2022年2月28日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は総会を開催し、第6次評価報告書のうち第2作業部会における報告書を取りまとめ、公表した。今回の報告書は、気候変動による影響や適応、脆弱性についてまとめたものだ。報告書によると、すでに地球環境は深刻な影響を受けており、今後10年の間に大幅な温室効果ガスの削減と適切な適応策がなければ、さらに深刻な状況になることを示唆したものとなっている。今後、各国政府が報告書の警告をどのように受け止めるのかが問われてくる。
2月28日、報告書の発表にあわせて出されたプレスリリースのタイトルは「気候変動:人類の幸福と地球の健康への脅威」となっている。しかし、リリース内で引用されている、IPCC議長のホーソン・リー氏のコメントは、「この報告書は、無策がもたらす結果についての悲惨な警告である」というものだった。実際に、報告書にともなって作成された「政策決定者のための要約(SPM)」を読むと、事態の深刻さが伝わってくる。
IPCCは5年から6年おきに、気候変動問題の状況や影響、とるべき政策などについて、評価報告書を公表している。今回の報告書は第6次となるもので、およそ8年ぶりとなる。
気候変動の科学的根拠についてとりまとめた第1作業部会の報告書は2021年8月に公表され、気候変動問題が人類の活動が原因であることを断定するところまで踏み込んだ内容となった。
今回の報告書はこれに続くもので、気候変動による影響と適応、および脆弱性についてまとめられている。また、4月には第3作業部会の報告書として、気候変動を緩和する政策などについてまとめられる予定となっている。
報告書が示す深刻さは、プレスリリースの次の言葉からも受け止められる。「増加した熱波、干ばつ、洪水はすでに植物や動物の許容範囲を超えており、樹木やサンゴなどの大量死を引き起こしている」という認識だ。さらに、報告書で示された適応策は「もはや選択肢ではない」(リー氏)ということだ。
その上で、今後10年間の活動が極めて重要であり、一度1.5℃を超えてしまうと、不可逆的な変化となってしまう可能性が高いということだ。しかも、気候変動は悪循環に陥ると、貧困層など脆弱な人々により大きな影響を与える(図1)。また、地域の行動をグローバルにつなげていくパートナーシップが必要ということだ。
図1
出典:IPCCHP
その意味では、今後10年の取組みは、人類にとって重要な挑戦ということにもなる。
報告書は4つの部分に分かれており、それぞれ、Aはじめに、B予測される影響とリスク、C適応策と可能性、D気候変動に対応した開発、となっている。
このうちBでは、多くの深刻な影響が指摘されている。生態系については、生物の極域への移動や高い標高への移動、永久凍土の融解と北極圏の生態系の変化などが指摘されており、すでに一部の種が絶滅したことなど不可逆的変化も指摘されている。
図2、図3は、生態系や人間社会システムにおいて観測された気候変動の影響を示したものだが、地域ごとに影響の大きさや傾向が異なっている。
図2:生態系において観測された気候変動影響
図3:人間システムにおいて観測された気候変動影響
出典:経済産業省HP 「政策決定者向け要約」をもとに編集部再編集
こうしたことは、食糧にも影響を与えている。農業生産性の向上も認められるものの、水の確保や異常気象などによって数百万人もの人々が食糧危機にさらされていることや、海洋資源への悪影響などが指摘されている。また、すでに栄養失調が増加する地域もある。とりわけ子供については、教育の機会を失うことにもつながり、ひいては貧困を拡大することにもなる。
水資源についていえば、2℃の上昇で8億人から30億人が、4℃の上昇で最大40億人が水不足に直面すると予測している。世界人口のほぼ半数が水不足になる可能性があるということだ。また、水不足がとりわけ深刻になるのが、アフリカと中央アジアだ。
同様に、雪解け水の減少が最大20%や氷河の消失がおよそ18%も進み、灌漑にも影響を与える。
一方、沿岸地域は海面上昇と気象災害の甚大化にみまわれることになる。低平地に住むおよそ10億人がこうした被害に直面する。
こうした気候変動の影響は、サプライチェーンなどを通じて国境を超える。たとえば食糧価格の高騰だ。
また、報告書は一部の再エネの開発については慎重になることを示唆している。水力発電やバイオマスエネルギーは食糧生産の低下や気候変動のリスクの増大につながる可能性があるということだ。
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