問題の専門家、台湾在住の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏が具体的な事例をもとに紹介する。

「国産化」義務に関する大幅なルール変更

昨年(2019年)11月、蔡英文総統は、2026年から2035年までの10年間で5GWにするとしていた従来の洋上風力発電設備容量の目標を10GWに拡大する意欲を示した。

これを受けて今年(2020年)の8月、この10年間に発電開始予定の開発案件に課される「国産化」義務について、スケジュールや参加資格の変更が発表された。

この「国産化」義務の、大きな変更点は下記3点である。

ひとつ目は、これまでのデベロッパー選定とグリッド接続容量の配分プロセスにおいて経済部の開発資格審査と決定が大半で入札は部分的であったが、2026年以降はこれが完全入札制に移行することとなった。

ふたつ目は、前半5年間にあたる2026年~2030年の発電設備容量5GWを、第一段階(2026年~2027年)で2GW、第二段階(2028年~2030年)で3GWと二段階に分割し、更にこの5年間で一つのデベロッパーに割り当てられる容量の上限を2GWとしたことである。

これはより多くのデベロッパーに参入を促し、競争する環境を整える狙いがあるとみられる。第一段階の開発資格審査は2022年の第2四半期に、第二段階は2024年の第2四半期に実施される予定となっている。

三つ目は、国産化の対象となる現行27項目に、新たな品目が追加されることになった点である。現在、海上変電所や歯車、ブレードの素材などが検討されているが、具体的な内容は今後調整の上、今年の第4四半期に公表される予定である。

国産化は国内の産業活性化という目標がある反面、デベロッパーにとっては開発のハードルが一段と高くなるため、何が追加されるかについては高い関心が寄せられるだろう。

台湾の洋上風力発電開発に関する近況

台湾の洋上風力発電事業は、現行の計画が完遂されると2035年には合計15.7GWが稼働していることになる。これは政府目標で全発電設備容量の20%まで引き上げられる予定となっている再生可能エネルギー容量のうち、4割にあたる。

当初は2020年から2025年までの6年間とされていた計画が、2035年までの16年間にまで延長された。このことには、サプライチェーンの長期的な開発を牽引する役割を果たし、国内産業に持続可能かつ明確な市場ニーズをもたらす効果があった。

同時に投資家の注目も高まっており、今年に入ってから新型コロナウイルス感染症のパンデミックを背景とした資金の流入にも支えられ、洋上風力関連銘柄では株価が著しく上昇した。

しかし、こうした風力発電業界全体に高まる周囲の期待とは裏腹に、デベロッパーが抱える状況は大きく異なるのが実情だ。

例えば、環境影響アセスメントへの対応は難題である。環境アセスメントは年月を要し、先の見通しを立てるのが難しいため、スケジュールを守れる開発業者は限られている。とはいえ、その限られた業者に多くの開発容量が集中すれば公平性を欠くとの批判は免れない。

業者間の競争も激しさを増しており、ドイツやノルウェーなどからは多くの新規デベロッパーが開発に参加する意欲を見せている。このように参入するプレーヤーが増加する中で、既存のデベロッパーの中にさえ、発電サイトが環境評価アセスメントに合格しているのに、未だ設備容量を割り当てられず開発できてないケースが出てきている。今後、経済部、能源局を主体とする政府の舵取りを注視したい。

再エネ取引元年、TSMCによる再生エネ購入計画とその影響

台湾では洋上風力発電の建設ラッシュが進む中で、「台湾の再エネ取引元年」とも言える2020年、電力市場の自由化には重要な進展があった。

経済部によって2017年に設置された「国家再生可能エネルギー証明書センター(國家再生能源憑證中心、T-REC)」は、再生可能エネルギーの設備や発電量を確認・保証する業務を担い、条件を満たす申請案件に対して再生可能エネルギー証明書を発行している。

この証明書は「再生可能な資源によって作られた電気であること」を証明し、1,000kWhの電力量に対し1枚発行される。

更にこの証明書は取引の対象として売買されており、取引の場となるのが2020年にT-RECが開設した「再生エネ電力証明書取引プラットフォーム(綠電憑證交易平台)」である。

2020年6月末に行われた最初の取引では、半導体最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が二社から太陽光発電を対象として合計10,522枚(1,052万kWhに相当)を購入し、実に取引枚数の99.7%を占めたことで大きな存在感を示した。

台湾TSMCは今年RE100に参加を表明した世界初の半導体製造業者である。
RE100とは、企業が事業で使用する電力を100%再生エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、TSMCは2050年までに再生可能エネルギーを100%使用すると約束している。RE100には既にアップル、グーグル、ナイキ、リコーなどの企業が参加しており、アップルはTSMCの主要供給先の一つである。顧客メーカー側からの再生エネルギー使用に関する厳しい要求も、同社が再エネ電力の購入を急ぐ一因となっている。

またTSMCの電力消費量は年々増加しており、昨年にはグループ全体で143.3億kWhに達している(下図)。これは現在、台湾の全再生エネルギー発電量(約140億kWh)を上回っており、政府主導で積極的に開発が進められる洋上風力発電に対し、同社の期待は大きい。

出所:TSMC「CSRレポート2019」。

台湾TSMCはエルステッド(Ørsted)の洋上風力34.5億kWh/年を20年間一括購入した

TSMCの洋上風力に対する期待の大きさを象徴する出来事として、同社は今年7月、デンマークの洋上風力発電大手エルステッド(オーステッド)との間で、ある大型契約を交わしている。

エルステッドは台湾の彰化県海岸沿いに、発電設備容量が合計2.4GWとなる四つの洋上風力発電所を建設予定である。そのうち大彰化東南、大彰化西南発電所のふたつが計900MWのグリッド接続権を与えられた。

TSMCとの契約は、このふたつの発電所の運転開始後、20年間で発電する全電力量(毎年34.5億kWh、再エネ電力証明書345万枚に相当)を一括購入するという衝撃的な内容であり、再エネ売買額の世界記録を更新するなど、国内外で大きな注目を集めている。

出所:エルステッドの公式ウェブサイトより。写真はイギリス・Burbo Bank Extensionの洋上風力発電所。

この契約で、TSMCは再エネ電力証明書の獲得により顧客の要求に応え、エルステッドは商業運転開始後の収益安定化につながるため、双方にメリットがある。

ただし取引価格は非公開とされ、後述するがこの大口取引を契機に市場原理が働かなくなるのではないかと懸念する声も上がっている。

TSMCは今後も生産ラインの増設を予定しており、電力使用量の大幅な増加が想定されている(下図)。

今年2020年末に予定されている3nm(ナノメートル)製造プロセス研究開発センターの開所を皮切りに、以降新規に建設される工場は、再生エネルギーを20%使用するとしている。

更に同社は2030年に製造部門で25%、非製造部門で100%、2050年には全部門で100%再生エネルギーを使用するという段階的な目標と、それに伴う再エネ電力の購入拡大を表明している。

出所:TSMC。

再エネ戦略全体の原点を見直す必要も

半導体世界最大手のTSMCと洋上風力大手であるエルステッドとの契約は、電力自由化と再エネ拡大を目指す台湾にとっては、サプライチェーンを通じどちらの目標も大きく前進させ、産業界への大きな波及効果も期待できる完璧な内容に見えるが、前述のように無視することのできない批判もある。

それは、低い価格設定で開発資格を落札したデベロッパーと、TSMCのように圧倒的な資金力を誇る大企業との随意契約による売買が主体になると、取引に市場原理が働かず、巨額の税金を投入して支えられてきた洋上風力発電市場において、台湾には数少ない一部の大手デベロッパーに利益が集中してしまうという点である。

これは、再生可能エネルギーの開発効果が関係業界だけでなく、産業界をはじめ、市民を主体とする社会全体に広く及んでより多くの人が利益を享受すべきであるという本来の理念に反しており、今後洋上風力だけでなく再エネ戦略全体の推進に当たって、一度原点に立ち返り見直していく必要があるだろう。


(写真:中村加代子)
鄭方婷
鄭方婷

国立台湾大学政治学部卒業。東京大学博士学位取得(法学・学術)。東京大学東洋文化研究所研究補佐を経てJETRO・アジア経済研究所。現在は国立台湾大学にて客員研究員として海外駐在している。主な著書に「重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ」(現代図書)「The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation,」(Springer)など。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/cheng_fangting.html

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