非化石価値取引市場の1つとして新設された「再エネ価値取引市場」の初回オークションが11月に迫っている。再エネ価値取引市場ではFIT証書のみが取引される。 経済産業省の制度検討作業部会では新市場の制度詳細を議論してきたが、2021年9月24日に開催された、その第57回会合において最低価格のほか、残された主要な論点が一旦すべて整理されたので、本稿ではその概要をお届けしたい。
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本来、FIT証書の価格は需給バランスにより決まることが望ましいものの、当面の間は供給量(1,000億kWh程度)が需要(数十~百数十億kWh程度)を大幅に上回ると見込まれるため、実質的に価格がゼロ円近傍となることが懸念されてきた。このため当面の措置として最低価格を設定することとして、この具体的な価格について検討が重ねられてきた。
結論として、最低価格は0.3円/kWhとする案が事務局から示され、委員の賛同が得られた。
当面の間、FIT証書は最低価格0.3円/kWhに張り付くものと予想される。
グローバルに活躍する企業にとってはカーボンニュートラルに向けた再エネ電力(再エネ価値)を使用することは急務となっている。このため海外企業と比べ日本企業が費用負担面で不利とならぬよう、海外の環境価値クレジットの価格水準0.1~0.2円/kWhに対して遜色ない水準とすることが強く考慮された結果である。
また需要家に対するアンケートでは、0.1円~0.3円/kWhの価格帯と0.4円~0.6円/kWhの価格帯では、潜在的な需要量に大きな差異がある結果となっていた。
図1.再エネメニューへの切り替えに許容し得る価格
(使用電力量で重み付け。0円回答は除く)
出所:制度検討作業部会
FIT証書の需給をバランスさせるには需要量を急速に拡大する必要があるが、事務局案はこの需要拡大を最重視した結論となっている。
他方、FIT証書の価格水準が低すぎることに対しては、幾つかのネガティブな影響が生じ得ることが指摘されてきた。
再エネの活用を目指す需要家には、FIT証書の購入という選択肢のほかに、新たな再エネ電源を自ら投資・開発するという選択肢もある。FIT証書が安価であるならば、後者の方法を選ぶ需要家が減少するという懸念である。
この懸念に対して事務局からは、再エネ投資実行の有無は需要家各社の経営判断であり、必ずしもFIT証書価格の水準のみによるとは限らないとの見解が示されている。
またオブザーバーからは、J-クレジット等の類似制度の価格水準への影響についても懸念が示されてきたが、事務局からは各制度の取引対象や需要家ニーズが異なるため、必ずしも直接的に影響が及ぶものではないとの見解が示されている。
図2.J-クレジットの平均落札価格の推移
出所:制度検討作業部会
非化石価値取引市場のもう1つの市場である高度化法義務達成市場では、新たな最低価格として0.6円/kWhが設定されている。新ルール適用後の初めてのオークション(8月)では、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)の約定価格は、最低価格の0.6円/kWhとなった。
高度化法の遵守が求められる小売電気事業者は、この0.6円の非FIT証書を購入する必要がある一方、需要家は0.3円でFIT証書を購入することが可能であるため、小売電気事業者が差額の0.3円を上乗せして需要家に非化石電気を販売することは困難である。
小売電気事業者にとって、この差額0.3円は高度化法の遵守費用となり、オブザーバー参加するエネット社からは自社の年間費用負担が数億円に上ることが発言されている。
このため小売電気事業者からは、非FIT証書の調達費用を自動的に需要家に転嫁できる仕組みの創設が強く要望されている。
従来、非化石証書のオークションは年間4回開催されており、その発行・取得タイミングが年度内で異なるものの、有効期限はすべて一律に6月末までとされてきた。
これに対して需要家等からは利便性向上のため、例えば取得時から1年間有効とすることが要望されてきた。
「制度検討作業部会」第57回会合における事務局回答としては、11月の初回オークションについては実務的な制度変更が間に合わないため、有効期限を従来どおり6月末とする案が現時点の結論として回答された。
有効期限の変更を検討するにあたっては、温対法上の報告方法や証書の口座管理の変更、税務上の取り扱いの検討も必要とされるため、継続検討という位置付けである。
当面はFIT証書の年間供給量が需要量を大きく上回ることが予想されるため、多くのFIT証書が売れ残ることが想定される。
売れ残りとはいえ、その環境価値(CO2ゼロエミ価値)を埋没させることは適切ではないため、需要家が再エネ賦課金としてFIT費用を負担していることを踏まえ、従来からその環境価値は全需要家に等しく配分されてきた。
具体的には、売れ残りFIT証書は小売電気事業者の販売電力量シェアに応じて無償配分され、各社の温対法上のCO2排出係数に反映されている。このことにより間接的に、全需要家が排出係数の低下というメリットを享受している。
ただし小売電気事業者は売れ残りFIT証書を無償で取得することになるため、そのCO2ゼロエミ価値を需要家に訴求することはできない、とされている。
今回の制度見直しにおいても、これらは引き続き同様の取り扱いとすることが示されている。
再エネ価値取引市場では需要家に代わってFIT証書を取得するため、仲介事業者の取引参加が許容されている。
仲介事業者に対しては、需要家保護や不当な取引行為防止の観点から、一定の資格要件や規律を求めることとしており、具体的にはJEPXの会員規定により定められる。
第57回会合ではJEPX規程の改訂素案が公表された。
加入要件 | 会員資格 | ⑴小売電気事業者 ⑵発電事業者 ⑶一般送配電事業者または特定送配電事業者 ⑷左記以外で、かつ日本国内の法人。 |
資産要件 | 収支計画と貸借対照表、損益計算書の提出をもって財務の健全性、存続性を確認する。(例:現預金の額の確認等) | |
義務 | 記録義務 | 取引参加者は、取引所所外で非化石証書を販売する場合(小売電気事業者への販売、需要家への販売および電気の供給と併せての販売等、他者への非化石証書の移転行為)、取引所が定める様式に従ってその記録を管理しなければならない。 |
記録報告義務 | • 記録は、商品の取引の終了後、1ヶ月以内に取引所に提出しなければならない。 • 取引所は、必要に応じ記録の提出を求めることが出来る。 | |
規律 | 需要家への説明 | 取引参加者が委託に基づく取引を行う場合は、委託元に誠実に取引の制度や状況等を説明しなければならない。 |
取引範囲 | 非化石証書やトラッキング付き非化石証書等の利用において、経済産業省およびトラッキング証書発行機関の利用規則において禁止されている行為をしてはならない。 |
出所:制度検討作業部会
例えば、仲介事業者は取引所外で非化石証書を販売する場合、取引所が定める様式に従ってその記録を管理しなければならず、その記録は取引終了後1ヶ月以内に取引所に提出することが義務付けられる。
これらの規定に違反した際には、取引停止や除名の処分事由とされる。
表2.非化石証書の取引に係る会計・税務上の取り扱い
非化石証書の取得時の会計上の扱い
・非化石証書を取得した小売電気事業者は、当該取得分の電気を実質再エネ又はゼロエミ電気として表示(環境表示価値)することが認められている点に鑑みれば、非化石証書の取得は、いわば「電気」という商品の販売に当たって、「再エネ(ゼロエミッション)」という価値を付加するものと解することが可能。
・こうした経済実態を踏まえれば、非化石証書の取得時は、その取得価額をもって資産計上(流動資産)することが一般的と考えられる。
非化石証書の償却(費用処理、損金経理)について
・上記の整理を踏まえれば、購入された非化石証書は、販売する電気に「再エネ(ゼロエミッション)」という価値を付加し、電気と一体的に販売する(販売電力量≧証書の活用量)ものと解することが一般的。
・このため、取得時に資産として計上された非化石証書は、電気販売と同時に、一体的に活用した分を費用化することが一般的と考えられる(当該費用化分は、損金性が認められるものと解される)。
出所:制度検討作業部会
他方、消費電力量との関係では、需要家が消費電力量を大きく上回る証書を購入した場合に、これを自らの事業に必要な費用という説明は難しい、などの留意点も示された。
11月からの再エネ価値取引市場の取引においては、新たな市場参加者となる需要家はJEPXに証書の口座を保有し、調達した証書の総量を管理することになる。
図3.需要家による直接購入FIT証書の口座管理
出所:制度検討作業部会
需要家が直接FIT証書を購入した場合、需要家が別途小売電気事業者から調達する系統電力のCO2排出量(使用電力量×小売電気事業者の調整後排出係数)から、需要家自ら調達したFIT証書量(kWh)に全国平均CO2排出係数を乗じた削減量を減算することが原則として考えられる。
具体的な方法等については、他の検討会(温対法に基づく事業者別排出係数の算出方法等に係る検討会)において議論される予定である。
なおGHGプロトコルにおけるCO2排出量の算定において、FIT証書の活用対象は、需要家が外部から購入する電力に関するCO2排出量(間接排出・スコープ2)であり、自らが直接排出するCO2(スコープ1)に対して利用することは不可となっている。
今後、11月の再エネ価値取引市場初回オークションに向けて、制度検討作業部会中間とりまとめ(案)が10月上旬に公開され、パブリックコメントが開始される予定である。
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