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RE100のメカニズムを日本に広げるには

RE100のメカニズムを日本に広げるには

RE100には現在191の企業が加盟*。これからも加盟企業は増え続けると思われる。日本でも加盟は続々と決まっている。

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP:Japan Climate Leaders' Partnership)の松尾雄介エグゼクティブ・ディレクターは、「RE100は達成を競うものではなく、マーケットへ需要シグナルを届けることが真の目的」と語る。
さらに、日本の特性に合わせた「RE Action」を設立。大企業だけではなく、自治体や医療機関、RE100には加盟できない中小企業まで、全ての需要家とともに活動を広げていきたいと語る。その狙いは、やはりマーケットと投資拡大にある。

*2019年8月現在

日本の再エネのボリュームゾーンは高圧&低圧

日本の電力消費シェアを見ると、電力を多く消費する大企業などの需要家(特別高圧)が約3割、一般家庭の電灯が約2割、残りの約5割は中小企業や病院、学校などの高圧、低圧が占めています。

例えば、大手電力会社から電気を買うとして、特別高圧の人たちは12円/kWhくらいで買っているわけです。一方、一般家庭は約22〜24円/kWhになります。基本的には規模が小さくなればなるほど、単価が高くなっていきます。

今、FITの入札の最安価格が14.24円/kWh(2018年12月時点)であるため、14円以下で買っている特別高圧の人たちにとって、値ごろな再エネを調達するにはまだハードルがあります。一方、特別高圧より規模が小さい高圧や低圧の中小規模需要家の中には、15円~20円近くで電気を買っている人もいるわけです。それらの需要家は、自家消費型の太陽光発電であれば、現在の電気代よりも安くなる形で再エネ転換ができる可能性が高いです。また、自家消費型が設置できないケースでも、大企業に比べると、再エネに転換する際の「スイッチングコスト」が格段に低いのです。

すなわち、電力シェア5割の高圧や低圧が日本の再エネのボリュームゾーンになるわけです。高圧・低圧の1割、2割の人たちが、再エネに転換すると宣言をすることで電気代が安くなるかもしれない。経済合理的な中で、比較的容易に再エネシフトができるわけです。

ただ、短期的には自家消費型の太陽光を設置できる企業ばかりではないですし、設置できても、全需要をカバーできないかもしれません。また、自家消費型以外の再エネだと、現時点では必ずしも電気代が安くならないかもしれません。

よって、本当に重要なのは、RE Actionに参加いただき、「再エネを購入します」という声を集め、可視化することです。高圧・低圧を中心とした中小規模の需要家が集い、再エネ100%宣言をマーケットに届けることは、再エネ供給事業者への強力なシグナルとなり、再エネの更なる価格低下に繋がります。

この、中小需要家向けのRE Actionですが、既に100件近くから参加したいという声をいただいています。我々では、数年で数千~1万件ぐらいには伸びるのではと見ています。全体の中小企業の数から見れば微々たるものですが、RE100を宣言した大企業と連携すれば、強力なシグナルとなり、好循環のメカニズムが働くと思っています。

日本全体を動かすためには、再エネの価格は普通の電力より安い(又は同等)という構図が必要です。そこにたどり着くためのメカニズムをつくるために「RE Action」という器をつくり、まずは100社、500社のイノベーターたちに集まってもらう。イノベーターたちによって、RE100でつくろうとしているメカニズムがよりパワーアップするわけです。

気候変動の脅威がまだ浸透していない日本

脱炭素化とは、数十年かけて、社会のインフラを全て脱炭素型に作り替えることであり、その際には制度や企業経営まで大きく変わります。また、気候変動とは、食糧難や移民・難民の増加、健康被害、貧困、そして内戦・紛争の原因となり、人類の存続を脅かすものです。気候変動の脅威に立ち向かい、気温上昇を2℃未満に抑えるために何ができるか。もはや小手先の問題ではなく、政治・政策、社会全体のインフラを変えなければいけない。だから、スウェーデン人の16歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんは、学校をストライキしてまで、国会議事堂へ行き、それに100万人を優に超える児童・生徒が合流しているのです。

日本では、まだこの気候変動の脅威や、脱炭素化に求められる転換の規模感の認知が十分でないと思います。 私自身、1997年に採択された京都議定書の時代から、気候変動問題に携わってきましたが、環境・エコ教育など、手を変え、品を変え、日本は取り組んできましたが、残念ながら、再エネをはじめ、日本社会は未だ脱炭素に向かっていない。これがファクトだと思います。

また、日本では地球温暖化というと、すぐに個人の意識の問題と捉えがちです。少し調べると、こまめに電気を消す、クールビズにするなどだけではスピード感も、規模感もまったく追いつかないことがわかります。危機を乗り越えるためには、少なくとも電力はすべてCO2を排出しない再エネに転換しなければいけない。

国民的な環境意識の変化がなければ、政治や政策は変わりません。しかし、私自身、自省を込めていうと、日本は意識だけですべてを解決しようとしすぎなんだと思います。

私自身を含め、多くの市民は、日々様々な苦労や悩みを抱えて暮らしています。また、買い物一つとっても、個人の好み、家族の健康、価格など、様々な要素を考慮して、多くの「選択・決定」をしているわけです。そのような状況で、すべての国民に「すべての商品の環境性能を評価し、適切な買い物を」、「環境に配慮した行動を」といっても、極めて難しいことです。

普通に、善良に暮らしている方が、普通に暮らすと脱炭素のライフスタイルになる、そういう社会をつくらなければ、脱炭素化はできないと思っています。そういう社会に向かっていくためのメカニズムとしてRE100やRE Action を行なっているわけです。

メディアが報道しないカーボンバジェット

最後になりますが、日本であまり報道されないのがカーボンバジェットで、これが気候変動のリスクとチャンスを理解する上でのカギです。JCLPも、RE100も、その行動の根底には、このカーボンバジェットの考え方があります。

パリ協定では、産業革命前(1850年)からの気温上昇を2℃未満に抑えることに合意しました。また、IPCCの知見によれば、2℃目標の達成には、今後、世界で排出できるCO2の量に上限があることが示されています。この上限は、カーボンバジェットと呼ばれ、まさに、残されたCO2の排出可能量を導く予算の考え方です。

すこし詳しく言えば、1850年からのCO2の累積排出量を790Gtに抑えることができれば、今世紀末に66%超の可能性で気温上昇を2℃未満に抑えることができるとされています。

しかし、790Gtのうち、最近までにおおよそ550GtのCO2が排出されたと言われており、残りのカーボンバジェットは約240Gt弱しかありません。また、現在、毎年世界から出ているCO2は、おおよそ10Gt程度とされています。よって、単純化して言えば、現在のペースで化石燃料を使い続けると、20数年後に上限に達してしまい、翌年からは全く世界でCO2を排出してはいけない、そうしないと2℃目標は達成できないというわけです*。

注:カーボンバジェットに関しては、2℃を目指すか、1.5℃を目指すか等で、その数字に一定の不確実性・幅がありますが、基本的な考え方は変わりません。

このカーボンバジェットの考え方は、現在取りざたされている「座礁資産」や「気候変動リスク」の基礎となっています。例えば、カーボンバジェットを守るためには、化石資源がいくら地中に埋蔵されていようとも、そのうち2/3は使うことができない。不良在庫になるというリスクが高まっているわけです。

リスクがあれば、それをヘッジするのが、金融セクターの本性です。機関投資家などの金融セクターは、座礁資産化してしまうリスクが最も高い石炭火力から次々に投資撤退しています。投資の撤退は環境云々ではなく、マーケットのリスク・リターンの理に適った行動なのです。

このカーボンバジェットを理解すれば、どのくらいのスピードで、どれだけ大規模に脱炭素化をしなければならないのかが、よくわかります。一方で、日本ではこのカーボンバジェットがまだほとんど理解されていないと感じます。メディアでの解説などもほとんど見られず、今後はぜひメディアに伝えてほしいと思います。

JCLPの会員企業は、「気候変動の脅威」「カーボンバジェット」をきちんと理解し、少なくとも電力は100%再エネに転換しなければ、気候変動は止められないことを理解しています。また、脱炭素化の転換期には、リスクだけではなく、様々なビジネスチャンスが生まれることも理解しています。その理解の下、再エネが経済合理的な形になるよう、さまざまな試みを実施し始めています。

社会全体を動かすメカニズムをつくり続ければ、日本にも再エネが普通の電力より安くなる時代が必ず来るでしょう。普通の人が暮らしているだけで、世界の気候変動の危機を遠ざけることができるような社会です。

プロフィール

松尾 雄介

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) ビジネスタスクフォース ディレクター/JCLP 事務局 エグゼクティブ・ディレクター



株式会社三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ESG投資顧問の株式会社グッドバンカーを経て2005年より現職。2005年ルンド大学(スウェーデン)産業環境経済研究所修士課程修了(環境政策学修士)。 気候変動と企業の関わりについて一貫して研究活動を実施。日本の先進企業で形成され、脱炭素社会を目指す日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の事務局責任者を務める。
受賞歴:2010年度 エネルギー・資源学会 第14回茅奨励賞、環境省 第9回、第11回NGO/NPO・企業環境政策提言 最優秀賞など。


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