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再エネの地産地消事業化が急がれる理由

再エネの地産地消事業化が急がれる理由

2021年09月24日

わが国の温室効果ガス排出削減について、2030年46%以上という目標をコミットしている。これにともない、再生可能エネルギーの導入目標も上方修正する方向だ。とはいえ、目標達成は簡単ではないだろう。こうした中、政府は地方自治体での取り組みを推進させ、モデルを構築し、水平展開させていくとしている。しかし、自治体が取り組む上で、いくつかのハードルがある。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏は、障害は何かを解説し、解決策を提案する。

これからの地域エネルギー事業のヒント17

2030年度目標の余波

新型コロナウイルスの感染拡大と東京オリンピック開催のさなかに「第6次エネルギー基本計画素案」と「地球温暖化対策計画(温対計画)の見直し案」が固まった。

その評価についてはすでに多くの報道がされているところだが、一言でいえば「オーバー・ストレッチ」を覚悟した計画だということだろう。ここでは「オーバー・ストレッチ」の是非を問うものではないが、脱炭素を巡る状況がこのまま推移し、かつ、日本政府が実態に応じて2030年度目標を変えるという柔軟な政策遂行をしないのであれば、「オーバー・ストレッチ」の顕在化、すなわち未達の兆候が明らかになるのにそれほどの時間はかからないだろう(もっとも、エネルギー基本計画はほぼ3年ごとに見直されるので、第6次計画どおりに2030年度を迎えることはないが)。

問題は、顕在化した未達部分の影響がどのように現れるか、である。まず当該分野ではさらなる強化措置が講じられる可能性が高い。代表的なのは「住宅・建築物の省エネ・創エネ」だろう。今次の計画策定過程でも、「どこまで掘り下げるべきか」が焦点になり、たとえば新築住宅への太陽光発電の設置義務化を見送る代わりに「2030年段階で新築戸建て住宅の6割に太陽光設置を目指す」ことが、ぎりぎりの時点で追加された。

今般の計画策定では、日本の住宅・建築物の「高気密・高断熱化」は欧米に比べて遅れているという事実が「錦の御旗」となり、「省エネ量」と「CO2排出削減量」を稼ぐ絶好のターゲットとなった。ただし既存物件には規制的手法を適用しにくいので、(人口減少社会化の進行により量的には減少するものの)新築物件で規制が加速化される可能性が高い。

もう一つ強化措置が講じられる分野が「地方自治体での取り組み」である。たとえば地域脱炭素の率先垂範の意味も込めて、2030年度には自治体が保有する建物や敷地で設置可能な場所の50%に太陽光発電の設置を求められている。また並行して地球温暖化対策推進法を改正し、地方自治体の実行計画を拡充して再エネ利用促進等の施策を明記することが促されたが、こうした措置の適用も、地域再エネ導入の進捗次第で強化の方向に向かう可能性も高い(明記に関して一般の市町村はまだ努力義務)。

キーワードは「太陽光」「住宅・建築物」「自治体」

この2つの事案だけからでも、地域の再エネ状況が大きく変化することが読み取れる。ましてや、今般の両計画が「再エネの最大限導入」を最優先にしており、かつ、実質的に稼働までの足が短い太陽光しか量的に稼げないことや、山を削るなどの開発行為を伴う太陽光設置にアゲインストの風が吹いていること等に鑑みれば、日本の地域(自治体)における温室効果ガス排出削減対策の主流は、当面、「太陽光」「住宅・建築物」「自治体」をキーワードにしたものになることだろう。

加えて、ここをベースにして地域外事業者による「太陽光発電の第三者所有モデル(TPO)」と「PPA(電力販売契約)」を組みあわせたビジネスモデルが急速に流れ込む可能性も高い。

第三者所有モデルは10年、20年といった長期の契約になるため、与信管理の観点から「誰でも、どこでもOK」というわけにはいかないが、自治体や新築の建て主は比較的リスクが低い。またPPA方式をとることで太陽光以外の電力の購入も期待できるので、「ただグリーン電力プランを提供するだけ」よりユーザーを長期安定して囲い込むことができ、自由競争下の電力小売プレーヤーにとって「魅力的なオプション」になる。

おそらく今後は、自治体に向けた「太陽光PPA合戦」が活発になるとともに、住宅ビルダーとタイアップした「太陽光PPA付き新築住宅」などが広がっていくだろう。

地域主導の再エネ地産地消事業が必要

ここで問題となるのは、自治体や地元企業などの地域のステークホルダーが進めたい地域脱炭素に有用な再エネ資源(太陽光)が早々に地域外に流出し、環境価値はおろか地域経済効果すら生まなくなることである。

というのも、日本の大半の自治体(市町村)は、地球温暖化対策としての地域脱炭素の意義は理解するものの(理解するからこそ、ゼロカーボンシティや気候非常事態宣言をする自治体が増えている)、実行にあたってはほぼ白紙状態に近いといっても過言ではないからである。

たとえば、ベッドタウン型都市や田園都市のように、再エネ導入といっても建物に載せる太陽光発電しか期待できない自治体地域では、地域最大の太陽光導入ポテンシャルを持つ自治体施設と太陽光自家使用の余剰分を地域内で消費できる新築住宅、加えて卒FIT太陽光は、「地域再エネの地産地消」を実現するための貴重なシーズであるので、これらの需要を失ってしまうことは地域の手による地域脱炭素の大きな制約となる。

このギャップを埋めるためには、自治体が中心になってまず「再エネの地産地消」を推進する計画を立て、他の政策より優先して実行に移す必要があるのだが、一般に自治体は総合計画や環境基本計画などの上位計画での落とし込み(お墨付き)」と「あらゆる方策に目配りされた(=網羅的な)計画策定」が先行していなくてはならず、かつ、地域で連携する企業・団体や市民の合意形成にも時間を要するため、「気がつけば、自分たちの手でゼロカーボンシティを実現する有効な手立てがない」という状況になりかねない(表1参照)。

表1.地球温暖化対策実行計画の事務事業編までしか策定していない自治体が、「再エネの地産地消事業計画」にたどりつくための壁(筆者作成)

内 容
「再エネの地産地消事業計画」の必要性が、上位計画(総合計画、環境基本計画等)に落とし込まれていること(お墨付き)が必要。
改正地球温暖化対策推進法に基づき策定が努力義務となった実行計画の区域政策編に相当する「網羅的な計画」がまず作られ、その一部として「再エネの地産地消事業計画」が含まれていることが必要。
「再エネの地産地消事業計画」を検討するためには、自治体内関係者がその要件をよく理解することが必要だが、現実問題として自力では(=外部からのサポートがないと)難しい場合が多い。
また、その自治体内関係者が、地域のステークホルダーに「再エネの地産地消事業計画」の必要性を訴えたり、検討体制をセットアップすることも容易ではない。
※ただし、ここについては自治体職員向けの実践的な支援ツールも用意されている。
「地域の再エネ導入の推進に向けた地域新電力の役割・意義と設立時の留意事項について」
2021年3月 株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門
http://www.env.go.jp/policy/local_re/renewable_energy/ryuuijikou.pdf

ちなみに、筆者は今、あるゼロカーボンシティ宣言市において、「地域再エネの地産地消事業体(環境省流に言えば、地域脱炭素化推進事業体)」の設立検討のお手伝いをしているが、首都圏近郊の立地ゆえ、まさに上述した懸念が現実になるポテンシャルを有している。

これから時間が経過するにつれ、あるいは気候危機を感じさせる異常気象に直面するにつれ、地域全体での温暖化対策の必要性に駆り立てられる自治体が増えることだろうが、残念ながら、それをリードすべき地域脱炭素ロードマップは、「先行モデルづくり→脱炭素ドミノ」に重点がおかれており、ここ(はじめの一歩)を支援する政策装置として十分ではない。

少なくとも、地域脱炭素政策の中で最も温暖化ガス排出削減効果が高い「地域再エネの地産地消事業」については、全自治体を対象にした「重点支援方法」を講じるべきだと考える。

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。

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