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太陽光発電の推進にあたる地方自治体の取組み:桃園市を事例に

太陽光発電の推進にあたる地方自治体の取組み:台湾桃園市を事例に

2020年12月10日

非核家園、永続台湾

前回の連載では、台湾全体のエネルギー転換政策、脱炭素化の柱となる太陽光発電の政府目標、現状及び課題について紹介した。今回から複数回にわたり、太陽光発電の拡大における地方自治体の取組みとその役割、課題などを紹介する。まずは台湾最大の工業都市であり、近年の人口増加を受け都市部の拡大が続く桃園(Taoyuan)市について、太陽光発電の現状と今後の展望を、JETRO・アジア経済研究所研究員で東アジアのエネルギー問題の専門家、台湾在住の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏が具体的な事例をもとに紹介する。

太陽光発電が世界的トレンドに

2019年、国際エネルギー機関(IEA)は『再生可能エネルギーにおける市場分析と予測 Renewable 2019: Market Analysis and Forecast from 2019 to 2024,』と題する報告書を発表した。

この報告書において注目すべき予測が二つある。一つは世界の総発電容量に占める再生可能エネルギーの割合が、2019年の24%から2024年には30%に拡大し、この30%のうち60%を太陽光発電が占めること。

二つ目は、2019年~2024年の5年間で世界の再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光、バイオ)の合計発電設備容量が50~60%以上の成長を遂げ、現在の米国の国内総発電規模に相当する1,200 GWまで増加することである。

この予測の背景には、各国政府による奨励政策を受けて再生可能エネルギーの発電コストが下がり続けている現状がある。

太陽光発電コストの大半は土地の確保にあり、すでに土地や建物の屋上、耕作放棄地などを保有していればコスト面で非常に有利となる。

IEAの同報告書によると、2024年にはパネル購入費用が更に下落し、太陽光発電施設の建設コストが現在より15~35%程度低くなり、国や地域によっては太陽光発電コストが電力小売価格より低い水準に達するとの予測が立てられている。

とりわけ、2024年には住宅や工場、商業施設の屋上や敷地を利用した「分散型」太陽光発電施設が太陽光発電市場全体の成長の半分を占め、中でも新規設置容量の75%が商業・産業施設での設置で住宅用を上回る見込みとなっている。

一方、最新のIEA「世界エネルギー展望(World Energy Outlook 2020)」では、今年2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、一年間の化石燃料使用量が石油で8%、石炭で7%減少するなどして全体のエネルギー需要は約5%も蒸発し、今後世界のエネルギー市場が再構築されると分析している。

その上で同報告書では今後、再生可能エネルギーが主要な電力源の一つとして、より一層存在感を増すこと、中でも太陽光発電は各国に急速に浸透していくことでさらにコスト削減が進み、再生可能エネルギーの要になると分析している。

総合都市である桃園市の開発事例から見る、太陽光発電の成長と課題

桃園市は230万人の人口を有し、台湾最大の工業都市でありながら台湾最大の国際空港を有するなど交通の利便性も高く、人口は年々増加している(画像1)。桃園市政府は主要政策の一つにエネルギー転換を掲げており、2014年に5.5MWほどしかなかった太陽光発電容量を、2018年までの5年間で123MW程度と約22倍に拡大させた。

画像1 桃園市の所在位置

出典:著者作成。

更に2018年、桃園市政府は市政府直轄の組織「グリーン・エネルギー推進室」を設置した。

この組織は、2021年までに太陽光発電を150MW程度増やし、風力、水力と併せて再生可能エネルギーの合計設備容量を850MWにする目標の下、再生可能エネルギーの事業推進と利害関係者間の調整にあたっている。

この目標達成のため、桃園市政府は「再生エネルギー発電設備設置と管理に関する取決め」もしくは「電業法」等に基づき、太陽光発電については下記のうち3つのタイプを優先的に拡大することにしている。

出所:筆者作成。

一つ目は陸上タイプの地面型である(表1)。桃園市では、閉鎖中の埋立地に合計3MWの地面型太陽光発電の設置を進めるなど、工場や商業施設以外にも埋立地や墓地といった市の所有地を太陽光発電に利用する検討を行っている。
地面型は屋上型とは異なり、太陽光発電施設の設置に関して「非都市土地利用管理に関する規則」や「都市計画法」等の関連法規による規制がかけられており、土地の用途区分によっては利用制限を受けたり、設置料金の支払いが必要となったりする場合もある。

二つ目は陸上タイプの屋上型である。桃園市には集合住宅だけでなく大型の製造工場も多く(写真1)、産業用をはじめとする大手電力ユーザーが全国で最多であることから、官民共同で屋上型発電設備を積極的に推進し、発電規模の拡大を目指している。

写真1 桃園市にあるサイエンスパーク内工場の屋上型太陽光発電施設

出典:桃園市政府。

屋上型はふたつのアプローチで

桃園市の屋上型推進政策では二通りのアプローチがとられている。一つは「再生可能エネルギー開発条例(再生能源發展條例)」に基づき、契約電力量が5MWを超える大口ユーザーは、一定の容量を持つ再生可能エネルギー発電設備の設置などが全国共通で義務付けられていることである。

またもう一つは、契約電力量に依らず小中高学校、公的機関、官舎、一般住宅などの屋上や敷地に太陽光パネルを設置するよう推奨していることである(写真2)。桃園市政府が屋上スペースの提供者にパネル設置・運営業者を紹介し、スペース提供者と業者の間で契約が成立すると、所定の買取価格にて作られた電気を国営の台湾電力会社が買い取り、スペース提供者は売電額の10.5%を毎月受け取るというシステムになっている。

写真2 桃園市にある小学校の屋上型太陽光発電施設

出典:桃園市政府。

水上タイプは推進が慎重になってきた

三つ目は水上タイプである。桃園市内には灌漑、養殖目的のため池(「埤塘」という)が数多く存在することから、市は環境面、生態面などに配慮しつつ、太陽光発電の拡大を目指すための施策として「埤塘光電」(写真3)を推進してきた。これは、民間に一定の条件のもとパネル設置を促すことを目的としている。

その条件は(1)都市開発計画地、重要な湿地、私有地等にあるため池を除き、(2)灌漑、蓄水、環境保護等の目的を阻害せず、(3)満水水位時の50%以内の面積、である。

これまでに桃園市内の8ヶ所で合計29.6MWの設置容量が許可されてきたが、この桃園市肝入りの水上タイプ太陽光発電は生態環境へのインパクトなどに多くの懸念が持たれており、メディアにも取り上げられるようになったことで市は慎重姿勢に転じている。

写真3「桃園農業博覧会」の会場内に位置するため池の水上型太陽光発電施設

出典:著者撮影。

水上タイプに対する諸懸念と主な対応策

陸上タイプの地面型は、特に一般の参入者にとっては土地の使用に関する規制が障壁となる。ただ、市の所有地への設置に関して規制緩和が検討されていることから、法令違反や環境被害などの懸念は少ない。

屋上型は生態、環境へのインパクトなどの懸念が少なく、土地の用途地域区分などに関する規制の対象外であるというメリットがあるが、違法建築物への設置という課題がある。

一方、水上タイプは、ため池に関する生態環境、景観、水質保全、養殖業に対する懸念が払拭されておらず、開発が滞っている。

現在進行中の対策の一つとして、市では周辺住民の理解を得るため、開発・施工業者に対し、太陽光発電設備の管理対策と設備の安全性を強化するよう要請している。例えば、利害関係者によるワークショップを定期的に開催し、例えば野鳥の会や養殖業者等、各分野の専門家を巻き込んで今後の推進方法と審査手続きなどを議論している。

前回も言及したが、太陽光発電の開発に関する環境アセスメントの義務が生じるのは、(1)国が定める重要な湿地に、(2)設置容量が2MW以上の設備を設置する場合に限られるため、現在台湾にあるほとんどの太陽光発電施設は、環境アセスメントを受けずに作られてきた。実際、桃園市以外にも太陽光発電の開発案件をめぐってデモや衝突事案が発生しており、統一された基準の適用など、早急な対応が求められている。

桃園市の取組みから見えた地方自治体の役割

桃園市の事例からは、政府のエネルギー転換政策において地方自治体が重要な役割を担っており、またそれゆえに重い課題も抱えていることが窺える。

国策であるエネルギー転換政策を推進するため、法律の改正などにより地方自治体にはいくつかの権限が委ねられるようになっている。

これは例えば、推進のための専門オフィスの設置、開発ポテンシャルの調査と評価、推進目標の設定と計画の作成、利害関係者間の協調とコミュニケーションなど多岐にわたり、自治体の負担は決して軽くない。中でも発電事業者、住民、産業団体、メディアなど利害関係者とのコミュニケーションには多くのリソースを必要とするようである。

実際、桃園市のように積極的に関与する自治体は限られており、その限られた自治体もそれぞれ課題に直面している。こうした状況は洋上風力発電においても見られており、エネルギー転換政策における地方自治体の役割については、今一度見直していく必要がありそうである。

太陽光発電の爆発的な成長の影で何が起きているのか

今回は、台湾最大級の工業かつ商業都市である桃園市を事例として、太陽光発電の推進状況と課題、そして自治体の果たしうる役割に焦点を当てた。特に注目すべきなのは、太陽光発電の爆発的な成長が予測されていることから、環境、生態、社会面では負の影響が出始めており、利害関係者間の緊張関係も生み出していることである。これに関する具体的状況と対策については、今後の連載にてさらに詳細に説明していく。

 
(写真:中村加代子)
鄭方婷
鄭方婷

国立台湾大学政治学部卒業。東京大学博士学位取得(法学・学術)。東京大学東洋文化研究所研究補佐を経てJETRO・アジア経済研究所。現在は国立台湾大学にて客員研究員として海外駐在している。主な著書に「重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ」(現代図書)「The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation,」(Springer)など。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/cheng_fangting.html

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