スイスABB社が「超」急速充電器を新しく発表した。欧米ではこうした超急速充電器が普及しはじめ、対応車種もでてきている。日本の充電器開発、車メーカーも影響は免れない。
スイスに本社を置くABBは、急速充電池の最新型「Terra 360」を発表した。
プレスリリースによると、最大4台の車両を同時に充電できる。この充電器の最大出力は360kWで、15分以内にEVをフル充電、3分未満の充電で100kmの航続距離の充電が実現できる。
「世界各国の政府が気候変動対策のために電気自動車や充電ネットワークを優遇する公共政策を打ち出している中、EV充電インフラ、特に高速、便利かつ操作が容易な充電器に対する需要はかつてないほど高まっています。様々なニーズに対応する充電オプションを備えたTerra 360はその需要を満たし、e-モビリティの採用を世界的に加速させるための鍵となります」とABBのE-モビリティディビジョンのプレジデントであるフランク・ミューロン氏は述べている。
海外での急速充電器の普及は目覚ましいものがある。米Electrify America社、米EVGo社などはすでにABB社製の350kWの充電器を使ったサービスを展開している。今回の発表の目玉は「4台同時」にできるということだ。設置面積も小さく、小規模なスーパーや駐車場にも設置可能としている。また、広告表示用のLEDディスプレイも備えられ、これはVolta Chargingのようなデジタルサイネージを組み合わせたサービスにも適用できるようだ。
しかし、EV側でこの急速充電に対応できる車種はまだ多くない。ポルシェのTaycanは270kW、Lucid社(テスラの開発者が立ち上げたEVメーカー)のLucid Airが300kWだ。テスラのモデル3とモデルYは250kWの充電が可能で、ヒュンダイのIoniqは232kWのDC急速充電に対応している。
ただし、極端な急速充電は必ずしも現段階のEVバッテリーによいことばかりではない。バッテリーに負荷がかかりすぎるという問題もある。
今回のABBの新しい急速充電器は年内に欧州で、来年には米国などで展開する予定だ。
日本のe-Mobility Power社(旧日本充電サービス)は2020年にABBのTerra184を採用した充電機器の設置を進めているが、これは最大180kW対応だが、最大90kWのケーブルを2本出すというもの。
国内の充電設備は2020年度、はじめて減少に転じた。2021年3月末の設置数は2万9,214基。前年比で約1,000基減ったことになる。ただ、テスラスーパーチャージャーなどの特定車両向けの充電器は含まれていない。
日本政府は2030年までに急速充電器を3万ヶ所までに増やす目標を掲げているが、道のりは険しそうだ。
また、日本の充電器の7割以上が普通充電器であり、3kWと低出力なものが多い点も指摘されている。急速充電器は7,835基(2020年)で、CHAdeMOの出力も50kW以下のものが大多数を占める。350kWから900kWまで対応のCHAdeMO3.0(Chaoji)は規格が発効されたばかり。
一方、バイデン政権はアメリカの充電設備を2030年までに50万ヶ所に増やす計画を持つ。EUも2030年に300万ヶ所に増やす方針だ。
今年の8月25日には日立製作所が急速充電技術の開発のプレスリリースを出した。350kWの急速充電に対応し、50kWの充電であれば7台同時、17kWであれば21台同時に充電できる。しかも設置面積も小さく、重量も従来比7割減と業界最小の小型・軽量化を実現した。
日立製作所のプレスリリースより
変圧器を新しく開発、パワー半導体を用いた半導体変圧器にし、急速充電を可能にしている。また、電力変換ユニットでもマルチレベル回路を新開発。3並列・7段接続のユニットで充電電力とポート数をフレキシブルに変更できる。
日産リーフの新モデル、リーフe+も対応出力は最大70kWのため、ABBなどの超急速充電の恩恵は、もちろんまだ受けられない。一方で、国内では50kW充電器の普及もまだまだ十分ではないため、そんなに急速充電を求める必要はないという意見もある。
しかし、前述のように欧米での充電器環境は激変している。日本車の主戦場が欧米であることを考えれば、日本のEV、特に海外仕様車にはこうした超急速充電に対応した車種の開発が今後求められることになる。
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