電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(後編) | EnergyShift

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電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(後編)

電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(後編)

2021年11月19日

2021年、欧州を襲ったエネルギー危機は、英国における小売電気・ガス事業者の相次ぐ経営破綻にとどまらず、欧州各国において、料金の大幅な値上げとなっており、産業から人々の生活にまで多大な影響を与えている。前回は、英国における産業界への影響、および英国以外の欧州各国が直面する状況について解説した。最終回となる今回は、そもそもエネルギー危機の原因は何だったのか、そして同様に電気料金の価格の上昇となっている日本に対する示唆はどのようなものか、エネルギー経済社会研究所代表取締役の松尾豪氏が解説する。

7.様々な要因が重なった欧州エネルギー危機の原因

欧州エネルギー危機の原因は複数要因が挙げられ、原因分析にあたっては慎重を期す必要がある。今回のエネルギー危機の原因について述べられた国際機関・政府機関のレポートを元に集約すると、欧州におけるエネルギー危機に至るまでの過程は図6の通り整理できる。

図6 国際機関・欧州政府機関のレポートを元に整理した欧州エネルギー危機に至るまでの過程

欧州では4月頃から継続的にガス価格・電力価格が上昇傾向であったが、要因としては世界的なLNG価格の上昇が挙げられる。本稿では全世界的なエネルギー上流投資の減少とそれに伴う影響といったマクロ要因については触れず、今回の欧州エネルギー危機の引き金になった比較的ミクロの要因について説明したい。

前編で述べた通り、ガス価格・電力価格が急上昇した直接のきっかけは7月上旬から始まったロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプラインNord Streamのメンテナンス停止、および8月中旬から下旬まで続いたロシアによるYamal-Europe Gas Pipelineを通じた西欧向けガス輸出の急減であった。この原因については諸説あるが、ロシア政府はロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプラインNord Stream2早期承認の交渉材料として活用しようとしているとの見方がある。一方で、8月上旬に西シベリア・ヤマル地方でガス生産プラントが火災事故を起こしたことが判明しており、生産設備損傷によるガス供給量の減少との見方もできる。

ロシアだけでなく、ノルウェーのガス供給減少も欧州エネルギー危機の大きな要因として考えられている。昨年9月にノルウェーに本拠を置く北欧最大のエネルギー企業Equinorが運営するガス生産プラントHammerfest LNGが火災事故を起こし、同国のガス生産量は10%減少している。

英国BEIS(ビジネス・エネルギー・産業戦略省)やACER(欧州エネルギー規制当局間協力庁)は今回のエネルギー価格高騰の直接の原因をLNG価格上昇と結論付けている。特に英国のガス供給の内訳を見ると、48%が国内生産で、30%が天然ガス輸入、22%がLNG輸入となっている。

ガス・電力ともに限界費用約定であり、限界燃料・電源が市場価格に反映される。世界的なLNG価格の上昇により、欧州着のLNG価格も上昇し、ガス価格の上昇、次いで電力市場の上昇を招いたと見られている。

図7 2020年の英国における天然ガス生産・輸入量

クワーテングBEIS大臣は9月20日の庶民院における閣僚声明演説の中で、「今回のエネルギー価格高騰はLNG価格上昇に伴うもの。これは安定供給の問題ではない」と強調している。

副次的な要因としては、やはり風力出力の減少は避けては通れない問題であろう。大手発電事業者のSSEは、4月1日から9月下旬までの水力・風力発電の発電電力量が計画値の3分の1しか得られなかったことを明らかにしている。過去3年間の欧州各国の風力発電電力量を図8に示した。南欧では例年並みの風力発電電力量が得られているものの、北欧では風力出力が例年よりも低い状態が続いていることが分かる。

また、図9に8月以降の英国の電源構成を示した。9月中旬まで風力出力が不安定な状況が続いており、その代替供給力として主にガス火力、必要に応じて石炭火力に頼っていたことが分かる。

図8 欧州主要国の風力発電による発電電力量(2019年から2021年)

図9 英国の電源構成(2021年8月1日-10月30日)

欧州の一部エネルギーシンクタンクからは「今回のエネルギー危機はガス価格高騰もさることながら、風力発電出力の変動が引き金の一つとなった」「長期的には風力発電の出力変動にエネルギーシステム全体で対処していく必要がある」などといった声が上がっている。

また、ロシア政府は、ロシアとのガス長期契約を解約しスポット市場に依存する欧州の姿勢が、今回のエネルギー危機を招いたと強く非難している。10月6日にロシア大統領府はエネルギー問題に関する関係閣僚会議を開催し、ウラジーミル・プーチン大統領やアレクサンドル・ノヴァク副首相、ロスネフチのイーゴリ・セーチン会長などエネルギー関係閣僚や企業代表者が出席した。

プーチン大統領は、エネルギー危機の本質は欧州がガス長期契約を解除して電力の日々の取引が行われるスポット市場に頼る姿勢にあると強く非難したほか、ロシアは市場での買い入札に応じた売り入札を行っており、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは9月までに契約で定められた供給量を8%以上超えて欧州にガス供給していることを明らかにした。

また、ノヴァク副首相は冬季に向けてロシア国内のガス安定供給を図るべく、まずは10月中をめどに国内貯蔵施設へのガス供給を優先し、その後サンクトペテルブルクの取引所で追加売り入札を実施する方針を明らかにしている。

一部ではNord Stream2の早期承認を狙うロシア政府の思惑があるのではないかとの指摘があるものの、プーチン大統領はウクライナを経由したガスパイプライン(Progress Gas Pipeline、Urengoy-Uzhgorod Gas Pipeline、Soyuz Gas Pipeline)は数十年にわたってメンテナンスが行われておらず、老朽化による計画外停止がいつ発生してもおかしくないと指摘している。筆者はロシア政府の主張は一貫しており、合理的な説明を続けているように感じている。

日本は欧州エネルギー危機から何を学ぶのか・・・次ページ

松尾豪
松尾豪

合同会社エネルギー経済社会研究所 代表取締役 2012年イーレックス株式会社入社、アビームコンサルティングなどを経て2020年にエネルギー経済社会研究所を設立。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。

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