日本も例外ではない 今こそ考えるべき気候変動で変革を迫られる農業と食糧安全保障 COP26を総括する(5) | EnergyShift

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日本も例外ではない 今こそ考えるべき気候変動で変革を迫られる農業と食糧安全保障 COP26を総括する(5)

農業への再エネ利用の拡大を

11月4日のイベントでは、農業における再生可能エネルギーへのアクセスがテーマとなった。

FAOと国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、食糧システムから化石燃料を切り離し、食糧安全保障と気候変動の対策を行っていくために協力しており、COP26の直前にはこれをテーマとしたレポートを公表している。

イベントでこのレポートを報告した、FAOのイリニ・マルトツォルゴー氏によると、食糧供給のバリューチェーンにおいて、どのような再生可能エネルギーを利用できるのかを調査したという。再エネの用途は灌漑や冷蔵など多岐にわたるほか、持続可能なバイオエネルギーについても検討している。

具体的な事例としては、例えば、ケニアの企業サンカルチャーのCEOであるサミール・イブラヒム氏によると、太陽光発電によるウォーターポンプを利用した灌漑を世界に提供するのはわずか130億ドルであるという。これに対し、インドでは実際に太陽光灌漑によって、水へのアクセスが改善し、農民の収入が50%改善したという。またルワンダでは小規模農家の収穫量が3分の1増加したとのことだ。

インドの企業グラムオージャの共同創設者であるアンシュマン・ラス氏は、遠隔地でマイクログリッドを利用して電化し、同時に太陽熱温水の利用を促進するプロジェクトが成功したことを報告した。

一方、再エネと競合する軽油をいかに減らしていくかも課題となる。

食品の生産、流通、消費は、世界のエネルギーの約3分の1を占めており、GHGの排出量も同様に3分の1だ。こうした点からも、農業を含め、食糧の供給の脱化石燃料と持続可能な農業による食糧安全保障は、今後はより重要なテーマとして、気候変動問題の国際交渉の主要なテーマとなっていきそうだ。

持続可能な畜産業は可能か

同じ11月4日は、酪農をテーマとしたイベントも開催された。

酪農家は地球の陸地の約20%を管理する一方、GHGの排出量も多いということだ。そのため、どうすれば酪農が食糧を供給し続け、酪農家の生活を確保し、GHG排出を削減できるのかは、大きな課題となっている。そのため、例えばウルグアイの蓄農水産大臣であるフェルナンド・マットス氏は、ウルグアイが2030年までに森林破壊を終わらせ、メタン排出量を30%削減するという枠組みへの参加に言及している。

具体的な方策としては、飼料の変更、腸内発酵や肥料などへの対策について述べられた他、今後の技術開発が期待されるということだ。人類が持続可能な乳製品を利用していくためには、まだまだ課題が多いというのが現状である。

投資家と先進国大手食品・外食産業のカーボンゼロ

農業におけるカーボンニュートラルは、途上国だけの問題ではない。11月8日のイベントのテーマは、「農業と土地利用」だが、そこでは投資家からの発言が注目された。

農業の気候変動に関連するリスクに焦点をあてた投資家ネットワークであるFAIRRのマリア・レッティーニ氏は、大企業においてはスコープ3のGHG排出量が大部分を占めることを指摘した上で、いくつかの大手ファーストフードチェーンがSBT(科学に基づく目標)によるネットゼロを発表したことを紹介した。また、世界ビジネス評議会のトニー・シアントナス氏は、大企業に対して気候変動に配慮した農業に投資するためのロードマップを要求した。

途上国への持続可能な農業への投資は、食糧のサプライチェーンを通じて、先進国の大企業にもかかわってくる問題だということだ。

翌11月9日には、気候変動に強い農業がテーマとなった。ここでは、現在の食糧供給のシステムでは飢餓と貧困を根絶できない事が強調され、栽培、保管、輸送、販売、消費を含めたシステムの再構成が必要とされた。とりわけ、土壌の回復は炭素の貯留などにおいても重要だが、時間と労力がかかることから、支援が必要であることが指摘された。

また、これは別のサイドイベントでのことだが、工業型農業に有利な権力構造の転換を求め、地域の食糧システムの促進などを求める発言もなされている。

11月11日まで、イベントの開催が続いたが、全体を通して指摘されることは、

  1. 全世界34億人におよぶ小規模農業の従事者が気候変動に脆弱であると同時に、再エネの活用を含めた持続可能な農業にしていくことで、適応と緩和が可能であること。
  2. 持続可能な食糧供給システムには変革が必要であり、そのための技術供与と投資が必要だが、とりわけ途上国の小規模農家への資金提供が不足していること。
  3. 先進国の大企業も、食糧のバリューチェーンを担う上で、持続可能な農業へのコミットメントが求められると同時に、投資家もまたその点を評価しようとしていること。

の3点に要約できるだろう。

連日のように開催された、FAOによるサイドイベントだが、こうした議論を通じて感じられることは、コロニビア共同作業で進められる気候変動と農業に関する取組みという課題が、今後の国際交渉において、重要なテーマとなっていくということだ。

サバクトビバッタ危機は繰り返すか

COP26のサイドイベントで、農業に関連するものとしては、11月6日に開催された「サバクトビバッタ危機」をテーマにしたものもある。

2019年にアフリカ北東部でサバクトビバッタが急増し、農業に甚大な影響を与えただけではなく、バッタの越境により被害が拡大し、現在もなお危機は継続している。

サバクトビバッタ危機の背景には、気候変動問題が指摘される一方で、安易な農薬などによる解決は人間の健康と生物多様性に害を及ぼす可能性が指摘される。こうした問題についても、地域レベルの取組みが不可欠となってくる。

サバクトビバッタ危機は、気候変動問題を含めた地球環境問題と食糧供給システムにおける問題について、強く可視化された事例だといえるだろう。こうした危機は日本にとって遠い話ではないのではないだろうか。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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