2050年のカーボンニュートラルの実現にあたっては、多くの産業が業態の見直しを迫られているといってもいいだろう。労働組合としては、労働者の権利を守りつつ、気候変動問題に取り組むことになる。それぞれの労組がどのように考え、取り組もうとしているのか。シリーズの第1回は、全国労働組合総連合(全労連)の、竹下武常任幹事と黒澤幸一事務局長にお話しをおうかがいした。全労連は、今年5月に東日本大震災・福島第一原発事故から10年を迎え、「原発に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」を基本理念として再生可能エネルギーによる新たな社会づくりを推進している。
―まず始めに、政府の気候変動対策、2050年カーボンニュートラル宣言への評価をお聞かせください。
竹下武氏:日本政府がようやくパリ協定に基づく温室効果ガスの低排出型の発展のための長期的な目標を掲げたことは、スローガンとして賛同しています。しかし、日本政府の方針が深刻な気候危機回避に貢献するものと評価されるためには、日本のエネルギー政策をどう転換していくのか、という中身が非常に重要だと思います。
竹下氏
まず、我々は原発廃止と原発依存からの脱却、再生可能エネルギー(再エネ)を中心としたエネルギー政策への転換が急務だと考えています。
原発依存からの脱却を求める多くの人たちの声をうけ、2018年3月9日には原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案(原発ゼロ基本法案)が、当時の立憲民主党・日本共産党・社会民主党・自由党および、無所属の有志議員によって衆議院に提出されました。
また、組合としても原発ゼロに向けての取り組みを進める「原発をなくす全国連絡会」を諸団体と立ち上げ、「原発とゼロ基本方の制定を求める国会請願署名」の活動を通常国会でやってきました。しかし、基本法案はいまだ審議すらされないまま、衆議院の解散により廃案になりました。
国民合意が形成されずに経済産業委員会で3年近くもたなざらしのまま今日に至ってしまっている点は我々としても問題視しています。
―その一方で、先ごろ閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、原子力が一定の役割を果たすことになっています。
今回の「エネルギー基本計画」の一番の問題は、2050年の電力需要を100%再エネで賄うことは困難であると示した上で、原子力を地球温暖対策として「確立した脱炭素技術」と位置付けた点にあると思います。政府は「依存度を低減しつつも最大限活用」し、再稼働を進めるとともに次世代炉の開発も行うとしています。
エネルギー基本計画案では、「2030年までに温室効果ガスを46%削減」という新しい目標に整合するとともに2050年にカーボンニュートラルを実現する道筋を明らかにすることが求められています。しかし、示された計画案では、2030年度の再エネの電源構成比率を14ポイント引き上げて36~38%とし、原子力の比率を20~22%に据え置きとしました。
しかし現在再稼働している原発は10基、構成比は5%にとどまっており、目標達成のためには未稼働の17基を加えた27基を稼働させる必要があります。つまり、原子力を20%以上とすることは、依存度を低減することにもならないのです。
国民の圧倒的多数が原発再稼働について慎重論、もしくは反対論がある中で原発に固執するというのは、福島第一原発事故を起こしたことに対しての責任や反省が見られない・・・このことが基本計画の問題だと考えています。
―原子力については、「新増設」だけではなく、「再稼働」にも反対、というスタンスでしょうか。
竹下氏:例えば、原発事故時の避難計画に実効性を持たせることは難しいと考えています。しかし、原子力規制委員会による適合性審査においても、避難計画の具体的内容の策定は含まれていません。したがって、再稼働についても反対です。
南海トラフを震源とする大地震が30年以内にやってくるとされている中で、原発の安全性は確保されていないというのが現状です。原発の耐震性は、一般的な住宅と異なり、桁違いに高い耐震性が要求されるはずですが、その要件を満たして建設されているとは言い難いのではないでしょうか。
実際に、いつ、どのくらいの大きさの地震がくるのかは、予測しきれません。福島第一原発事故が、地震の規模の予想ができなかったから起こったということも事実です。なので、原発をゼロにすることが、福島第一原発事故の教訓を生かすことになるのだと考えています。法案を支持して再生可能エネルギーの転換を図る、という立場でいます。
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