世界の投資家が注目する、EUのタクソノミー(分類システム)とは何か | EnergyShift編集部

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世界の投資家が注目する、EUのタクソノミー(分類システム)とは何か

世界の投資家が注目する、EUのタクソノミー(分類システム)とは何か

2020/08/28
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2020/08/28
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激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第29回

欧州で進む脱炭素社会は、投資家にもグリーン投資、ESG投資などの投資手法が当たり前、かつ最重要とされてきている。そうした投資家の動きに対して、どの企業が持続可能、かつ脱炭素に資するのかを見極める新しいツールが注目を浴びている。そのタクソノミー・ツールとは何か。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が、グリーン投資に向けて提案されているタクソノミーについて報告する。

EU、グリーン投資に向けたタクソノミー指令を施行

現在、欧州の産業界・金融業界では「持続可能性の高い金融サービス事業」とか「グリーン投資」という言葉が飛び交っている。

その理由は、欧州連合(EU)がグリーン投資のための枠組み作りを加速しているからだ。

今年(2020年)3月、EUの技術的専門家グループ(The EU Technical Expert Group:TEG)が、持続可能性が高い投資のためのタクソノミー(分類システム)を提案した。EUは2020年7月にはタクソノミー指令も施行した。

だが、どの経済活動がグリーンであるかを決める基準作りは、これからが本番だ。

タクソノミーとは、金融サービス業の尺度の中で、温室効果ガスの軽減など環境保護の比重を高めるものだ。 EUは2050年までに温室効果ガスの排出量正味ゼロ(ネットゼロ)を達成するために、資本の流れを、気候変動の軽減に貢献する経済活動に向けようとしている。グリーンな経済活動のための資金調達を容易にすることによって、持続可能性の高い産業を成長させ、化石燃料を使う産業の非炭素化を図る。

つまり気候変動を軽減することに貢献する産業ほど、資金調達を行いやすくなる。EUはタクソノミーを「欧州グリーン・リカバリーの中核」と位置付け、極めて重視している。

European Environment Agency (EEA).

環境保護目標への貢献を求めるタクソノミー・ツールと3つの高い基準

金融機関や環境保護団体、電力会社の代表らが構成するTEGは今年3月9日にグリーン投資に関する最終報告書、技術的付属文書とともに、「タクソノミー・ツール」と呼ばれるエクセルシートを公表した。報告書だけで660頁、エクセルシートは9枚あるが、金融業界だけではなく製造業界にとっても重要な内容を含んでいる


 タクソノミー最終報告書

私はこれらの文書を読んだが、「経済活動がグリーンと認定されるためのハードルは高い」という印象を持った。

たとえば、EUがグリーンつまり持続可能性が高いと見なす経済活動は、次の3つの基準を全て満たさなくてはならない。

第1の基準は、ある経済活動が次の6つの環境保護目標の内の、少なくとも1つを満たすということだ。

  • 1.)気候変動の軽減に大きく貢献する
  • 2.)気候変動への適応
  • 3.)水及び海洋資源の持続可能性の高い使用と保護
  • 4.)循環型経済への移行、廃棄物の削減とリサイクル
  • 5.)環境汚染の防止と軽減
  • 6.)健全なエコシステム(生態系)の保護
Presentation on EU taxonomy - Stakeholder dialogue: progress and outcomes of the TEG’s work on sustainable finance - 24 June 2019 より

第2の基準は、経済活動が上記の6つの環境保護目標を1つでも阻害してはならないということだ。たとえば、気候変動の軽減に大きく貢献しても、海洋汚染を引き起こす活動は、グリーンと認定されない。TEGはこの規則をDo No Significant Harm (甚大な損害を与えない)= DNSHと呼ぶ。

第3の基準は、グリーンな経済活動が人権保護など環境以外のコンプライアンス規則も満たさなくてはならないということだ。具体的には、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業ガイドライン」や国連、国際労働機関(ILO)の規則に違反してはならない。たとえば、ある企業の活動が環境保護に貢献しても、発展途上国での未成年者に対する搾取労働によってコストを低く抑えているような場合には、「持続可能性が高い」とは認定されない。

タクソノミーとは、「ある経済活動が、どのような基準をクリアーすれば持続可能性が高いと見なされるか」を認定するためのツール

では、どのような活動が、地球温暖化の抑制に貢献すると見られているのだろうか。

タクソノミー・ツールにリストアップされた経済活動は72種類。最も多いのが発電などエネルギー部門で、25種類。これに水・廃棄物(12種類)、製造業(11種類)、輸送・貯蔵(10種類)などが続く。

注意するべき点は、このリストに載せられた経済活動が全てグリーンと認定されるわけではないということだ。あるいは、これらのリストに載っていない経済活動を行っている企業について、「持続可能性が低い」という烙印を押すのが目的ではない。

タクソノミーとは、「ある経済活動が、どのような基準をクリアーすれば持続可能性が高いと見なされるか」を認定するためのツール(道具)である。

褐炭/石炭火力・原子力はなぜリストに含まれていないのか

エネルギー部門を例にとってみよう。タクソノミー・ツールには、太陽光、風力、水力、地熱による発電、送配電、電力の貯蔵、地域暖房などがリストアップされている。

私は、タクソノミー・ツールに原子力発電が含まれていないのに気づいた。原子力発電は発電の過程では二酸化炭素を出さない。このため、産業界の一部の関係者からは「原子力発電は気候変動の軽減に貢献する」という意見も出ている。

しかしTEGは、「原子炉から出る放射性廃棄物が、4)の廃棄物を減らすという環境保護目標に反するので、タクソノミーに加えなかった」と説明している。原子力の扱いについては、今後も協議が続けられる見通しだが、環境保護団体は原子力発電をタクソノミーに含めることについては猛烈に反対するだろう。

また、タクソノミー・リストを読んでもうひとつ目につくのは、褐炭と石炭による火力発電が含まれていないことだ。

その理由は、個々の経済活動がグリーンであるかどうかを認定するためのしきい値(限界値)のためだ。

たとえばTEGはエネルギー部門について「サスティナブル(持続可能性が高い)」、つまりグリーンと見なされる企業活動を、電力1kWhあたりのCO2排出量が100グラム未満の発電施設、暖房施設、熱電併給型発電所(コジェネ)に限るよう提案している。この限界値は、5年ごとに引き下げられ、2050年には正味ゼロにする。

石炭や褐炭による火力発電所の大半は、このしきい値を達成するのが困難なので、グリーンな投資の対象と認定されない可能性が強い。また製鉄業、アルミ製造業などについても、温室効果ガスの排出量がEUの定めるベンチマーク(目標値)未満でないと、グリーンと認定されない。

経済活動がグリーンであるかを認定するスクリーニング基準(SC)とは

TEGは、個々の経済活動がグリーンであるかどうかを認定するためのしきい値(限界値)をスクリーニング基準(SC)と呼び、欧州委員会にSCに関する細則を決めるよう要請した。欧州委員会は、産業界、金融界、環境保護団体などの代表から成る「持続可能性が高い金融サービスのためのプラットフォーム」を創設し、SCの具体的な細則を決定させる方針だ。

欧州で活動するメーカーなどにとっては、このSCがグリーンと認定されるか否かを左右する鍵となる。欧州委員会は、「気候変動軽減への貢献」と「気候変動への順応」の2つの目標については今年末まで、残りの4つの目標については、来年末までにSCを決める予定だ。

つまり、企業活動が環境にやさしいかどうかを具体的に判断するための細かい基準を決める作業は、これからが本番なのだ。たとえばドイツの製造業界は、「持続可能性が高い金融サービスのためのプラットフォーム」のメンバーの少なくとも3分の1を製造業界の代表にするように要求している。

またEUによると、タクソノミー・ツールはダイナミックで柔軟な道具であり、科学技術の進歩などに応じて修正・補足されると説明する。つまりその内容は固定されたものではなく、経済活動の環境保護への貢献度や阻害について新しい知見が得られれば修正されるというのだ。

企業もEU加盟各国も、さらなる透明性が求められる

タクソノミーの使用を義務付けられるのは、EU域内で金融商品を提供している金融市場の参加者(企業年金も含む)、EUの非財務報告書指令(NFRD)に基づいて、持続可能性に関する非財務報告書を提出することを義務付けられている社員数が500人超の大企業、さらにグリーン金融商品のための政策、基準などを設定するEU加盟国政府だ。

特に企業は、環境保護についてEUからこれまで以上に積極的な情報開示を求められる。

持続可能性に関する非財務報告書の提出を法律で義務付けられている大企業は、2022年末までに、タクソノミーの全ての環境保護目標について、情報を開示しなくてはならない。

投資家はこの情報に基づいて、自分が社債を買おうとしている企業のグリーン度を判断する。

たとえば投資家は、「企業の売上高の内、何%がタクソノミーのスクリーニング基準をクリアーして持続可能性が高いと認定されているか」とか、「企業はグリーンな経済活動からの売上高を高めるために、どのような努力をしているか」という点に着目するだろう。

タクソノミーに対する電力会社、環境保護団体からの反応は

TEGの提言に対しては様々な反応が出ている。ドイツの電力会社のロビー団体・ドイツ連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)は、「コロナ危機が実体経済に悪影響を及ぼしている今、グリーン投資を効率的に行う必要がある。そのためには、燃焼効率が高い天然ガスを使った火力発電所と熱電併給型発電所を、『過渡的な解決策』としてタクソノミーに加えるべきだ。さらに、天然ガスの輸送管を水素の輸送管に改修する作業を、気候変動を大きく軽減する活動としてタクソノミーに加えるべきだ」と要望している

またWWFなどの環境保護団体は、「水力発電所は生態系に悪影響を及ぼすので、EUは新設を禁止するべきだ。林業については、伐採ではなく森林保護を重視してほしい。またバイオ燃料の中にはCO2増加につながる物もあるので、タクソノミーの中でより細かい定義が必要だ。TEGの最終報告書は、2025年までの期間について、走行距離1kmあたりのCO2の排出量が50グラム未満の車両をグリーンと認めているが、これは受け入れがたい。TEGは排出量ゼロの車だけを許容するべきだ」として、タクソノミーの改定や補足を求めている

「茶色のセクター」はやってくるか?

一方、ドイツの製造業界からは、「情報開示義務については、企業、特に中小企業に過剰な負担がかからないように、配慮してほしい。さらに、欧州委員会は気候変動の軽減に貢献しない『茶色のセクター』を定義することも検討しているが、そのような行為は企業の資金調達を困難にする可能性があるので、やめてほしい」と訴えている

茶色のセクターというのは、いわゆるネガティブ・リストだ。たとえば燃焼効率が悪く、CO2排出量が多い褐炭火力発電所の運営は、茶色のセクターに入るだろう。

確かに「CO2排出量が多い」として企業内容が茶色のセクターに指定されると、投資家やアナリストの目が厳しくなるかもしれない。製造業界は、SCに関する今後の議論の中で、茶色のセクターの導入に強く反対するに違いない。
逆に環境保護団体は、気候変動に拍車をかける活動への資金の流れを減らすために、茶色のセクターをタクソノミーに盛り込むことを要求するだろう。茶色のセクターのリストが作られるかどうかは、今後のタクソノミーをめぐる議論の焦点のひとつだ。

現在、RWEやユニパーなどドイツの大手電力が発電ポートフォリオの中で再エネ拡大によって褐炭・石炭火力の比率を急激に減らしたり、将来減らす方針を発表したりしているが、その背景にはEUタクソノミーによる投資の流れの変化があるのだ。

欧州ではこれまでも企業活動の中で気候保護などの環境コンプライアンスは極めて重要だったが、今後はタクソノミーの導入によって、その度合いがさらに強まっていくだろう。

参照

TEG:”Taxonomy: Final report of the Technical Expert Group on Sustainable Finance”タクソノミー最終報告書 2020.3
TEG : Presentation on EU taxonomy - Stakeholder dialogue: progress and outcomes of the TEG’s work on sustainable finance - 24 June 2019
European Environment Agency (EEA)”Greenhouse gas emission trend projections and target”
TEG : Sustainable finance: TEG final report on the EU taxonomy 2020.3.9(タクソノミー・ツール)
TEG : “Presentation on EU taxonomy - Stakeholder dialogue: progress and outcomes of the TEG’s work on sustainable finance”2019.6.24
TEG “Technical expert group on sustainable finance: Spotlight on taxonomy”
BDEW “BDEW, BDI und DIHK fordern Industriebeteiligung an der Plattform für ein nachhaltiges Finanzwesen”(BDEW、BDI、DIHKが持続可能な金融のためのプラットフォームへの産業界の参加を呼びかけへ)2020/2/20
WWF:”NGOs set out demands for EU sustainable taxonomy”2020.5.25
IHK(ドイツ商工会議所)”Green Deal der EU: DIHK veröffentlicht Stellungnahme”2020.6.15
RWE : “Kapitalmaßnahme 2020”

熊谷 徹
熊谷 徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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