2020年年末から続く寒波の影響で電力需要が大幅に増加し、電力需給がひっ迫している。大手電力各社は電力を融通しあい停電リスクを回避しているが、日本卸電力取引所(JEPX)価格は高騰し続け、1月13日受け渡し分の電力価格(全国24時間平均)は154.57円/kWhと過去最高値を更新した。新電力の経営にも大きな影響を及ぼし始めている。
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断続的な寒波の影響で想定以上に暖房などの電力需要が大幅に増加し、全国的に電力需給がひっ迫している。大手電力各社の電力需給状況は、2021年1月に入り、沖縄電力を除く9電力で90%超の状態が続いている。
東京電力パワーグリッドは、年明けから続く電力需要の増加を受け、LNG(液化天然ガス)火力発電所が計画を上回る稼働を継続し、燃料在庫が減少。持続的な供給力(発電電力量(kWh))が低下し、厳しい電力需給状況となっていることから、安定供給を確保するために1月3日、4日、そして7日、8日にわたって、北海道電力や東北電力、さらに中部電力や九州電力などから電力融通を受けている。
東京電力パワーグリッドプレスリリース 電力の需給状況と節電へのご協力のお願いについて(2回目)
電力の需給状況を監視、調整するOCCTO(電力広域的運営推進機関)は、電力不足に伴う停電を回避するため、1月6日に非常災害対応本部を立ち上げ、対応を急ぐ。
東京電力パワーグリッドや関西電力送配電などの一般送配電事業者に電力融通を指示。さらに6日夜から8日にかけ、供給力不足が継続的に発生している東京や関西エリアの発電事業者や小売電気事業者に対し、発電設備を最大出力で運転したうえで、発電余剰分をJEPX市場に投入するよう要請した。
最大出力での運転、および発電余剰分の市場投入は、沖縄を除く北海道、東北、北陸、中国、四国、九州へも拡大されていった。こうした要請はOCCTO設立以来、初めてである。
1月8日には、西日本を中心に全国7エリアで最大需要が10年に1度程度と想定される規模を上回ったため、OCCTOは、地域間連系線を使って送電できる容量を増やす緊急対応も実施。なんとか需給バランスを取っている状態だ。
OCCTO(電力広域的運営推進機関) 地域間連系線の運用容量拡大について(1月12日分)
3連休中の1月10日には、電気事業連合会が「電力の需給状況と節電へのご協力のお願いについて」と題したプレスリリースを発表した。
その中で、「天候不順や厳しい寒さは今後も続くことが予想され、太陽光発電からの発電量も多くは見込めない状況です。また、高経年化火力発電所の稼働に伴いトラブルが発生するリスクや、火力発電の発電量の増加に伴い発電用燃料の在庫が少なくなるリスクが高まっている状況です。特に3連休明けの12日は全国的に悪天候が見込まれており、電力需給がさらに悪化する可能性があります」とし、節電および電気の効率的な使用を訴えた。
その12日は、大方の予想通り寒波が続き、大手電力会社の供給予備率は、北海道電力で5%、東北電力8% 、東京電力7%、中部電力6%、北陸電力6%、関西電力4%、中国電力6%、四国電力3%、九州電力5%と、最低限必要とされる3%に近い水準にまで落ち込んでいる。
大手電力会社は、国内発電量の37%を占めるLNG火力で利用するLNGの在庫がショートするリスクを抱えており、発電を調整せざるをえず、需給ひっ迫は当面続くと見られている。
こうした状況下、Jパワーは12日、停止中だった長崎県西海市の松島石炭火力発電所を緊急的に再稼働させるという事態にまで発展している。
電力需給のひっ迫を受け、JEPXのスポット価格が高騰し続けている。
1月11日受け渡し分の電力価格(全国24時間平均)は117.39円/kWhをつけると、12日分は150.25円/kWhに上昇、13日分はシステムプライスが断続的に220円/kWhを超え、全国24時間平均の電力価格が154.57円/kWhとなり、過去最高値を更新している。
JEPX スポット市場 ─ 2021年1月13日受渡分の取引情報(1月12日22時キャプチャ)
電力市場の高騰は新電力の経営にも大きな影響を与え始めている。特にJEPXの市場価格に連動するFIT電気を調達する新電力は、対応に追われている。
ボーダレス・ジャパンが提供するハチドリ電力は、1月8日に「電力取引価格の高騰に関するお知らせと対応について」と題したプレスリリースを発表した。その中で、「2020年12月中旬まで10円/kWh前後であった電力卸売価格が急高騰し、例年と比べて約10倍近い異常な高値になっている」。
高騰した原因について、「国内発電量の大部分を占める火力発電所のLNG燃料が不足し、年末から一部の火力発電所が出力を制限しており、電気供給の絶対量が減少したことに加え、相次ぐ寒波による暖房需要の急増が重なり、電力取引価格の急激な価格高騰を引き起こしている」と推察。そのため、「FIT電気の調達価格も同じように高騰しており、今の調達価格そのままではお客様に請求する電気料金が2〜3倍、またはそれ以上となる可能性がある」という。
電気料金の上昇を回避するため、「今回の電力取引価格の異常高騰が収まるまでの間、ハチドリ電力が割引をする形で負担する」とし、その負担によって、月間数千万円の赤字が見込まれるという。
(2021年2月15日加筆
なお、ハチドリ電力は今回の電力卸取引価格の高騰を受け、2月3日より固定料金プランを新設。新設に伴い今までの市場連動型料金プランは、新規受付を停止した。
「持続可能な地球環境、より良い社会をつくる仲間になっていただいた皆さまに対して私たちにできる最良の選択肢を模索した結果、今回の固定料金プランを新設することにいたしました。皆さまが安心して自然エネルギーを安価にご利用いただけるよう、これからも最善を尽くしてまいります」とコメントしている。)
FIT電気を提供する自然電力も、「電気料金が平均で2〜3倍、状況によってはそれ以上になる可能性がある」と発表。さらに「専門家へのヒアリング等の情報では1月中は現状(市場価格の高騰)が継続する可能性が高く、来月2月以降も、予断を許さない状況が続く」と推測する。
自然電力は、ユーザー救済措置として、居住エリアにある大手電力会社の電気料金を基準として、それを超える分の電気料金に対し、30,000円を上限として電気料金を値引きすることを発表(1月と2月請求分の値引き合計が最大30,000円)したが、経営への影響は避けられないだろう。
自然電力 明日のでんき速報 2021年1月13日(1月12日22時キャプチャ)最大で306.65円/kWhをつけている
電力コストを6ヶ月平均で調整する「電力コスト調整単価」という仕組みを採用する、みんな電力は電気料金が急激に高騰することはないが、「FIT電気の仕入れ価格の上昇分が2021年2月以降の電気料金に反映される」と呼びかけている。
上昇分は、東京電力エリアで使用電力量300kWh/月の場合、2021年1月の電気料金と比べ、660円増になるとシミュレーションしている。
みんな電力は「JEPXの価格変動に影響を受けない非FITの再エネ電源比率を高められるよう、非FIT電源の調達に注力していく」とするが、非FIT電源の調達拡大にはある程度の時間がかかる模様で、短期的には不透明な状況が続く。
一方、Looopは新電力事業に関して、事業譲渡や事業継続を検討している事業者向けに、事業継続に向けた相談窓口を設置した。今のところ、市場価格の高騰は止まる気配がない。この状態が続けば、多くの新電力に大きな影響を与え、撤退に追い込まれる企業が続出することになるだろう。
(Text:藤村朋弘)
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参照
東京電力パワーグリッド プレスリリース
OCCTO(電力広域的運営推進機関)「今冬の電力需給ひっ迫時の広域機関の対応」
電気事業連合会
JEPX 取引情報
ハチドリ電力「電力取引価格の高騰に関するお知らせと対応について」
自然電力グループ「日本卸電力取引所(JEPX)電力取引価格高騰に関する重要なお知らせ」
みんな電力「卸電力市場の価格高騰に伴う2月以降の電気料金への影響と対応につきまして(個人・法人低圧契約のお客さま※)」
Looop「新電力小売事業の事業継続に関わるご相談窓口を設置」
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