再エネ大量導入時代のグリッド運営とVPPの役割 石井英雄早稲田大学教授に聞く | EnergyShift

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再エネ大量導入時代のグリッド運営とVPPの役割 石井英雄早稲田大学教授に聞く

再エネ大量導入時代のグリッド運営とVPPの役割 石井英雄早稲田大学教授に聞く

EnergyShift編集部
2020/07/13

再生可能エネルギーが主力電源となっていくにあたって、需給調整における需要側の役割は重要なものとなってくる。一方、発電側でも柔軟性への対応が求められる。こうした要件に対応するため、発電側ではグリッドコードなどが検討され、需要側ではVPPなどの技術の確立が進められている。加えて、市場の活用と料金メニューにも工夫が必要だ。多くの課題を抱えた電力システムの技術開発について、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構 研究院教授で上級研究員の石井英雄氏にお話しをおうかがいした。

再エネ大量導入のモデルづくりと標準化が大学の役割

―日本に限らず、電気事業においては変動する再生可能エネルギー(VRE)の増加にいかに対応するかが課題となっています。最初に、この点からおうかがいします。

石井英雄氏:日本はいろいろな点で、再生可能エネルギーの大量導入に対応した技術やしくみづくりが、欧米と比較して進んでいないという印象があります。しかし、一度きちんと整理することで、進むようになると考えています。
7~8年前には、DR(ディマンドリスポンス)とVPP(仮想発電所)を拡大していくということが、私の仕事の半分を占めていました。

経済産業省でもこれらを定着させ、いかにプレーヤーを増やしていくのか、そのための実証を行っており、私も一緒にかかわってきました。

―そうした中にあって、石井先生の場合は、大学の研究者として、企業とは異なる役割があると思います。

石井氏:大学の役割としては、技術などを標準化し、整えていくということがあります。エネルギーマネジメントシステムの開発にあたって、メーカーに依存していくだけでは広がりません。

2012年に経済産業省の支援のもと、林先生(スマート社会技術融合研究機構 機構長、林泰弘教授)とともに、EMS新宿実証センターをつくりました。また、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会では、標準化ワーキンググループを設置し、進めてきたということもあります。

その結果、DRについては、商用化したといえる状況になってきたと思います。実際に、2016年からはじまった調整力公募では、電源Ⅰ'について、DRが採用されています。
これは今後、容量市場と需給調整市場に引き継がれていくと考えています。
VPPはDRの拡張版ととらえることができ、実際に需要側のリソースが使われ、それに対する対価が支払われるようになりました。

EMS新宿実証センターと施設の一部 右上から時計回りに 外観、燃料電池、スマートハウス(4棟)、PHV/EV、充電器、配電系統模擬システムANSWER、スマートハウス1(白虎)

―2012年から考えると、かなり進んだのではないでしょうか。

石井氏:最初はDRって何? という状況からスタートしました。そこから、ユースケースを分析し、必要となる通信仕様を分析し、標準化ができた。日本は、最初の段階から国レベルで取り組んできたということが、今後の強みになっていくと思います。

米国では先進的なベンチャー企業が、独自のやり方でやっていくという形が多く、いろいろな仕様が平行して存在するということになります。その点、国で標準化したというのは国際的にもめずらしいケースなのです。しかも、国内の標準というだけでなく、IEC(国際電気標準会議)の国際標準にもするということを基本戦略に据え、関係機関等とグローバルに協力し実現してきました。今後、アジアでDRやVPPが必要になってきます。これらの国では、技術やシステムの導入にあたって、国際標準に準拠していることが要求事項になることが多く、DRやVPPの日本のやり方は国際的な強みを持っているのです。

今は大きな市場ではないVPPも将来は必要に

―DRやVPPのニーズは、先進国とは限らず、むしろ途上国の新しい市場の方が重要になってくるということですね。

石井氏:東南アジアでは電力需要が伸びています。こうした中にあっては、DRや省エネは重要ですし、したがってビジネスチャンスもあります。
日本では「DRやVPPはお金にならない」という声がありますが、まだこれからです。

―とはいえ、日本ではVPPは直近ではビジネスにならないという認識が強くなっています。これを乗り越えないと、技術開発は進まないような気がします。

石井氏:確かにVPPはビジネスにならないという嘆きをよく聞きます。ここまで、容量市場や需給調整市場が新設されることへの期待とそのためにVPPを活用するための実証事業が活動のドライバーでしたが、このあとどのように取り組みを継続していくのか、というのは課題です。

今後再エネの主力電源化に向けては、まだまだ導入量が必要で、VPPなどの需要側の参加によって電力システムの柔軟性を高めていくことは、将来必ず必要になるという共通認識を持ってやっていくことが肝要であると思います。

需給調整市場では儲からないといいますが、いよいよスタートするOCCTO(電力広域的運営推進機関)による三次調整力②はそれなりの規模の市場であり、需要側のリソースも使いやすくなるような配慮もされて整備できていると思います。

一般送配電事業者も最初はVPPに懐疑的であったかもしれませんが、2016年から調達が始まった調整力電源のⅠ'ではそれなりの量のDRリソースが採用され、実際に毎年使われてきました。VPPの利用価値が認められてきていると思います。

VPPが抱える現在の課題と可能性

―一方、VPP側にはまだまだ課題もあると思います。

石井氏:ばらばらにある需要側のリソースを束ねたものは、従来の発電機とは異なります。これまでの電力システムは、発電機の物理的な性質に基づいて構築されています。しかし今後は再エネが増え、従来の発電機が減ってきます。その結果、電力システムの運営は今までのようにいかなくなります。

電力システムを運用するにあたって、需要家のリソースを活用しなくてはいけないのですが、そこで研究すべきことは、どのようなことができて、どのようなことができないのか。あるいは、どんな性格があり、長所と短所はどうなっているのか。まずそれを明らかにした上で、何をどこまで求めるのか明確にすることがVPPの研究開発のために必要なのです。

つまり、発電機をベースとした系統運用を需要家リソースも活用していく観点から総点検し、絶対に必要なことと考え方を変えてもいい部分を定義することが、VPPの開発項目を決めるうえで不可欠なのです。発電機が主流でない世界など、これまで誰も突っ込んで考えたことがなかったわけです。要求を緩めるということでなく、需要家リソースが主力になるくらいの状況で、本当に必要なことをきちんと定めるということです。

―一般的には、発電機の持つ慣性などがなくなることにどのように対応していくのか、といったことが、分散型エネルギーリソースの課題だとされていると思います。

石井氏:VPPがビジネスにならないといわれることとつながっているのですが、特にΔkWはマネタイズしにくい。1時間あたりで1kWの変化に対応して、対価が1円くらいというレベルです。
なぜそうなるかというと、現在の発電機は、ガバナフリー(発電機の回転数の自動制御)やLFC(負荷周波数制御)といった機能はあたりまえについているものです。この機能だけを取り出して価格をつけるといっても、自動車からアクセルをとったら値段がいくらになるか議論するのと同レベルで意味がないのです。

とはいえ、将来は火力発電が減少し、LFCなどの機能が失われていきます。一方、インバータを通じて系統連系しているVREが増加していくと、周波数など調整の必要性は増えてくるし、そのことに対応しなくては系統運用ができなくなります。

ただ、現在の再エネ導入量だと、問題はさほど顕在化しません。将来絶対必要なので、トランジション(移行期)に事業者が興味を失わないようにしなくてはいけない。

―そうした中にあって、VREに対しては、災害時に地域に供給できる電源としての期待もあります。

石井氏:おっしゃる通り、台風などによる災害が起きたときに、需要側のリソースを使っていくことは重要です。
VPPの適用先は需給調整だけではなく、レジリエンス確保にも大いに役立てることができる認識も広まってきました。需要家リソースは、元々は電気の基本料金削減や瞬時電圧低下防止などの目的で導入されてきた経緯がありますが、本来の目的と需給バランスへの貢献やレジリエンス確保という新たな利用軸を加え、全体としての利用価値を高めていくことが取り組みを継続していくうえで重要なことです。

周波数制御へのVPPの適用はこれからの課題ですが、近年の話題としてコネクト&マネージが進められていますし、電圧の調整も必要で、こうした領域にもVPP活用が想定されます。電気自動車(EV)の活用も同様で、充電による負荷の平準化や太陽光発電の電気の吸収への期待もあります。電気事業法改正で配電ライセンスもできました。その意味では、太陽光発電の急速な導入に伴う系統全体の需給バランスに加え、ローカルなところにも視線が向けられてきており、経済産業省もこうした視点での取り組みに着手しています。ローカルなところにさまざまなリソースがありますから、これを束ねてローカルなVPPとして使い方を実証していくことでしょう。大学の役割は、これを支援し育てていくことになってくると思います。

深夜割引から日中への割引料金の転換を

―VPPについては、卸電力取引市場の価格に対応するような、経済的VPPという可能性もあるといいます。

石井氏:九州電力管内では、太陽光発電の出力制御が行われるようになってきましたが、昼間の電気料金を下げればこれが緩和される可能性があると思います。しかし、電力の卸市場価格が末端にいる需要家の電気料金に反映されていないという問題があります。これがちゃんと反映されるようになれば、例えばエコキュートは深夜ではなく日中の運転になるはずです。私は、卸市場での電力価格を極力忠実に料金に反映させるべきだと考えています。
では、なぜ電力会社はやらないのか。電気料金の契約は長期契約になっていることも多く、また、料金メニューの変更自体は需要家全体で損にも得にもならないように実施することも求められ、それほど簡単ではないことは理解します。しかし、日本は以前からTOU (Time Of Use:時間帯別料金)をやっており、これは一種のDRともいえ、先進的なことでした。太陽光発電の導入が著しい米国のカリフォルニア州でさえ、TOUを導入するようになったのは至近でのことです。もう少し時間がかかるのかもしれませんが、早くやった方がいいと思います。

電力小売り自由化となったにもかかわらず、小売りに柔軟性がないと思います。リアルタイムでの市場の料金を小売りにも反映させることができれば、調整力として必要なリソースは減るはずで、合理性が高まると思うのですが。

将来、リアルタイム料金が導入され、オペレーションはAIで行うようになれば、経済的に需給調整が行われ、完全自動の運用ができるかもしれません。もっとも、そうなったときに、電力系統が破綻しないことを保証しなくてはなりませんが。

今はゲートクローズが1時間前で、再エネの発電予測はそのかなり前に行われています。これは手続き論的に間に合わないという理由からと理解しています。計画値同時同量制度のもとFIT特例電源の発電量の配分など事前の作業と確認に時間が必要で、本来やるべきことであってもできないということでしょう。しかし、今はFITなどの複雑な例外的制度があり、過渡期だと思います。

かなりの部分がリアルタイム料金、しかも米国のLMPのように系統混雑などの状況も反映した地点別料金によって解決できると思われ、個人的にはそれを目指すことが重要だと考えています。

とはいえ、電力システムはあまり生じないことに対しても、止めることを前提に考えるわけには行きません。小売事業者・需要家が需給に合わせて行動することを基本にしつつ、補完的に需給調整市場のようなしくみを使えばいいのではないでしょうか。

―そこで思うのですが、VPPとして高い蓄電池を導入するよりも、料金メニューの方が先ではないでしょうか。

石井氏:たしかにそうかもしれません。とはいえ、やはり夜間には太陽光発電は発電しませんから、遅かれ早かれ蓄電池が必要になると思います。

―需要家側のリソースということだけではなく、料金という点も含めると、スマートメーターの導入は大きく関係してくるのではないでしょうか。

石井氏:そもそも、実証にあたってデータをとることが重要です。2014年度からスマートメーターの設置が始まり、東京電力管内では2020年度、日本全国では2024年度でスマートメーターへの交換が終了します。そうすると、次のメーターへの交換が始まりますが、これをどうするのか、というのは積み残した課題となっています。

現在のスマートメーターは30分値を測定して送信するというものですが、VPPの調整力として活用するには、もっと細かいデータが必要になります。では、スマートメーター以外で対応するのか、それとも細かいデータに対応したスマートメーターにするのか。いずれにせよ、低コストでやらなくてはいけない。また、その場合、通信の方式をどのようにするかも課題です。

また、さきほどローカルな視点に移っていると話しましたが、そのためにはどれだけのリソースがどこにあるのかを把握しなくてはいけないですし、それらがどれくらい活用可能なのかリアルタイムで分かる必要があります。最初から大規模なことはできませんから、大学の役割として、それを小規模で実装し、どんないいことがありそうか、見せていくことが必要であると考えています。例えば、コネクト&マネージや災害対応となるしくみを、自治体と共同で構築し、我々がデータを吸い上げてビジュアル化していく。小規模ながらも、そうした実証研究をおこなっていきたいと思います。

導入が検討されるグリッドコード

―話は変わりますが、石井先生はグリッドコードの導入ということを主張されています。

石井氏:元々日本の電気事業には、系統連系技術要件というものが決められています。これが欧米でいうグリッドコードに相当します。この系統連系技術要件は、電力会社が自家用発電設備の普及時に決めてきたもので、単独運転防止など、電力系統の保護や安全に関する要件が中心になっています。

電力会社にとっては、自分の資産ではなく、コントロールできないものが系統接続するときに、系統に悪影響を与えないということが必要です。

しかし、現在言われているグリッドコードは、系統連系技術要件をさらに拡張したものといえます。保安的な観点に加えて、電力系統を運用するにあたって、どのような性能が必要か、ということも含めて定義されます。例えば、電力出力の変化の速度などです。今後、再エネが大量に導入される新しい世界に対応するために、従来の発電機に加え、需要側のエネルギーリソースに対しても、安全だけではなく、どのように運用していくのかも考えに入れ、必要な性能の具備を要求していくようになるのです。

―運用に関する性能ということですが、具体的な例としてどのようなものがあるのでしょうか。

石井氏:例えば、スマートインバータの性能があります。
先ほど、発電機が減少し、分散型リソースが増えることが問題だという話がありました。しかし、太陽光発電は無効電力を出して電圧を制御することは得意ですから、ローカルな電圧の維持はインバータにうまく無効電力制御機能を組み込めば実現できるのです。

経済産業省によると、あらゆる発電を差別しないグリッドコードを基本理念としつつも、再エネ対策は急を要するということで、風力発電、太陽光発電それぞれについてグリッドコードの検討がはじまっています。

そもそも異なる電源はお互い違うという前提に立ち、その長所を活かせばいいはずです。
そこで、再エネが増加したときの系統運用に対応した、自律調整機能を持つスマートインバータに対するニーズが出てきます。
問題は、メーカーがスマートインバータを製造するにあたって、要件が定義されていないということです。

米国カリフォルニア州では、グリッドコードである Rule 21 によって、太陽光発電と蓄電池の系統連系の要件が定義されており、スマートインバータの多数の特性を具備することが決められています。こうしたルール化を手本として、日本でもグリッドコードを定義していくべきでしょう。
グリッドコードに対応するとコストアップになるかもしれませんが、再エネを増やしていくためには重要なことですし、日本もそこに向かっています。
日本の太陽光発電業界でも検討に入ったとのことで、いい方向に傾いてきたと思います。

―とはいえ、実際に定義していくのは簡単ではないと思います。

石井氏:一般送配電事業者はまだまだ慎重に考えていると思います。スマートインバータの機能はたくさんあり、それぞれの機能をどのように使っていくべきなのか、詳細な検討が必要です。 急進すぎて大変かもしれませんが、やはり再エネ拡大に対して対策をとらないといけないという段階にきていることは確かです。

グリッドコードの定義にあたっては、送配電事業者と発電事業者が向き合って議論することが必要です。
メーカーにとっては、グリッドコードの実装は難しくなく、開発費は別としてほぼソフトウェアで対応できると思われます。しかし、グリッドコードが決まらないとやりようがないのです。

すでにグリッドコードが定義されているヨーロッパのものを流用すればいいという議論もありますが、ヨーロッパの場合は風力発電が主流であるのに対し、日本では太陽光発電が主流なので、考え方から検討する必要があると思っています。
そうした中、大学としては、スマートインバータが太陽光発電に導入された場合、例えば系統の電圧の維持にどれだけの効果が見込めるか、精緻なモデル化を行い、定量的に把握できるようにすることが役割であると考えています。

―電力システムは今後、どのように変化していくのでしょうか。

石井氏:ヨーロッパではVPPが活躍している姿が見られますが、その背景には再エネの導入量の違いがあります。

再エネで値段が大きく動く市場では、高いときには買ってはいけないという判断をします。
太陽光発電が大量に導入されたとき、日本ではどこまで市場価格が反映されるのでしょうか。

近年は、1kWhあたり100円ということもありましたが、日本人の感覚といいますか、電気のような生活必需品の値段が市場であばれることに抵抗があるように思われます。
しかし、自由化した市場のもとでは、需要と供給のバランスに応じて価格が変動するのが当たり前です。

かつて、東京電力において、古い石油火力発電所で年間の稼働日数が少ないものは不要だという議論があったのですが、それでも廃止ではなく長期計画停止にしておいたことで、2011年3月11日の東日本大震災の後に、電力を供給することができたということがあります。こうした事例があるように、電力会社には、まだまだ社会のために安定供給を最重要視する考え方が残っています。

しかし、増加する再エネの電気を、市場を通じて供給するということに、変わっていくことでしょう。そして、電力会社においても考え方の変化は起きていると思います。

図版上が旧来型、図版下が将来像

参照

プロフィール

石井 英雄(いしい ひでお)

早稲田大学研究院教授・スマート社会技術融合研究機構事務局長。
1988年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、東京電力入社。R&Dの企画、 再生可能エネルギーの制御、ディマンドリスポンス等を担当。2014年より現職。
バーチャルパワープラント構築、卓越大学院プログラム「パワー・エネルギー・ プロフェッショナル」等に従事。博士(工学)。

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