三菱重工業や神戸製鋼所、JERAやJパワーの分析で語った石炭火力を含む、脱火力発電所問題は深刻です。火力発電所をすぐになくすことも、使い続けることも、現実的ではありません。どのようにすればいいのでしょうか。YouTube番組「エナシフTV」のコメンテーターをつとめるもとさんがお話しします。
エナシフTVスタジオから(8)
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今、火力発電がこの先どうなるのか、多くの人が関心を持っています。
現在、日本の発電電力量のほとんどは火力発電によるものですが、2050年にはカーボンゼロ、すなわち化石燃料による火力発電は実質ゼロにしていくということだからです。
とはいえ、火力発電がなくても大丈夫なのか? という疑問を持つ方もいるでしょうし、逆にすぐにでも無くした方がいいと考えている方もいると思います。
エナシフTVでも、多くの企業の分析にあたって、石炭火力発電には将来はないと伝えてきました。とはいえ、すぐになくすべきということではありません。
次の図は、2020年と2030年の発電電力量の構成を示したものです。
2020年の数値は、電力広域的運営推進機関という、いわば電力供給をとりまとめている機関が発行した、2021年度の電力供給計画を参考に作成したものです。火力発電だけで70%を超えていることがわかります。
一方、2030年は、現在素案が出ている第6次エネルギー基本計画における数字です。9年後の電源構成は、このような数字を目指していく、ということです。また、そのために政府はさまざまな政策を動員していくということです。火力発電は40%程度にまで縮小しています。つまり、これから9年間の間に、火力発電はどんどん減っていくということなのです。
2020年と2030年の電源構成(電力量)
火力発電には、燃料種別に、石油火力、石炭火力、LNG火力があります。でも、違いは燃料だけではありません。使い方にも違いがあります。
まず、石油火力ですが、これは電力需給がひっ迫したときのための発電所として運用されています。そもそも、石油火力は1970年代の石油ショック以降、新たに建設しないというのが、国際的な合意ともなっており、現在残っている石油火力はいずれも古い発電所ばかりです。こうした発電所が、例えば夏の猛暑1週間だけ運転される、といったことが行われてきました。
石炭火力は、燃料代が安いことと、急激な立ち上げや停止が難しい事から、24時間運転を基本として運用されています。IGCC(石炭ガス化複合発電)という最先端の技術による発電所を除けば、ボイラでお湯を沸かして蒸気タービンで発電する方式です。効率の良いボイラ(例えば超々臨界圧ボイラ)などの開発で、発電効率を上昇させてきましたが、それでも40%程度。つまり石炭の持つエネルギーの40%までしか電気にできていないということです。その一方で、発電電力量あたりのCO2排出量が多いのです。
LNG火力は、日本では燃料代はやや高いのですが、急激な立ち上げや停止をしやすい発電所もあり、24時間運転する発電所だけではなく、必要な時間帯だけ運転する発電所もあります。主流はガス複合発電というしくみで、天然ガスを直接燃やすガスタービンと余った熱でお湯を沸かして回転させる蒸気タービンの2つを組み合わせたものです。発電効率は60%近いものもあります。また、発電電力量あたりのCO2排出量が少ないことも魅力です。
再生可能エネルギーの拡大とCO2排出削減を実現させていくためには、この3種類の発電所を、どのように運転し、どのように廃止していくのか、そのことを適切に考えていく必要があります。なぜなら、それぞれの発電所は、CO2排出量も運転のしかたも異なっているからです。非効率石炭火力をなくせばいいという単純な話ではありません。
これから再生可能エネルギーの発電所が主力化していくにしたがって、火力発電所の運転時間は減少し、廃止・停止も進んでいくことでしょう。
とはいえ、火力発電所がすぐに不要になるわけではありません。24時間運転するということではなく、必要なときに運転し、いつもはそのための準備をしておく、ということになります。野球でいえば、ベテラン選手が若手にレギュラーを譲る一方で、代打の切り札や試合を立て直すセットアッパーとして活躍する、というイメージでしょう。
再生可能エネルギーのうちでも、太陽光発電は日中にしか発電しませんし、風力発電は風がなければ発電しません。蓄電池や揚水式水力発電である程度までカバーしますが、揚水式水力は今後増やす予定はありませんし、蓄電池がコストダウンしていくにはまだ時間がかかりそうです。
実際に、出力の調整がしやすいLNG火力については、太陽光発電の増加にしたがって、運転する時間が減少しており、今後も減少していく傾向です。現在は50%近い設備利用率が、2030年には35%になると予測されています。
一方、出力の調整がしにくい石炭火力については、65%程度の設備利用率が続く見込みです。CO2排出量の多い石炭火力の設備利用率が下がらないというのは、課題の1つだといえます。
確かに燃料代が安いので、長時間運転したいと、発電事業者は考えるのかもしれません。しかしここは考えるところです。出力調整が難しい石炭火力が多いと、出力が変動する太陽光や風力を増やしにくくなります。電気が余るときには、石炭火力を減らすのではなく太陽光の電気を減らすことになってしまうからです。石炭火力はそろそろ代打の切り札になってもらう時期が近付いていると思います。
火力発電はこれから減少していくことになりますが、不要というわけではありません。電気を安定供給していくためには、大きな役割があります。
LNG火力は、変動する太陽光や風力の電気を補完するために運転していくことになるでしょう。
一方、石炭火力については、数日単位での電気の不足に備える電源になっていくべきではないでしょうか。24時間安定して運転される発電所は、長期的には洋上風力にとってかわると考えられます。例えば、風があまり吹かない冬の時期は、どうしても再生可能エネルギーだけでは不足します。とはいえ、LNGは保存がきかない燃料なので、調達には時間がかかります。そうしたときに、石炭火力が活躍することになるでしょう。その一方で、出力の調整しやすいLNG火力を優先して運転することで、石炭火力の運転を全体的に抑制することができます。
2030年には1%と見込まれているアンモニアと水素ですが、これが火力の新たな燃料になっていくことも期待されています。LNGにとってかわるのが水素、石炭にとってかわるのがアンモニアだと考えられます。
いずれも、燃やしてもCO2が排出されませんが、高価な燃料になることが予想されます。その意味でも、主力ではなく、電気の供給を安定させるための代打の切り札という存在になるでしょう。
火力を減らし、再エネを主力化していくにあたって、さまざまな問題があります。廃止・停止する火力はともかくとして、設備利用率が低下する火力は、発電する電気が少なくなる分、収益が悪化するということです。
実は、2016年の電力小売り全面自由化以降、電力需要が増えたときのために残しておいた、古い石油火力やLNG火力の廃止が進んでいます。こうした傾向が続くと、猛暑や厳寒期に電力需要が増えたときに、十分な電気が供給できなくなる可能性が高まります。実際に、2020年から2021年にかけての冬は、電力の予備率(余裕となる分)が不足しました。
自由化前であれば、古い火力を維持していても、そのコストは電気料金の原価として算入できたのですが、現在は価格競争に対応するため、コストがかかる設備は廃止されているのです。
こうした問題を回避するため、容量市場というしくみが取り入れられましたが、必ずしも十分な制度とはなっていません。
一方、先程も述べたように、石炭火力が24時間運転をしていると、再エネの電気を増やすことに対して障害となります。とはいえ、そのかわりに燃料代の高いLNG火力を運転すると、発電コスト全体が上昇することになります。
では、どうすればいいのでしょうか。
LNG火力については、出力の調整がしやすいので、その調整力に対してみんなでお金を払うしくみが必要かもしれません。現在、需給調整市場というしくみが導入されています。
数日単位での電力の不足に対して、ドイツでは戦略的予備力というしくみを導入しました。発電効率の悪い褐炭火力と契約し、褐炭火力はどうしても必要なときにだけ運転するということです。
石炭火力に対しても、容量市場ではなく、こうしたしくみが適しているのではないでしょうか。もちろんその費用は、電気代の一部として、みんなで払うことになります。その上で、それぞれの燃料が長期的に、水素やアンモニアにとってかわっていけばいいと思います。
とはいえ、こうした問題を抱えているのは、日本だけではありません。世界中の電力会社がカーボンニュートラルを目指して、どのような電力システムがいいのか、試行錯誤を繰り返しています。火力発電をどのように運転し、あるいはいつ廃止していくのかも、そうした取組みの1つとなっています。
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