2020年8月、猛暑と山火事に見舞われる米国カリフォルニア州で、電力需給がひっ迫し、計画停電が実施された。そこには、どのような背景があったのか、電力需要と再エネが増加した供給のそれぞれの面をふまえてレポートする。
カリフォルニア 計画停電から緊急事態宣言まで
2020年8月、米国カリフォルニア州は歴史的な猛暑に見舞われた。これにより、電力需要が急上昇し、卸電力市場価格はニューヨークタイムスによると、8月15日土曜日に一時は3,800ドル/MWh(約400円/kWh)にも急騰したという。
また、それに先立つ8月13日にはカリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)が自主的な節電である「フレックスアラート(Flex Alert)」を需要家に向けて要請、翌日の14日の夕方には計画停電を実施した。
さらに、8月16日には、州中部のデスバレーで気温約54℃(華氏130度)を記録。過去に類を見ない熱波の影響により、西海岸では空調など電力需要の急増が続いたため、大きく増加した。これにより、電力需給がひっ迫したことから、8月16日、ギャビン・ニューサム カリフォルニア州知事は、CAISOや州のエネルギー関係機関らと協議を行った。翌週にかけて激化が予想される熱波に備え、電力不足の対策を講じた。その翌日である17日には緊急事態宣言に署名するという、異例の事態に発展していく。内容は、電力供給側の容量拡大を認め、停電回避を目的としたものだ。
Flex AlertのウェブサイトCAISOの「フレックスアラート」とは
CAISOが13日に行った「フレックスアラート」とは、CAISOが独自に行っているプログラムで、個人や企業に向けた節電の呼びかけだ。あくまで自主的な節電を促すもので、強制力はもたない。
要請されるのは、以下の3つのシンプルな節電対策だが、サイトにはこれ以外にも日常的に使える省エネの方法がしめされている。
- エアコンの自動温度調整(サーモスタット:冷房)を、午後3時から午後10時の間には華氏78度(約25.6℃)以上に設定する
- 午後3時から午後10時の間の主要な大型家電の使用を控える
- 不要な照明と電化製品をオフにする
ウェブサイトの説明によると、通常は夏の暑い日に、人々が帰宅してエアコンなどの電気製品を使い始める一方で、太陽光発電が急激に発電量を低下させる夕方に、要請されるという。この他、「計画外の発電所の停止」「送電線の損失につながる火災」「湿気、暑さ、暴風雨」も原因となる。アラートは通常は節電の対象時刻の1日前に通知されるが、緊急時には事前の通知なく発令されることもあるという。
フレックスアラートの通知方法はCAISOのアプリとウェブサイト、SNSなどだ。あらかじめ登録すれば、通知メールを受け取ることもできる。また、フレックスアラートを発令すると、CAISOはカリフォルニア州全体のメディアにも知らせる。
Flex AlertのTwitter前回フレックスアラートが出されたのは、2019年6月10日の午後4時から午後10時だ。この年は1回しか発令されていないが、過去10年間でも最大で4回の発令となっている。 2019年のケースでは、熱波が広がったことと、1,260MWの発電所のうち2つのユニットが故障していたことが発動の理由だった。このときは事前の通知はなく、発動5分前の連絡だったようだ。
しかし今回、8月13日のフレックスアラートでは電力需給のひっ迫が解決しなかった。その結果、CAISOは次の手段に出る。
カリフォルニアでは緊急事態宣言で2度の計画停電を指示
8月14日の夕方から、CAISOは、独自の緊急事態宣言を立て続けに発表している。午後5時ごろに「ステージ2」、さらに午後6時30分にはもっとも緊急性の高い「ステージ3」を宣言した。この「ステージ3」の宣言に基づき、CAISOは各電力会社に対して計画停電を指示した。
緊急事態宣言には、ステージ1からステージ3までの3段階がある。第1段階はエネルギー使用の削減の呼びかけ、第2段階はCAISOによる発電所稼働の指示、そして第3段階では各電力会社に対して計画停電を指示する。
この計画停電は、8月14日の午後6時30分ごろから約3時間にわたり、州全体で約30万世帯に影響した。同日の午後8時ごろには故障していた1,000MWの電源が回復したため、午後9時ごろに緊急事態宣言が解除された。この1,000MWの電源の故障については、どのような発電種別なのか、なぜ故障したかについての詳細な説明はない。また、緊急事態宣言を発令したときには言及されていなかった。
翌15日は、熱波による電力需要の増加に加え、想定外の電源の喪失が発生した。470MWの発電所とこれとは別に1,000MWの風力発電が機能しなかったのだ。そのため、午後6時30分ごろ緊急事態宣言の「ステージ3」を発表し、470MWの計画停電を実施した。風力発電の回復に伴い、この計画停電は20分ほどで終了した。
CAISOウェブサイトより最後の砦、バックアップ型容量市場は機能したのか
カリフォルニア州には、州政府やCAISOによる容量調達の仕組みが複数存在している。このうち、CAISOが行うCapacity Procurement Mechanism(CPM)は、州政府がカバーできない偶発的な事象に対応するためのメカニズムで、2016年に導入された*1。「バックアップ型容量市場」という位置づけのため、容量調達の最後の砦とも称される。
CPMは、あらかじめ、競争募集プロセス(Competitive solicitation process)を通して入札によって調達される。落札者は、年次と月次の実証で供給可能性を証明しなければならない。また、この競争募集プロセスに含まれない電源でも、CAISOは例外的に募集することができ、「ディスパッチCPM」と呼ばれる*2。この場合の調達期間は30日間とされている(ディスパッチは給電指令の意味)。
実は、8月14日と15日の計画停電の際には、通常のCPMもディスパッチCPMも発動されていなかった。
8月のCPMレポート*3によると、通常のCPMは17日から19日の3日間、ディスパッチCPMは16日と17日の2日間に実施されている。
カリフォルニア計画停電のその後
一連の流れを受け、ニューサム カリフォルニア州知事は8月17日、州政府機関である公益事業委員会(CPUC, California Public Utilities Commission)とエネルギー委員会(CEC, California Energy Commission)、CAISOの3者に宛てた文書*4で、より信頼できる電力サービスの構築と計画停電に至った根本の原因を掘り下げて検証するよう求めた。さらに、CAISOに対して、停電の可能性を住民や企業にしっかりと警告するよう要望した。
その後、「ステージ2」の緊急事態宣言は3回、フレックスアラートは4回発令されたが、10月1日までに計画停電は実施されていない。10月1日にも季節外れの熱波による需給ひっ迫が懸念されたものの、大事には至らなかった。事態はいったん収束したと考えてよいだろう(フレックスアラートは10月3日にまた発令された)。
しかし、今回の2度の計画停電は本当に避けられなかったものなのかは、依然として疑問が残る。また、需給ひっ迫の原因も検証されるべきだ。
フレックスアラートは、増加する太陽光発電における、夕方の急激な発電量低下を前提としているが、それだけでは計画停電にいたることはない。
確かに猛暑で需要が急増したことも事実だし、あるいは山火事の影響で送電できない発電所があったという可能性もある。その上で、それ以外の理由で発電を停止している発電所はどのような状況だったのか。
電力量の3分の1を占める、州外からの輸入が十分確保できなかった可能性も指摘できる。こうした事態に対応するべき、幾重にも張り巡らされた容量調達システムが13日、14日に活用されず、結果として十分に機能しなかったのはなぜなのか。
CAISOらによる真相の究明が一層求められる。
- *1 一般財団法人日本エネルギー経済研究所「平成28年度電力系統関連設備形成等調査事業 (海外の容量メカニズムに関する調査) 調査報告書」2017.3
- *2 California ISO “Capacity Procurement Mechanism Significant Event - Intent to Solicit and Designate Capacity” 2020.9.30
- *3 California ISO “August 2020 Significant Event and Exceptional Dispatch CPM Designations Report” 2020.8
- *4 ニューサム カリフォルニア州知事の文書 2020.7.17